恋占いによると王太子様の運命の相手は私のはずなんですが
【1.水晶玉】
アリーは地味な服装で半分顔を隠しながら、王都のメイン通りを一本入った少し薄暗い路地を歩いていた。人づてに聞いた目的の店は、この路地沿いにあるという。
アリーは注意深く店の看板を探しながら歩いていたが、やがて「ここか」と立ち止まった。扉にはあまり目立たない文字で『デボラの店』とある。
オークリル侯爵家の令嬢であるアリーが、ほんの少しのお供を連れお忍びのようにやってきたのは、実はたいした理由はない。
「エイプリルフールの小ネタを探しに来たの」
アリーは店に入るや否や、迎えてくれた店主のデボラに言った。
デボラは特別驚きもせず軽く笑って、
「いらっしゃいませ。じゃあこちらなんかいかが?」
とアリーを奥の棚へと誘導した。
棚にしまわれている物を見てアリーは目を見開いた。
「これは、水晶玉?」
「そうですよ。水晶玉占いなんかネタになりますでしょ?」
デボラは棚から水晶玉を取り出し、得意げにアリーに見せる。
アリーは確かに水晶玉なんておもちゃは何とでも使えそうでエイプリルフール向きだなと思いながらも、
「私魔女じゃないんだけど、それっぽく見えるかしら」
と確認した。
しかしデボラの方は平気な顔をしている。
「大丈夫。これは魔女じゃなくても使えます」
「え、魔女じゃなくても使える……? って、どういう……?」
「普通の水晶玉ですよ。あら、水晶玉じゃご不満ですか? じゃあ別の物にしましょうかね」
とデボラがせっかちそうな様子で体を揺すり、さっさと水晶玉を棚に戻そうとするので、アリーは慌てて、
「あ、待って、待ってちょうだい。これでいいわ……」
とデボラを制し水晶玉を購入する旨伝えた。
【2.試しに占いを】
そんな適当な感じでアリーが水晶玉を手に入れた翌日、友達のマーサが訪ねて来た。マーサ・グレイリー伯爵令嬢。成金伯爵家の令嬢として王宮では他の令嬢たちから鼻つまみ者扱いされているが、アリーはマーサのあっさりした性格が気に入っている。
マーサは親し気に尋ねる。
「エイプリルフールは何か考えてるんですか?」
「ええ、皆が期待してそうやって聞くんだもの。水晶玉をね、手に入れたわ」
「へえ、面白そうじゃないですか。『実は私魔女だったの』とかやるんですか?」
「そうよ」
「楽しそうですね、水晶玉か。ちょっと占ってみせてくださいよ」
マーサはまだエイプリルフールまで日があるにもかかわらず遠慮がない。
しかしアリーの方も、これは本番に向けてのいい練習になると思った。
「いいわよ。何を占ってほしい?」
「もちろん『運命の人』でお願いします!」
マーサは途端に目を輝かせて身を乗り出す。
アリーは笑った。
「最重要事項ね。だけど……どうやって使うのかしら。しまった、使い方聞き忘れたわ」
「何それ。使い方大事!」
「だって、エイプリルフールのおもちゃよ? あんまり本気にしないじゃない」
アリーは、デボラのせっかちペースにつられて大事なことを聞き忘れたことを反省しながら、言い訳がましく答える。
するとマーサは急にがっかりした顔をした。
「おもちゃ? じゃあこれ、偽物なんですか?」
「そりゃそうでしょう! 本物の訳ないわ」
「まあ、つまらないですね」
「そんな露骨にがっかりしないでよ、マーサ。でもいいじゃない、面白いかもしれないわ。見よう見まねで占ってみるわね。『水晶玉よ、マーサの運命の人はだあれ?』これでいいかしら」
アリーはわざと明るい声で適当に呪文っぽいものを唱えてみた。
アリーは自分でもすごく適当だと思ったが、不思議なことに、呪文として効果があったらしい。
急に水晶玉が怪しく光ると、中に靄が渦巻き出したのが見えた。
「え!? 何か反応が」
とアリーが驚いていると、
「あら、なんか本物っぽいじゃないですか」
とマーサが期待に目を輝かせた。
アリーとマーサは頭を寄せて水晶玉の中を覗き込む。一体マーサの運命の人とは誰で、そしてどんなふうに水晶玉に映し出されるというの?
水晶玉の靄はぐるぐる渦巻いていたが、やがて濃淡がはっきりしだした。
それから、なんだか濃淡だけで表されていた輪郭に淡い色ながら色彩がつき、そしてついには水晶玉の中に景色や人物が映し出された。
驚いたことに、まず水晶玉に映されたのは、アリーとマーサが膝を突き合わせて座っている、今まさにこの場の光景だった。
「あれ? これって、今?」
とアリーが思っていると、やがて場面が移った。
今度はアリー宅からの帰り道に、マーサが所用で寄った商店に入ろうとする場面だった。後から来た一人の男性が割り込むようにしてさっと商店の扉を開けた。そして、マーサを振り返ると軽くウインクしたのだった。
アリーもマーサも水晶玉に魅入られていたが、その意味ありげなウインクにハッと息を呑んだ。その男性はライアン・ウィリアムズ伯爵令息だった。
水晶玉の中のライアンは何やらマーサに話しかけている。
マーサが胡散臭そうな顔でライアンを見ているのにはお構いなしで、ライアンはマーサを店の奥に引っ張っていった。ライアンと店主は口裏合わせていたのか、店主が飄々とした顔で小さな木箱をライアンに渡した。ライアンは何か言いながらそっとマーサの手を取り、木箱の中から取り出した宝石の煌めくブレスレットを巻きつけた。そしてそのままマーサの手の甲に軽くくちづけをし――。
「これって……」
食い入るように水晶玉を見つめていたマーサが、掠れた声を発した。
アリーもはっと我に返った。
「あなたの運命の相手って、ライアン様ってこと? すっごいわね。名門ウィリアムズ伯爵家のライアン様と言えば、王宮中の令嬢たちが熱をあげるイケメンじゃないの。あなた令嬢たちに刺されるんじゃない? すごいわね!」
マーサは逆に「ははっ」と苦笑した。
「本当によくできた占い遊びですね。最初に今の私たちが映ってたってことは、これは今日この後のことって感じですよね。私、確かにこの後こちらのロバートソン商店に行く用事があります。そこで、ライアン・ウィリアムズ様にプレゼントをいただく? 私みたいな鼻つまみ者の成金令嬢が?」
マーサがおどけたように首を竦めて見せたので、アリーもつられて笑ってしまった。
「ふふ、でもこんな占いなら悪い気しないんじゃない、マーサ?」
「そうですね。現実と乙女の妄想を織り交ぜた夢の世界って感じです。これなら誰も傷つかないし、エイプリルフールにはもってこいのアイテムかもしれないですね」
「そうね。なかなか面白いじゃない!」
アリーは、良いものを手に入れたな、とほくほくした。妄想おとぎ話のような水晶玉占い。あり得ないけどそうだったら嬉しいな、という夢を見させてくれる。これはなかなか使えそうだ。
しかし、アリーには誤算があった。
この日の夕方に分かった事だったが、なんとマーサがロバートソン商店で、本当にライアン・ウィリアムズ伯爵令息に告白されたらしい。
水晶玉と何もかも同じ状況で!
マーサはあの水晶玉が真実を占ったということにとびきり驚いて、慌てて使者を寄越し手紙をアリーに届けさせたのだ。
マーサからの手紙を読んだアリーは一瞬ぞくっとした。
「この水晶玉が本物? エイプリルフールの小ネタじゃなかったの!?」
【3.自分の運命の相手は】
アリーの水晶玉の件は瞬く間に大評判になった。
王宮であまり快く思われていないマーサが世の令嬢の憧れイケメンを勝ち取っただけでも大騒ぎだったし、しかもそれが『水晶玉のおかげ』だというのだから!(※事実と違う)
翌日からもう、次から次へと令嬢たちがアリーを訪ねてきては「占って」と頼む。
アリーもマーサばっかり贔屓しているとか陰口を叩かれたくなかったので、できるだけ応じるようにした。
「あなたの好きなクラウス様もあなたのことが好きなようです」
「あなたはダグラス様とは残念ながら結ばれません。ダグラス様の好きな人はベッツィー嬢だそうです」
「あなたはゲイリー様に誕生パーティで断罪・婚約破棄をされます。でも、あなたはすでに今この占いにより未来を知っていますから、そのときまでにはフラグを全部へし折り、婚約破棄&断罪劇はみごとなざまぁ劇になるみたい」
といったように。
そして「当たったわ!」とか「役に立ったわ! ありがとう」とかいう声がたくさんアリーに寄せられたのだった。
そうするとアリーも少し興味が出てきた。自分の運命の相手は誰かということに。
アリーはずっと水晶玉がおもちゃだと思っていたのだが、こうして「当たった」という声を聞くと、占いを信じる気持ちもむくむくと湧いてくる。アリーは散々迷ったけれど、ついに自分を占ってみることにした。
「水晶玉さん、私の運命の相手は誰?」
アリーは言ってしまってからドキドキする。水晶玉に映るものを一秒たりとも見逃したくない気持ちでじーっと水晶玉を見つめた。
なるほど、他の依頼者たちもこんな気持ちだったのか。
するといつものように、水晶玉の中に靄が渦巻き出し、そして何かの像を形どり始めた。
アリーは固唾を呑んで見守っている。
やがて靄はまとまりだし、濃淡がはっきりしてきて――。
最初の映像は神詣でだった。霊山山腹の大神殿へと、奥深い山道を身なりの良い人たちの行列が行く。
新緑の季節とはいえ、山道は生い茂る樹々で薄暗い。そんな中を行列の人々は厳粛な空気を纏ってしずしずと歩いて行くのだった。
そして水晶玉の映像は次に移った。
樹々の隙間から急に白っぽい背景に変わったのでアリーは「ん?」と思って目を凝らした。よく見たら、それは『滝』だった。水しぶきが散り背景が白っぽくなっているのだ。
そして滝つぼの脇の岩場で、一人の男性が怪我をした足を庇うようにして座っている。水晶玉がその男性の顔を映すと――なんとそれは我が国の王太子だった。
「え、王太子様!?」
水晶玉の中のアリーが王太子に駆け寄ると、王太子はほっとしたような目をアリーに向けた。水晶玉の中のアリーは何やら言いながら、王太子の腕を引き自分の肩を貸そうとしていた。
そして水晶玉の映像はさらに次へと移った。
霊山山腹の大神殿の中庭である。真っ白な小石を敷き詰め、大小さまざまな形をした岩がバランスよく配置された、殺風景な割には緊張感漂う中庭だ。
王太子は一つの岩に腰かけていた。足には包帯がまかれていた。
水晶玉の中のアリーが遠慮がちに王太子に近づいて行った。王太子は微笑んで何か言い、アリーが恐縮して跪こうとするのを、さっと腕を伸ばして引き留めた。そのままアリーに隣の岩に座るように促すと、手を伸ばしてそっとアリーの髪の毛に触れた。水晶玉の中のアリーは驚いて王太子を見つめ返し――。
水晶玉を覗き込むアリーの心臓がトクンと音を立てた。
これは、まさか!?
まさか王太子様が運命の相手だと言うの?
水晶玉に映った神詣では、5年に一度新緑の季節に行われる宮中行事だ。今年もすでに日程が決まり、選出された王宮メンバーが昔ながらの手順で参拝することになっている。
水晶玉があまり占いに関係のない映像を見せることはないから、きっとこの日に、アリーはどこかの滝で怪我をした王太子を救け、そしてそれをきっかけに王太子と親しくなるのだろうと思われた。
アリーは半信半疑だったが、王太子が怪我をする未来を知ったのだということにふと気付き、自分の運命の相手の前に「まずは道義的に王太子を助けなければ」と思い至った。
しかし、神詣での日に滝で王太子を助けるにしても、まずはこの滝がどこにあるかを知らなくては助けに行けないと思った。
そこで霊山付近の地元住民に道案内を頼み、近隣の滝を歩いて探すことにした。
本当は地元住民に水晶玉の映像を見せて場所を聞いた方が早いとは思ったが、かなりプライベートな内容なので無関係な者にはリスクが高く見せられない。そこで自ら出向くことにしたのだ。
侯爵令嬢が自ら滝探し!ということで、家中の者はだいぶ訝しんだが、アリーは怯まない。
案内された一つ目の滝は、水晶玉の光景と違った。
二つ目の滝も、違う
三つ目の滝を訪れて、やっとアリーは「ここだ!」と思った。
そして神詣での日。アリーは「人命救助」と自分に言い訳しながら、ドキドキ半分でその滝へ行ってみたのだった。
しかし、王太子はいない。
アリーは「あれ?」と思ったが、まあ時間が前後することもあるだろうと、もう少し待ってみた。
しかし待てども待てども誰も来ない。
結局その日一日、滝周辺では何のイベントも起こらなかった。お供の者は面と向かっては何も言わなかったが、内心アリーに文句いっぱいなのがびしばし伝わる。
アリー自身も「やはり嘘だったか」とだいぶ落胆していた。
と同時に、
「なんで私だけ占いがはずれるの? 持ち主のことは占えないの?」
と悲しく思った。
映像としてはあんなにはっきりと見えたのに!
あの滝だと思ったけど、実は別の滝だったとか?
なんとなく占いを諦めきれないアリーは、あまりにも気になったから、王太子の側近を務めている幼馴染の男友達に「王太子様は神詣での日は滝に行ったか」と聞いてみた。
幼馴染は怪訝そうな顔をした。
「ずっと王太子様と一緒にいたけど、滝には行ってない」との返答だった。
アリーは「水晶玉、間違いじゃないの!」と叫びそうになるのを必死に堪えた。しかしアリーは「まあ人生ってそんなもんだから」となんとか自分を宥めて、あんまり何でも期待するのはよくないと自分を戒めた。
【4.不具合】
さて、自分の占いが見事にはずれてしまったアリーだったが、この不具合が他の依頼者の場合にも起こってしまっては大問題だということに気づいた。
アリーと水晶玉の話は話題になっていて、いまだに依頼者はやってくる。アリーが「不具合で無理」と言っても、「だって皆は当たったって言ってたわよ? 私には未来を言えないような何か不吉な事情でもあって?」なんて聞かれてしまうとどうにも断りづらい。
そこで、水晶玉を購入した『デボラの店』に不具合を調べてもらうことにした。
デボラはアリーと水晶玉を見ると、前回同様のせっかちな仕草で速足で近づいてきて「返品ですか? エイプリルフールには役に立たなかったですかね?」と水晶玉をアリーから取り上げた。
アリーはハッとした。
「あ、そうだったわ、元々はエイプリルフールの小ネタのつもりだったわね。すっかり忘れてたわ。えっと、役に立たなかったことはないのよ。ただね、ちょっと……。この水晶玉って、自分のことは占えないのかしら?」
「そんなはずはありませんけどね」
とデボラは首を傾げ、注意深く水晶玉を見た。
そして、急に素っ頓狂な声をあげた。
「ああー!」
アリーは驚いて顔を上げた。
「何?」
「ごめんなさいね、私、変な設定を入れちゃってましたわ」
デボラが苦笑する。
「変な設定?」
「ええ。エイプリルフール設定」
「は? 何その設定」
「うん、テキトーな未来を見せて、嘘ですよーっていう」
デボラはきまり悪そうに頭を掻いた。
アリーはへなへなと体から力が抜けるのを感じた。
「はは……ああ、そういう……」
「ごめんなさいね、水晶玉が勝手に未来に嘘をつくの」
デボラは申し訳なさそうだ。
アリーは合点がいった。
なるほど、きっとアリーが自分を占ったのは4月1日だったに違いない。エイプリルフール設定がアリーにおちゃめな嘘を見せたのだ。
デボラはてへっと笑った。
「でも大丈夫ですよ、設定は4月1日だけですから、もう普通に占えるはずです。やってみましょう。水晶玉さん、この人の運命の人は誰?」
デボラは相変わらずせっかちな様子で、アリーに是非も問わずに占いを始めてしまった。
「え、ちょっと……!」
アリーは突然すぎて戸惑ったが、もうデボラは水晶玉に聞いてしまっている。
アリーは観念して恐る恐る水晶玉を覗き込んだ。――そして、ふうっとため息をついてから呟いた。
「だめよ。この水晶玉、まだ調子悪いみたい。前回と同じ。王太子様が見えるわ」
デボラは目を上げる。
「えー? もう普通に占えるはずですけど。前と全く同じ?」
「えっと、同じっぽいけど。ん? ちょっと違う……?」
同じ鮮やかな緑の季節だけど、前回とは少し緑の雰囲気が違うような。そして背景は……水っぽいけど、何となく前回の滝とは違うような――。えっ、違う? 違うってことは、えっ、もしかして?
デボラの方はアリーの様子に気付かず「前回と違うなら、ちゃんと当ってると思うけどなあ?」と腑に落ちない顔をした。
「ちゃんと当ってる?」
ということは。アリーの心臓が早鐘のように鳴り出し、頭の中が真っ白になった。
【5.占いの結果】
その日は、少し気温が高めの晴れた日だった。
アリーは王太子の側近を務めている例の男友達に、王宮内の噴水前に呼び出されていた。神詣での日の件らしい。
「あれ、まだ来てないのかな」
とアリーがキョロキョロ辺りを見回したとき、
「やあ、こっちだ」
と声がした。
アリーは振り向いてびっくりした。きさくに歩いてくるのが男友達ではなく王太子だったから!
アリーは先日の2度目の水晶玉占いに王太子が映ったのを思い出し、恥ずかしさでいっぱいになった。
しかし王太子は面と向かってアリーに話しかけるので逃げようがない。
「君、水晶玉占いやるんだって?」
「はあ。まあ……」
「当たるんだってね」
王太子はにこにこしている。
アリーはドキッとした。
「占ってくれ」とかそういうことだろうか?
しかし王太子は思ってもなかったことを言った。
「どんな占いに僕が映ったりしたの」
アリーは唐突な質問に狼狽した。
「あ、えーっと……?」
なぜ水晶玉に王太子が映ったことを知っているのか。
「ちょっと前にデレック(※アリーの男友達)に聞かれたんだ。『神詣での日に俺たち滝なんか行かなかったですよね』って。いや、あまりに身に覚えのない質問だったから不審に思って詳しく聞いてみたら、君の名前が出たってわけだ。君の水晶玉占いの噂は聞いてたからね、もしかして占いとかそういうことなのかなと思って」
アリーは図星過ぎて下を向いてしまった。
王太子はさらに言う。
「君のご実家のオークリル侯爵家にも聞いたんだよ。君、あの日、どこかの滝に行ってたんでしょ。それはどういう理由で?」
アリーは真っ赤になった。
まさか自分の運命の人を占おうとして、エイプリルフール設定の水晶玉に揶揄われたなんて言えるわけない!
アリーが真っ赤になってもじもじしているので、王太子は何か勘違いしたようだった。
「あれその顔、もしかして。えーっと、僕が君の相手……とかそんななのかな」
アリーはもう穴があったら入りたいと思った。
「あ、いや、あの……」
アリーは、あれはエイプリルフール設定だったのだから……と否定しようとして、しかし2回目の占いでも王太子の姿が見えた事を思い出し、言葉は尻すぼみになった。
「まあ答えにくいよね。じゃあ、僕から言おう。デレックの話を聞いてから君のことが気になってしまっているんだ。僕はあんまり占いとか信じるタイプじゃないはずなんだけど、でも、滝で待ち伏せする令嬢なんて聞いたことなくてさ。変なのと思ったら、なんだか面白くなってきちゃって。それで今日デレックの名前で君を呼んでみた」
「え?」
アリーがあんまりぽかんとした顔をしていたので、王太子は笑った。
「もう少し君のことを知りたいと思っている。今度夜会でダンスを申し込んでもいいかい」
「ええっ!?」
「僕のことは嫌?」
「いえ、それは、嫌じゃないです(むしろ滝探しまくりました)」
アリーはそう答えてからもっと赤くなった。
そしてハッと気づいた。
あの2度目の水晶玉占いは、まさにこんな光景だった!
初夏、噴水! 新緑の季節の滝と似ているようで確かに違う。占いは確かに今日を言い当てたんだ……。
デボラは「ちゃんと当ってると思うけどなあ?」と言っていた。
当たりなのかな。
アリーはえいやっと覚悟を決めて、「ダンスお受けします」と答えたのだった。
(終わり)
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