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残酷描写があります

日が昇る前に起床し、身支度しているとフェリクスも起きてきた。

寝癖で自慢の金髪が逆立って箒みたいになってて少し面白い。

「おはよ〜。早いな」

「昼まで狩りに出る」

「俺も行く〜」

「5分後に出るぞ」

「……せめて15分ください……」

しわくちゃな顔でお願いされたから待ってやることにした。

朝飯に昨日の残りを食べて、狩りで使う弓の点検をしておく。

鳥型や兎型、鹿型の魔獣は物音に敏感なので遠距離で狙わないといけない。

猪型や熊型などは襲ってくることもあるから、その時は剣を使う。

15分を少し過ぎた頃、フェリクスが身支度を完了したようだ。

「準備出来ましたぜ旦那! いつでも出られます!」

「遅せぇ」

「寝癖の野郎が悪いんですぜ旦那ァ!」

朝からハイテンションなので1回ぶん殴っておくか。

ギャンギャン文句を言っているが無視した。

村を離れて山の中に入ると、新鮮な空気を目いっぱい吸い込む。

早朝の澄んだ空気は好きだ。

街中にはない、穏やかで静かな空間。

所々に生えてる薬草を摘みつつ獲物を探す。

「2キロ先にミストリープがいるっぽい」

フェリクスが遠くを見つめて呟く。

探知魔法を使っているのだろう。

俺と違って魔法適性が高いから、色んな魔法を使えるからな。

「……大きさは?」

「んぁー……5キロはありそう」

「じゃあ狩る」

ミストリープは兎型の魔獣で、その名の通り霧を纏っている。

驚かせたら霧を分散させてその脚力で跳ね上がり、敵が見失った隙に逃げるからバレないようにしないといけない。

3キロ以下は狩りの対象外だ。生態系は守らないといけないからな。

「消臭と消音魔法」

「はいはい……人使い荒いわよね貴方って……でもそういうところがスキ……」

「キモイ」

「ストレートに酷い」

オネェ座りでメソメソ泣き真似をしながらも魔法をかけてくれたフェリクスを放置して進む。

少し開けた場所に、目当てのミストリープがいた。

まだこちらには気づいていないようだ。

矢に風属性を纏わせ、弓を引く。

狙うのは胴体。頭は稀に魔石が出てくるから、射抜いたら砕けてしまう。

矢を放つと、風属性のおかげで発射速度が上がった矢は一直線にミストリープの首元に命中した。

「……お見事。弓も出来るんだ」

「練習した」

「どんくらい?」

「3日」

「バケモンがよォ!」

また喚き出したフェリクスを放置して、ミストリープの血抜きをしておく。

すぐ帰るわけじゃないから、きちんと血抜きをしておかないとせっかくの獲物が不味くなってしまう。

手際よく毛皮を剥いでフェリクスに放り投げると、簡単な洗浄魔法と保存魔法をかけてくれた。

「これどうすんの?」

「村の子供が欲しがればやる。いらないなら売る」

「冬の需要に合わせて売った方が良くね? まだ夏だし」

「夏場の獲物の毛皮を保存する術が俺にあるとでも? あと夏毛の毛皮は冬に向かない」

「確かにカニカニ〜」

「ウザイ」

これだから魔法で全部解決出来る奴は。

フェリクスは魔法バッグを持っているので、肉も処理を終えたら渡しておく。

「こき使ってくれるのはいいけどさ、俺にも分けてくれよ? 保存食なくなっちゃった」

「だから昨日俺の食料使ってたのか」

「うん。途中で狩ろうにも、この辺の魔獣魔法耐性高くて俺には無理だったんだよね」

「山だからな」

魔獣は基本陸地なら高ければ高いほど、海なら深ければ深いほど魔法耐性が高くなる。

人里から離れれば離れるほど、精霊達がわんさか住んでいるからだ。

洞窟の魔獣なんて土精霊のおかげで擬態が上手くてなかなか見つけられない。

フェリクスは魔法は得意だが武器は才能がないから、この辺りの魔獣は狩りにくいだろう。

魔法士達は痩せの大食いが多い。

単純に頭を使うし、魔力を生成するのは結局身体だからな。

「……お前に分けるとなると、1匹じゃ足りんな。小型なら3体、大型なら2体必要だ」

「へいへい、お任せあれ」

探知魔法を使うフェリクスを尻目に、小さくため息をつく。

こりゃ昼には終わらんな……。


結局夕方までかかったが、ミストリープ3体と鳥型魔獣のプルームフェンを2羽、熊型魔獣のストーンベアを1頭捕まえた。

途中グラヴェルベアが出た時は焦った。

流石に山の守り神と言われる魔獣は狩ってはいけない。

捕まえたプルームフェンを1羽献上したら見逃してくれたが、冬眠明けだったら問答無用で襲ってきていただろう。

今が夏で良かった。

「いやー助かるわマジで。素材もたくさんあるし、しばらくは困らんだろ」

「……村の人達に分けるから、そんなに持たないぞ」

「そうなの? 村人たちは狩りに出ないの?」

「子供を除けば高齢者達ばかりだからな。魔法を使える人も少ない」

家屋自体は20戸程あるが、半分は空き家だ。

ある程度の年齢になると数少ない若い男性は徴兵されているし、若い女性達は出稼ぎに出る。

帰ってくるのは年に数回程度、中には全く帰ってこない人達もいる。

「限界集落って感じだな。子供は?」

「街で産まれた子達だ。ここには医者がいないからな。仕事と育児の両立が難しいと判断した親が、自分の親に預けてる」

「世知辛いねぇ」

雑談をしながら帰り支度をしていると、ふと鼻につく臭いに気づいた。

スンと鼻を鳴らすと、フェリクスもそれに気づいたらしい。

「……焦げ臭いな。方角は?」

「…………村の方だ」

嫌な予感がして、急いで荷物をまとめる。

フェリクスもふざけた調子を引っ込めて険しい表情だ。

「アーリエン!」

「クルルッ」

フェリクスが呼ぶと、使い魔のグリミアルが出てきた。

梟型と猫型の魔獣を合わせたような知的型飛行獣だ。

漆黒の体毛に夜光のような青い模様が浮かび上がっていてとても美しいが、今はそれどころではない。

「乗れ! レオン!」

「助かる!」

アーリエンの背中に飛び乗り、フェリクスが合図すると飛び立つ。

僅かに離れた村が、夕日とは別の赤色に染まっているのが見えた。



村は壊滅状態だった。

建物は火に包まれ、道には村人達が転がっている。

中には荷物を抱えて逃げようとしたのか、ズタズタにされた袋を握ったまま息絶えている者もいた。

皆の身体には斬られた傷があり、老人だろうが子供だろうがお構い無しだ。

「これは……なんて惨いことを……」

フェリクスが口元を抑えて眉間に皺を寄せる。

戦争で経験したことがあるとはいえ、この惨状には言葉も出ないようだった。

体の内で暴れているものを押し殺し、生存者がいないか確認する。

「マーシェ……ビオ……ナヅナ……マール……エルルカ……」

子供たちは礼拝堂にいた。

誰一人として息をしていない。

表情は絶望に染まっており、どれだけ辛い最期を迎えたのか容易に想像出来た。

最年長のマーシェが一番手前で、残りの4人は机の下。

昨日まで笑顔で話しかけてくれた子供たちが、物言わぬ亡骸となっている。

「……ミナ、ミナがいない」

今日は花を売りに行く日ではない。

子供たちの目を閉じさせて、俺は急いでミナを探した。

おそらく家にいるはずだ。

病気の母親を置いて、逃げるような子ではない。

走ってミナの家へ向かうと、家屋は焼け崩れていた。

「ミナ……! ミナ、どこにいる!! 返事を……返事をしてくれ……!!」

瓦礫を素手で押しのけ、ミナを探す。

手が傷だらけになっても構わなかった。

「アーリエン、瓦礫をどかしてくれ!」

「クルッ」

フェリクスとアーリエンも手伝い、崩れた壁を押しのける。

生存は絶望的だが、それでも手は止まらなかった。

「レオン……こっちだ」

フェリクスに呼ばれて駆け寄ると、そこにミナはいた。

片腕を失い、崩れてきた建物によって顔の半分を潰され、足はあらぬ方向へ向いている。

「ミナ……」

震える手で瓦礫を押しのけ、ミナを抱き抱える。

その時、ミナの片方の目が僅かに開いた。

「……レ……さん……」

「ミナ……!!」

「この状況で……嘘だろ……」

ミナの顔に手を当てると、ミナは握っていたものを手渡してきた。

「生き…………良か……た……これ…………」

それは、ミナが大切にしていたネックレス。

土と血で汚れたそれは、炎に照らされて鈍く光っていた。

「…………大事に…………てね…………笑っ…………て……?」

こんな状況でも、彼女は微かに笑っていた。

こんな状況でも、俺の安否を心配してくれていた。

「ミナ…………すまない、すまない……」

笑えと言われたのに、情けない表情しか出来ない。

もし笑えたとしても、彼女には見えていないだろう。

俺にネックレスを手渡し、彼女は事切れた。

彼女の亡骸を抱えていると、後ろから足音が聞こえた。

「ようやくお出ましかぁ。遅かったな、村人全員殺すまで出てこないなんて……案外薄情なやつだなぁ」

黒いローブで顔は見えないが、戦い慣れた雰囲気を感じる。

男は待ちくたびれたと言わんばかりに伸びをしている。

「…………誰だ」

「俺? ただの傭兵だよ。お前を探してたんだけどさぁ、なかなか見つからなくって。でもそこの金髪に見覚えあったからつけてきたんだ。そしたら……ビンゴってやつ」

フェリクスが息を飲むのが聞こえた。

つけられているなんて思ってもいなかったんだろう。

後ろに立たれるまで気配を感じなかったし、あのローブには隠密魔法がかけられているのかもしれない。

「村人にはな、言ったんだぜ? レオンを出せってな。そしたら連中、しらばっくれてさぁ……ここにはいないだの、知ってても教えないだの……こうなるのは、仕方ないよなぁ。俺のせいじゃないよなぁ。お前が、ここにいなかったのが悪いよなぁ? つけられたそいつが悪いよなぁ!?」

どんどん語気が強くなる男。

その目は正気じゃなかった。

その目には、見覚えがある。

「……戦士保護区の奴だな」

「わぁ、バレちゃった。そうだよ、お前を殺せって言われたんだ。誰だっけ……ああ、ロザリアだ。あの忌々しいクソ女に命令されたんだ」

ロザリア……ロザリア・クルーエルだろう。

ヴァルハイン同盟国の女将軍で、以前の俺の上官だった。

あの女の命令か。なら納得出来る。

ミナをそっと置き、剣を手に取る。

柄を握る手に、力が入った。

「そんな怒るなよ。お前も経験したことあるだろ? たかが数十人死んだくらいでさ、怖い顔するなよ」

「黙れ」

火属性を纏わせ、男に斬りかかる。

男は咄嗟に避けようとしたが、フェリクスが闇魔法を使って影で男の足を取ってくれたおかげで、一太刀で済んだ。

男は言葉を発することも出来ずに崩れ落ちる。

男のローブにはヴァルハイン同盟国の紋章が描かれていた。




夜が明けても、火は燃え続けていた。

俺とフェリクスは手分けして村人達を移動させ、穴を掘って埋める。

村人達が埋まった場所を見つめていると、ずっと無言だったフェリクスが口を開いた。

「……俺の、せいだ。俺が……俺が来なければ……」

「……違う」

掠れた声だった。

ネックレスを握りしめ、フェリクスを見る。

「……俺には懸賞金がかけられている。金目当ての連中が、ここに来る可能性は大いにあった。……俺が、ここに長居したせいだ」

「レオン……」

ミナのネックレスを剣の鞘につける。

俺の首にはつけられない。

「……全部、壊す。国だろうが、世界だろうが。

…………その先で、誰かが生きられるなら」

「……手伝わせてくれ。お前を独りにしたくない」

「……あぁ」

俺とフェリクスは、村を後にした。

救いがないとしても、花が咲かなくても。

守れなかった、巻き込んでしまった村のために――また、俺は戦いを選んだ。

プロローグ終了です

次回からヴァルハイン同盟国編が始まります

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