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剣の魔術師  作者: いくら丸
ロードロット大陸編【冒険編】
3/5

第三話「猫の恩返し」

「クソッ!マジかよ...!」

こんなところで...死ぬわけにはいかねぇんだよ―――!




ザシュッ―――――


―――は?何が起こった?今、俺を襲おうとしたシードルフの首が、、、飛んでる?誰かがハネたのか?いや、アイツらは近くにいない。なら、一体誰が...


「遅くなって済まない。大丈夫だったか?パリス」

そこには、絢爛な剣を構え、ローブを纏い、白髪の髪を靡かせ、こちらに話しかけてくる獣人の女剣士の姿があった。


見たことのある姿だった。聞いたことのある声だった。

「お前、もしかして...昨日の獣族の奴か?」

「ああ、そうだ。」


何でこいつがここに...?ってか、どうやってここまで来たんだ?どうして俺を...いや、違うか。今は...

「おい、お前。名前は何て言うんだ?」

「私の名はカイニス。カイニス・シルヴィニアだ。」

「カイニス!急で悪いが、コイツらを倒すのを手伝ってくれないか?俺達だけじゃ、人手が足りなくてな。俺を助けてくれたってことは、手伝ってくれるって(そういう)ことだろ?」

「ああ、無論だ。」

「ありがとよ!」

なんでここに居るんだとか、なんで俺を助けてくれるんだとか、聞きたいことはいっぱいあるが、今は、目の前の奴らに集中だ!


「パリスさん!大丈夫ですか!?」

グラウスが心配して話しかけてくる

「ああ、俺は大丈夫だ。心配してくれてありがとよ。」

「パリスさんが無事で本当に良かったです。ところで、横の方は一体...?」

「また後で紹介するから、今はそっちに集中してくれ!」

「分かりました。では、また後で!」

「おう!また後でな!」

グラウス...俺の事を心配してこっちまで来てくれたのか。やっぱ、いいやつだな。


「話は終わったか?なら、指示をくれ。私は何をすればいい?」

「カイニスには俺と一緒に、後ろからついてくるシードルフを殺して欲しい。どうだ?出来そうか?」

「殺すだけでいいのか?私は、素材を剥ぎ取る為のナイフを持っているんだが」

「余裕があるんなら頼む。ただ、絶対に無茶はしないでくれ。素材に目が眩んで死んじまうとか、洒落になんねぇからな。」

「分かった。なら、出来るだけ安全重視でいこう」

「それで頼む。じゃあ...行くぞ!」

「ああ!」


---


「...カイニス!立て看板が見えて来たぞ!もうそろそろだ。頑張れ」

「なんだ、もう着いたのか。案外近かったな。」

「そうか?まぁでも確かに、獣族は他の種族に比べて体力が多いらしいし、そんなもんなのか。」

なんにせよ、無事に帰って来れて良かった。途中、カイニスの剣がシードルフに飛ばされた時は、終わったと思ったが、コイツ、まさか素手でも強いとは...。その肉体は見せかけじゃねぇってことか。まぁそんな事より、アイツらはちゃんとここまで辿り着けたんだろうか?


そう考えていると、奥から見慣れた影が歩いてくる

「あれは...!!ご無事でしたか!パリスさん!」

「グラウス!良かった、ちゃんとここまで辿り着けてたんだな!」

「パリスさんこそ、ご無事で本当に良かった。ところで、そちらの獣族の女性は?一体何者なんですか?」

「コイツは...まぁ、俺の知り合いみたいなもんだ。名前は」

「カイニスだ」

「カイニスさんですか。初めまして。私達は、バックアンテナというパーティーでして、私はパーティーのリーダーを務めています、グラウスです。よろしくお願いします。」

「ああ、よろしく頼む」


グラウスはカイニスの返事を聞くと、ニコッと笑い、俺に話しかけてきた。

「パリスさん達に提案なんですが、依頼金を受け取りに行く前に、一度、私達と食事に行きませんか?なんだかんだあって、もう昼の1時です。今回の出会いを祝して、等と、大層な事ではありませんが、この巡り合わせも、何かの縁です。どうでしょうか。」


そうだな。ここで出会ったのも何かの縁だ。ここは一緒に食事を楽しみますか!

「そういうことだったら、断る理由はねぇな。よろしく頼むぜ。グラウスさんよ。」


---


キャンプ地を歩き、食事処を話しながら探す一行

「へぇ〜そうなのか?少し似ているとは思っていたが、まさか、グラウィルとグラウスが兄弟だったとは。驚きだな」

「そうでしょうか?いや、普通はそうですよね。」

「ん?なんかあるのか?」

「いえ。あまり大した理由はありません。ただ、他の方はあまり、私達が兄弟であることを知っても驚かれないんですよ。予想通りだった。とか、声の感じが似てる。とか、曖昧な理由なんですが、何故か予想できる人が多かったんです。だから、パリスさんから驚きという言葉を聞いたとき、私も少し驚いたというわけです。」

「なるほどな。そういうことか。」


会話を聞いていたカイニスは考える

パリス、こいつもしかして、結構鈍感か?グラウスとグラウィルが着けているピアス。色は違うが、造形は同じだ。同じ物を身に着けているということは、二人は家族であるという事を示している事ぐらい、予想できるだろうに...


黙り込んで考え込んでいるカイニスに、グラウスが問いかける

「ところで、カイニスさんのその剣。とても美しいですね。何か特別なものなんですか?」


そこにグラウィルも反応する

「それは俺も気になってた。こんな俺でも、剣士の端くれだからな。その剣が他を圧倒する力を持っている事くらいは分かる。その剣、一体どういった代物なんだ?」


カイニスが剣に手をかける

「この剣は、獣族の村の祠にずっと祀られていた宝剣でな。私が勝手に持ち出したものだ。」

「えぇ...」

パリスが困惑する


「勝手に持ち出したって、お前それ大丈夫なのか?」

「お前の考える通り、全然大丈夫じゃない」

「ですよねー」


コイツ、最初会った時は義理堅いやつだと思ったんだが、一族の宝を勝手に持ち出しているところを見ると、義理堅いだけのやつじゃないらしいな。


「カイニスに聞きたい事があるんだが...」

グラウィルが口を開く


「なんだ?」

「その剣に、名前はないのか?有名な刀匠や星に鍛えられた剣には鍛銘(なまえ)があると聞いたことがあるんだが」

「ああ、あるぞ。この剣の()は、紅牙抜銘剣(こうがばつめいけん)。かつて行われた大戦にて勝利するために、獣族の英雄に与えられたという剣だ。」

「なるほどな。すげぇ代物なんだな、ソレ」


話をしながら進む一行の先には、キャンプ地唯一の食事処があった

「みなさん、着きましたよ。ここで食事をしましょう。」


---


「すいません。ジービールを一つ追加でお願いします。」

「分かりました。」


グラウスが注文する側で、二人が言い争う

「この飯は俺が注文したんだぞ、カイニス!」

「別にいいじゃないか。そんな小さい事を気にしていたらモテないぞ、パリス」

「はぁぁぁぁ!?カイニス、そんな事言うんだな?じゃあ分かった!オラッ!!」

カイニスの注文した肉料理を口に詰める


「なっ!?パリス!お前...」

「そんな小さい事を気にしてたら、モテないぜ?カイニス」

カイニスを煽るようにパリスが言い返す


「パリス、お前には飯の恩があるが...飯の恨みはもっとだぞ?」

「お前が先に手を延ばしてきたんだろ?」

「なんだと?」

「なんだ?」

立ち上がった二人の間に火花が走る


「まぁまぁ、二人とも。落ち着いて下さい」

グラウスが割って入る


「「ふん!!!」」

二人は席にドン!と座ると、自分の料理をやけ食いし始めた


グラウスはそんな二人を見て笑う

「お二人は、冒険者になって何年経つんですか?私達はこのパーティーになるまでに2年、なってからは1年が経っています。」

「俺は冒険者になって3年経つ。ちなみに年齢は14だ。あと1ヶ月で15になる。」

「私は今月で冒険者歴1年半になる。そして、私も同じく14歳だ。」

「二人とも14歳なんですか?若いですね。私なんか、今年で22歳です。」

「俺は兄貴と6離れてるから16歳だ。」


パリスは肉を食いながら考える

カイニス、やっぱり俺と同じ歳だったか。なにせ、体は鍛えられてるが、如何せん、顔にまだギリギリ少女っぽさが残っているからな。

「?なんだ?」

「いや、なんでもない。」


「ふぅ。美味かったな。ここの店。なんか最後に食いてぇんだが、、、」

「コレをどうぞ。」

グラウスが豪華なパンを持ってくる


「コレ、結構高いと思うんだが、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。これは今日助けてもらったお返しの様なものです。」

「そっか。なら、遠慮なくいただくぜ。」


---


「いやー食った食った。ここの飯、マジで美味いな。こんなところがあるの初めて知ったぜ。色々とありがとな。グラウス」

「いえいえ、今回は本当に助かったので、そのお礼ですよ。あなた達がいなければ今頃シードルフに殺されていましたからね。そのお礼としては、安いものです。それよりも、そろそろギルドに依頼金を受け取りに行きましょう。」

「ああ、そうだな。行こう。」


バックアンテナの面々とパリス、カイニスがギルド支部に向かう

「では、私達が報酬を受け取って来ます。同時にカカドウルフとシードルフの毛皮も売却してくるので、少し待っていて下さい。」

「ああ、分かった。カイニスと一緒に目の前のベンチで待ってる。」

「ええ。お願いします。」

そう言うと、グラウス達はギルド支部へと入って行った


---


―――――遅いな。

あれからもう30分は経ってる。なのに、グラウス達が一向に出てくる気配がない。

まさか―――騙された? 

報酬を折半するって言う話は嘘で、自分達が報酬を受け取った後、こっそり裏口から逃げた?いや、流石にそんな事をするやつじゃ...

「カイニス、一回ギルドの中を見てくる。」

「ん?ああ、そうだな。アイツら、少し遅いからな。頼んだ。」

「ああ。」


パリスがギルドの扉を開ける

すると、言い争っている二つの影があった


なんだ?喧嘩か?

「本当だっつってんだろ!?このシードルフは、俺らと、二人の強い冒険者と共闘して倒したって...」

「フンッ!そんなもん誰が信じるかよ?カカドウルフならまだしも、シードルフだぞ?B級相当の魔獣共相手に、テメェらが勝てるとは思わねぇな?なぁ?お前ら?」

「「「そうだ!」」」「テメェらにゃ無理だろ!」

「「嘘吐き共が!」」


ギルドの中で、口々に罵声が飛び交う

時には人族から 時には魔族から 時には獣族から

それを見て、グラウィルと言い争っていた魔族が誇らしげに口を開く


「ほらみろ!お前らが倒したって思ってるやつなんて、一人もいねぇぞ?どうせ、其処らの死体から剥ぎ取ってきたんだろ?正直に言っとけば、こんな恥ずかしい思いしないで済んだのにな!ギャハハハハ!」

「お前...!!」

「どうせ、二人の冒険者ってのも嘘なんだろ?なぁ、そうなんだろ?いや、違ぇか!その二人も、お前らと一緒に死体から皮を剥ぎ取ったコスい奴なんだろ?そんな二人を強い?ギャハハ!笑わせてくれるじゃねぇかボウズ!」

「このッ、!!!」

グラウィルが剣に手をかける


「落ち着きなさい、グラウィル!」

グラウスが静止する

「だって...だってよ!グラウス!アイツ、あの二人の事を侮辱したんだぞ!?俺らの言う事を一切信じねぇ。それどころか馬鹿にして、挙句の果てにはあの二人まで罵ったんだぞ!?命の恩人だぞ?―――許せるかよ...!」

「ッハ!許せないだと?面白れぇこと言うじゃねぇか。テメェが許す許さねぇとか、そんなの誰も気にしてねぇよ!」

「「「「「ギャハハハハ!!!」」」」」


「クソッ...なんで誰も信じねぇんだよ...」

グラウィルが悔し涙を浮かべる


...なるほどな。遅かった理由はコレか。シードルフはB級相当の魔獣。C級のアイツらが倒したって言っても信じてもらえず、その果て、言い争いに発展か。面倒な事になってんな。にしても、グラウィルの奴、そんな風に思ってたのか。案外、尊敬とかするタイプなんだな。


「フンっ!そんなに悔しいなら、お前の言う強い二人の冒険者を連れて来いよ。まぁ、いねぇモンはいねぇから、連れて来るも来ねぇもねぇんだがよ。ギャハハ!」


...俺がすべき事は一つだな。


「グラウィル、もういいでしょう。この人はムカつきますが...時には耐える事も肝心だ。」

「あぁ?テメェ、今なんつった?」

「......」

「おいおい沈黙か?酷いじゃねぇか。なんだよ、ビビって声も出ねぇか?あw?」

「......」

「おい、何とか言ったら―――」

―――――バゴンッ!!!!!


轟音と共に、さっきまで勝気で喋っていた魔族が床に伏せる

「ア...ア、、、、ウゥ―――。」


な、何が起きたんだ?さっきまでイキってた魔族が急に床に伏して...


「少しやり過ぎだが、まぁコレくらいの罰は必要だよな?カイニス。」

「あぁ。他人の話を聞かず、一方的に決めつける様な奴にはこのくらい必要だ。」

気付けば、グラウィルの目の前にはパリスとカイニスが立っていた


「パ、パリス...!それに、カイニスまで...なんで...」

「あまりにも遅いから、少し様子を見に行こうと思ってな。じゃあ、なにやら揉めてるようじゃねぇか。仕方なく、来てやったぜ。それにしても、、、なんだ?お前らは?カイニスがコイツをブン殴った時から、一言も発しないじゃないか。お前ら、腑抜けか?」


その言葉に反応して、一人の魔族が反論する

「テ、テメェ!ヒガラの兄貴に何してやがッ―――」

全てを言い終わる前に、カイニスが剣を向ける

「ヒィッ!!!」

「済まんが私は今、眠くてな。静かにして欲しいんだが、、、出来れば、そこの魔族を連れてな。」


つまり、そこの魔族を連れて出ていけって事か。やる事がカッコいいねえカイニス。

「そうだな。俺らも、別に揉め事をデカくしてぇワケじゃねぇ。だから、ここは穏便に頼むぜ」

「わ、分かった!今回のことは他言しねぇ、俺らも、今ここから出ていく。それでいいか?」

「あぁ。そうしてくれると助かる」


言葉を聞くや否や、烏合の衆はヒガラの兄貴と呼ばれる魔族を連れて外に出て行った

「ふぅ。大事にならなくて良かったな、グラウィル。」

「あ、あぁ。助かったよ、ありがとう。」

「またお二人に助けられましたね。本当にありがとうございます。お二人とも。」

「全然大丈夫だ。それよりもグラウス、肝心の依頼金は貰ったのか?」

「ええ。それに関しては大丈夫です。私達が依頼金を貰った時に、彼らはイチャモンをつけてきたので。」

「そうだったのか。そりゃあ災難だったな。じゃあまぁ話も聞けたところで一旦、外に出よう。ここじゃギルドの迷惑になっちまう。」


---


「―――よし!これで半々だな。シードルフの毛皮分も合わせて、200銅テラスだ。まさか、シードルフの毛皮が200銅テラスで売れるとは。」

「不幸中の幸いですね。」

「そうだな。」


荷物の整理を終えたグラウスが、こちらを見て手を延ばす

「今回、私達が助かったのは、お二人のおかげです。改めて、本当にありがとうございました。」

「ああ、また会ったらよろしくな。」

二人はグラウスと握手を交わす


「では、私達はこれで」

「ああ、また会えたら会おう」


「...どうしたんですか?グラウィル」

「いや...」

パリス達と距離が開いていく。言いたい事はたくさんあった。―――結局、パリス達に助けて貰ってばっかだったな。...俺も、パリスやカイニスみたいに―――

「おーい!グラウィルー!!あの時、俺らのために怒ってくれたよなー!めっちゃカッコ良かったぜー!!!」


っ!

「パリス!またいつか、、、絶対に会おう!」

「おう!」






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