屋上の制裁と、ちょっと怖い恋の始まり
放課後。
私は、屋上で取り囲まれている。
……はい、またです。
人生二度目の“修羅場 in 学校”。
しかも同日とかマジあり得ないんですけど。
リーダー格はもちろん、元・生徒会長親衛隊の新先輩。
笑顔ゼロ、怒気120パーセント。
ドロッドロの醜いオーラが見えるのは、きっと私の気のせいだよね?
「ねえ、藤原さん。なんで突然“会長秘書”なの?」
「さ、さあ……何のことでしょうか?」
「とぼけないで!」
ヒィィィィ……。
「空席だったはずの“会長秘書”が突然決まるとか!おかしいでしょうが!」
「私はやるとは言ってないんですが……。」
「お黙り!」
全く話を聞いてくれる気もないとは。
「今日の昼休みの会話、私たちは全て、聞いているんだからね!」
「聞こえにくかったけど、頑張って聞いたのよ!」
そんなにしてまで聞きたいものなの?
もうそれってストーカーじゃん!
「貴女だけ特別扱いとか、納得いかないんですけど?!」
「私、断っていましたよね?聞いていましたよね?」
「最終的には、OKしたようなもんじゃない!」
「そ、それは……。」
「許せないわねぇ?」
「本当!」
「制裁、決定!」
……出た、その単語。
今まで、彼女たちの制裁にあったという人たちの話が、突如脳裏に蘇る。
『もう帰りたい!誰か助けて!』
そう思った瞬間。
「キャッ!」
突如、風が吹いた。
……いや、風じゃない。砂だ。
視界が一瞬で茶色に染まり、
前方に――腰の曲がった影が見えた。
「え?」
あのシルエットは、つい最近お見かけしたような。
『もしかして砂かけおばあちゃん!? なんで現場出張!?』
保健室にいたんじゃなかったの?
『お嬢ちゃんを泣かす奴は許さないよ!』
ヒーロー降臨?!
女子たちには、彼女の姿はもちろん、声さえも聞こえていないようだった。
「目がぁぁ!」
と一斉に自分の両目を押さえ、パニックになっている。
そこへ――フェンスの上から声。
「トリック・オア・パンツ!」
どうやら、今年のハロウィンは理性のかけらもないようだ。
見上げれば、頭に皿、背に甲羅。
ちっちゃなカッパ軍団がいつのまにか、女性の下着を片手にブンブンと振り回してながら、走り回っている。
「まさか、それ……。」
考えるだけで恐ろしいのですが。
「キャー!私のパンツー!」
「どういうこと?!」
「嫌だもう!! パンツが勝手に~っ!」
今度は彼女たちがスカートを押さえ、叫びまくっている。
彼女達視点で説明しますと。
自分たちが履いていたはずのパンツが、なぜか周りでふよふよと動いているということ。
怖いよね?見えないって。
でもね、見えても怖いんだよ。
それにしても。
――なにこの地獄絵図。
「君たち、何をしているんだい?」
突然の低い声に、思わず体が飛び上がる。
背後から聞こえるのは、聞き覚えのあるあの“魔王ボイス”。
といいますか。
さっきよりもかなり低いんですけど。
振り返れば魔王様……もとい、生徒会長が入り口に立っていた。
女子たちの悲鳴がピタリと止まる。
笑顔のはずなのに、空気が凍る。
「砂婆、やれ。」
小さく命じた瞬間、再び砂嵐が炸裂した。
視界ゼロ。
その中で、突然、腕を引かれた。
「危ない、こっちだ。」
え。
なんかいい匂いがするんですけど……。
気がつけば、会長の腕の中?!
「ちょ、ちょっと! 近っ!」
「暴れるな、落ちるぞ。」
顔が近い。
声が低い。
笑ってるのに、…怖い。
なのに――会長の心臓の音が、何故か私を落ち着かせる。
しばらくすると、砂嵐が止んだ。
女子たちは、泣きわめきながらの即・撤退。
砂かけおばあちゃんは、やり切った感ですっきり笑顔。
カッパ軍団は、勝利の証にと、地上へパンツを放り投げた。
会長は、任務完了報告に来たおばあさんの頭を撫でて、微笑んだ。
「よくやったな。偉いぞ。」
妖怪には、そんなに素敵な笑顔を見せられるのにもったいない。
おばあちゃんは、まるで思春期の乙女のように照れて真っ赤になっている。
……まあ、恋愛もボケ防止になりますしね。
これで一段落と、そっと会長の腕をほどこうとすると、
「お前、何をしている。」
低音ボイスが、頭上から降ってきました。
瞬間、フリーズ。
さっきより腕に力を込めるから、動けないのですが。
「え? だって……。」
「俺のそばを離れるから、こんな目に遭うんだ。」
「もしかしてそれ、四六時中一緒にいろって意味じゃないですよね!?」
「その通りだが。」
なんでドヤ顔。
「お前は俺の傍にいて、俺だけに守られていればいいんだよ。」
……えっと。
「いや、その、私にも生活が……。」
「生活も俺が見てやる。」
「いやいやいやいやいや!」
圧が強い。
でも、なんか本気っぽい。
ふっと目を伏せ、満足げに言った。
「怖がるお前を守るのが、俺の生きがいなんだ。」
……今日も、意味がわかりません。
――こうして私の、平凡な日常は終わりを告げた。
『お前が怖がる顔、嫌いじゃない。』
……って言っても、今日もまたドン引きされるんだろうな。
そんな風に寂しそうに笑う会長を、私はまだ知らない。




