第三話「猫の恩返し」
「クソッ!マジかよ...!」
こんなところで...死ぬわけにはいかねぇんだよ―――!
ザシュッ―――――
―――は?何が起こった?今、俺を襲おうとしたシードルフの首が、、、飛んでる?誰かがハネたのか?いや、アイツらは近くにいない。なら、一体誰が...
「遅くなって済まない。大丈夫だったか?パリス」
そこには、絢爛な剣を構え、ローブを纏い、白髪の髪を靡かせ、こちらに話しかけてくる獣人の女剣士の姿があった。
見たことのある姿だった。聞いたことのある声だった。
「お前、もしかして...昨日の獣族の奴か?」
「ああ、そうだ。」
何でこいつがここに...?ってか、どうやってここまで来たんだ?どうして俺を...いや、違うか。今は...
「おい、お前。名前は何て言うんだ?」
「私の名はカイニス。カイニス・シルヴィニアだ。」
「カイニス!急で悪いが、コイツらを倒すのを手伝ってくれないか?俺達だけじゃ、人手が足りなくてな。俺を助けてくれたってことは、手伝ってくれるってことだろ?」
「ああ、無論だ。」
「ありがとよ!」
なんでここに居るんだとか、なんで俺を助けてくれるんだとか、聞きたいことはいっぱいあるが、今は、目の前の奴らに集中だ!
「パリスさん!大丈夫ですか!?」
グラウスが心配して話しかけてくる
「ああ、俺は大丈夫だ。心配してくれてありがとよ。」
「パリスさんが無事で本当に良かったです。ところで、横の方は一体...?」
「また後で紹介するから、今はそっちに集中してくれ!」
「分かりました。では、また後で!」
「おう!また後でな!」
グラウス...俺の事を心配してこっちまで来てくれたのか。やっぱ、いいやつだな。
「話は終わったか?なら、指示をくれ。私は何をすればいい?」
「カイニスには俺と一緒に、後ろからついてくるシードルフを殺して欲しい。どうだ?出来そうか?」
「殺すだけでいいのか?私は、素材を剥ぎ取る為のナイフを持っているんだが」
「余裕があるんなら頼む。ただ、絶対に無茶はしないでくれ。素材に目が眩んで死んじまうとか、洒落になんねぇからな。」
「分かった。なら、出来るだけ安全重視でいこう」
「それで頼む。じゃあ...行くぞ!」
「ああ!」
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「...カイニス!立て看板が見えて来たぞ!もうそろそろだ。頑張れ」
「なんだ、もう着いたのか。案外近かったな。」
「そうか?まぁでも確かに、獣族は他の種族に比べて体力が多いらしいし、そんなもんなのか。」
なんにせよ、無事に帰って来れて良かった。途中、カイニスの剣がシードルフに飛ばされた時は、終わったと思ったが、コイツ、まさか素手でも強いとは...。その肉体は見せかけじゃねぇってことか。まぁそんな事より、アイツらはちゃんとここまで辿り着けたんだろうか?
そう考えていると、奥から見慣れた影が歩いてくる
「あれは...!!ご無事でしたか!パリスさん!」
「グラウス!良かった、ちゃんとここまで辿り着けてたんだな!」
「パリスさんこそ、ご無事で本当に良かった。ところで、そちらの獣族の女性は?一体何者なんですか?」
「コイツは...まぁ、俺の知り合いみたいなもんだ。名前は」
「カイニスだ」
「カイニスさんですか。初めまして。私達は、バックアンテナというパーティーでして、私はパーティーのリーダーを務めています、グラウスです。よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく頼む」
グラウスはカイニスの返事を聞くと、ニコッと笑い、俺に話しかけてきた。
「パリスさん達に提案なんですが、依頼金を受け取りに行く前に、一度、私達と食事に行きませんか?なんだかんだあって、もう昼の1時です。今回の出会いを祝して、等と、大層な事ではありませんが、この巡り合わせも、何かの縁です。どうでしょうか。」
そうだな。ここで出会ったのも何かの縁だ。ここは一緒に食事を楽しみますか!
「そういうことだったら、断る理由はねぇな。よろしく頼むぜ。グラウスさんよ。」
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キャンプ地を歩き、食事処を話しながら探す一行
「へぇ〜そうなのか?少し似ているとは思っていたが、まさか、グラウィルとグラウスが兄弟だったとは。驚きだな」
「そうでしょうか?いや、普通はそうですよね。」
「ん?なんかあるのか?」
「いえ。あまり大した理由はありません。ただ、他の方はあまり、私達が兄弟であることを知っても驚かれないんですよ。予想通りだった。とか、声の感じが似てる。とか、曖昧な理由なんですが、何故か予想できる人が多かったんです。だから、パリスさんから驚きという言葉を聞いたとき、私も少し驚いたというわけです。」
「なるほどな。そういうことか。」
会話を聞いていたカイニスは考える
パリス、こいつもしかして、結構鈍感か?グラウスとグラウィルが着けているピアス。色は違うが、造形は同じだ。同じ物を身に着けているということは、二人は家族であるという事を示している事ぐらい、予想できるだろうに...
黙り込んで考え込んでいるカイニスに、グラウスが問いかける
「ところで、カイニスさんのその剣。とても美しいですね。何か特別なものなんですか?」
そこにグラウィルも反応する
「それは俺も気になってた。こんな俺でも、剣士の端くれだからな。その剣が他を圧倒する力を持っている事くらいは分かる。その剣、一体どういった代物なんだ?」
カイニスが剣に手をかける
「この剣は、獣族の村の祠にずっと祀られていた宝剣でな。私が勝手に持ち出したものだ。」
「えぇ...」
パリスが困惑する
「勝手に持ち出したって、お前それ大丈夫なのか?」
「お前の考える通り、全然大丈夫じゃない」
「ですよねー」
コイツ、最初会った時は義理堅いやつだと思ったんだが、一族の宝を勝手に持ち出しているところを見ると、義理堅いだけのやつじゃないらしいな。
「カイニスに聞きたい事があるんだが...」
グラウィルが口を開く
「なんだ?」
「その剣に、名前はないのか?有名な刀匠や星に鍛えられた剣には鍛銘があると聞いたことがあるんだが」
「ああ、あるぞ。この剣の銘は、紅牙抜銘剣。かつて行われた大戦にて勝利するために、獣族の英雄に与えられたという剣だ。」
「なるほどな。すげぇ代物なんだな、ソレ」
話をしながら進む一行の先には、キャンプ地唯一の食事処があった
「みなさん、着きましたよ。ここで食事をしましょう。」
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「すいません。ジービールを一つ追加でお願いします。」
「分かりました。」
グラウスが注文する側で、二人が言い争う
「この飯は俺が注文したんだぞ、カイニス!」
「別にいいじゃないか。そんな小さい事を気にしていたらモテないぞ、パリス」
「はぁぁぁぁ!?カイニス、そんな事言うんだな?じゃあ分かった!オラッ!!」
カイニスの注文した肉料理を口に詰める
「なっ!?パリス!お前...」
「そんな小さい事を気にしてたら、モテないぜ?カイニス」
カイニスを煽るようにパリスが言い返す
「パリス、お前には飯の恩があるが...飯の恨みはもっとだぞ?」
「お前が先に手を延ばしてきたんだろ?」
「なんだと?」
「なんだ?」
立ち上がった二人の間に火花が走る
「まぁまぁ、二人とも。落ち着いて下さい」
グラウスが割って入る
「「ふん!!!」」
二人は席にドン!と座ると、自分の料理をやけ食いし始めた
グラウスはそんな二人を見て笑う
「お二人は、冒険者になって何年経つんですか?私達はこのパーティーになるまでに2年、なってからは1年が経っています。」
「俺は冒険者になって3年経つ。ちなみに年齢は14だ。あと1ヶ月で15になる。」
「私は今月で冒険者歴1年半になる。そして、私も同じく14歳だ。」
「二人とも14歳なんですか?若いですね。私なんか、今年で22歳です。」
「俺は兄貴と6離れてるから16歳だ。」
パリスは肉を食いながら考える
カイニス、やっぱり俺と同じ歳だったか。なにせ、体は鍛えられてるが、如何せん、顔にまだギリギリ少女っぽさが残っているからな。
「?なんだ?」
「いや、なんでもない。」
「ふぅ。美味かったな。ここの店。なんか最後に食いてぇんだが、、、」
「コレをどうぞ。」
グラウスが豪華なパンを持ってくる
「コレ、結構高いと思うんだが、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。これは今日助けてもらったお返しの様なものです。」
「そっか。なら、遠慮なくいただくぜ。」
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「いやー食った食った。ここの飯、マジで美味いな。こんなところがあるの初めて知ったぜ。色々とありがとな。グラウス」
「いえいえ、今回は本当に助かったので、そのお礼ですよ。あなた達がいなければ今頃シードルフに殺されていましたからね。そのお礼としては、安いものです。それよりも、そろそろギルドに依頼金を受け取りに行きましょう。」
「ああ、そうだな。行こう。」
バックアンテナの面々とパリス、カイニスがギルド支部に向かう
「では、私達が報酬を受け取って来ます。同時にカカドウルフとシードルフの毛皮も売却してくるので、少し待っていて下さい。」
「ああ、分かった。カイニスと一緒に目の前のベンチで待ってる。」
「ええ。お願いします。」
そう言うと、グラウス達はギルド支部へと入って行った
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―――――遅いな。
あれからもう30分は経ってる。なのに、グラウス達が一向に出てくる気配がない。
まさか―――騙された?
報酬を折半するって言う話は嘘で、自分達が報酬を受け取った後、こっそり裏口から逃げた?いや、流石にそんな事をするやつじゃ...
「カイニス、一回ギルドの中を見てくる。」
「ん?ああ、そうだな。アイツら、少し遅いからな。頼んだ。」
「ああ。」
パリスがギルドの扉を開ける
すると、言い争っている二つの影があった
なんだ?喧嘩か?
「本当だっつってんだろ!?このシードルフは、俺らと、二人の強い冒険者と共闘して倒したって...」
「フンッ!そんなもん誰が信じるかよ?カカドウルフならまだしも、シードルフだぞ?B級相当の魔獣共相手に、テメェらが勝てるとは思わねぇな?なぁ?お前ら?」
「「「そうだ!」」」「テメェらにゃ無理だろ!」
「「嘘吐き共が!」」
ギルドの中で、口々に罵声が飛び交う
時には人族から 時には魔族から 時には獣族から
それを見て、グラウィルと言い争っていた魔族が誇らしげに口を開く
「ほらみろ!お前らが倒したって思ってるやつなんて、一人もいねぇぞ?どうせ、其処らの死体から剥ぎ取ってきたんだろ?正直に言っとけば、こんな恥ずかしい思いしないで済んだのにな!ギャハハハハ!」
「お前...!!」
「どうせ、二人の冒険者ってのも嘘なんだろ?なぁ、そうなんだろ?いや、違ぇか!その二人も、お前らと一緒に死体から皮を剥ぎ取ったコスい奴なんだろ?そんな二人を強い?ギャハハ!笑わせてくれるじゃねぇかボウズ!」
「このッ、!!!」
グラウィルが剣に手をかける
「落ち着きなさい、グラウィル!」
グラウスが静止する
「だって...だってよ!グラウス!アイツ、あの二人の事を侮辱したんだぞ!?俺らの言う事を一切信じねぇ。それどころか馬鹿にして、挙句の果てにはあの二人まで罵ったんだぞ!?命の恩人だぞ?―――許せるかよ...!」
「ッハ!許せないだと?面白れぇこと言うじゃねぇか。テメェが許す許さねぇとか、そんなの誰も気にしてねぇよ!」
「「「「「ギャハハハハ!!!」」」」」
「クソッ...なんで誰も信じねぇんだよ...」
グラウィルが悔し涙を浮かべる
...なるほどな。遅かった理由はコレか。シードルフはB級相当の魔獣。C級のアイツらが倒したって言っても信じてもらえず、その果て、言い争いに発展か。面倒な事になってんな。にしても、グラウィルの奴、そんな風に思ってたのか。案外、尊敬とかするタイプなんだな。
「フンっ!そんなに悔しいなら、お前の言う強い二人の冒険者を連れて来いよ。まぁ、いねぇモンはいねぇから、連れて来るも来ねぇもねぇんだがよ。ギャハハ!」
...俺がすべき事は一つだな。
「グラウィル、もういいでしょう。この人はムカつきますが...時には耐える事も肝心だ。」
「あぁ?テメェ、今なんつった?」
「......」
「おいおい沈黙か?酷いじゃねぇか。なんだよ、ビビって声も出ねぇか?あw?」
「......」
「おい、何とか言ったら―――」
―――――バゴンッ!!!!!
轟音と共に、さっきまで勝気で喋っていた魔族が床に伏せる
「ア...ア、、、、ウゥ―――。」
な、何が起きたんだ?さっきまでイキってた魔族が急に床に伏して...
「少しやり過ぎだが、まぁコレくらいの罰は必要だよな?カイニス。」
「あぁ。他人の話を聞かず、一方的に決めつける様な奴にはこのくらい必要だ。」
気付けば、グラウィルの目の前にはパリスとカイニスが立っていた
「パ、パリス...!それに、カイニスまで...なんで...」
「あまりにも遅いから、少し様子を見に行こうと思ってな。じゃあ、なにやら揉めてるようじゃねぇか。仕方なく、来てやったぜ。それにしても、、、なんだ?お前らは?カイニスがコイツをブン殴った時から、一言も発しないじゃないか。お前ら、腑抜けか?」
その言葉に反応して、一人の魔族が反論する
「テ、テメェ!ヒガラの兄貴に何してやがッ―――」
全てを言い終わる前に、カイニスが剣を向ける
「ヒィッ!!!」
「済まんが私は今、眠くてな。静かにして欲しいんだが、、、出来れば、そこの魔族を連れてな。」
つまり、そこの魔族を連れて出ていけって事か。やる事がカッコいいねえカイニス。
「そうだな。俺らも、別に揉め事をデカくしてぇワケじゃねぇ。だから、ここは穏便に頼むぜ」
「わ、分かった!今回のことは他言しねぇ、俺らも、今ここから出ていく。それでいいか?」
「あぁ。そうしてくれると助かる」
言葉を聞くや否や、烏合の衆はヒガラの兄貴と呼ばれる魔族を連れて外に出て行った
「ふぅ。大事にならなくて良かったな、グラウィル。」
「あ、あぁ。助かったよ、ありがとう。」
「またお二人に助けられましたね。本当にありがとうございます。お二人とも。」
「全然大丈夫だ。それよりもグラウス、肝心の依頼金は貰ったのか?」
「ええ。それに関しては大丈夫です。私達が依頼金を貰った時に、彼らはイチャモンをつけてきたので。」
「そうだったのか。そりゃあ災難だったな。じゃあまぁ話も聞けたところで一旦、外に出よう。ここじゃギルドの迷惑になっちまう。」
---
「―――よし!これで半々だな。シードルフの毛皮分も合わせて、200銅テラスだ。まさか、シードルフの毛皮が200銅テラスで売れるとは。」
「不幸中の幸いですね。」
「そうだな。」
荷物の整理を終えたグラウスが、こちらを見て手を延ばす
「今回、私達が助かったのは、お二人のおかげです。改めて、本当にありがとうございました。」
「ああ、また会ったらよろしくな。」
二人はグラウスと握手を交わす
「では、私達はこれで」
「ああ、また会えたら会おう」
「...どうしたんですか?グラウィル」
「いや...」
パリス達と距離が開いていく。言いたい事はたくさんあった。―――結局、パリス達に助けて貰ってばっかだったな。...俺も、パリスやカイニスみたいに―――
「おーい!グラウィルー!!あの時、俺らのために怒ってくれたよなー!めっちゃカッコ良かったぜー!!!」
っ!
「パリス!またいつか、、、絶対に会おう!」
「おう!」