第二話「ひょんなことからThe・ピンチ」
日が昇る
宿の窓から、ガラス越しに男に向かって光が射す
鳥が鳴く
早く起きろと言わんばかりの大きな声で
「グー... ガー... グー...」
だが起きない
隣の部屋から、如何わしい音/声が漏れてくる
「ァァン、アァ、アァァ。」
「コォ...シャ。あ...してるぜ。」
「わた...もよ。ィ...ゾォ。」
、、、
「グー... ガー... グー...」
だが起きない
...トドメだと言うように、
天井から剥がれた板が腹にめがけて落ちてきた
「グー... ガー.....ttt」
バアアァァァァァン
「ぐっはァァァァァァァァァァァァァァ!カッ...ハア!」
「ハッ!面白い事も起きるものだ。まさか、天井の板が外れてお前の腹に落ちてくるとは。いやはや朝っぱらから笑わせてくれるものよ!」
はあぁぁぁぁぁ!?なんでだよ、なんで天井の板が外れて落ちてくるんだよ!なんでですかどうしてですか?俺は神サマに嫌われてるんですか?ええ?
あっ... てか、....
「もう朝か。」
---
「さて、着替えも済んだことだし、飯買いに行きますか。」
外套を纏い、服を整える
剣と小袋を携え、街を歩き、店を見て回る
んーどうしようか。昨日のパンがちょっと残ってるから、スープを買おうか。いや、あえてここはWパンでいくのも手だな。なんとも悩ましいところだが...体を温めるためにも、ここはスープにするか。
店の扉を開けると、いかにも美味そうな匂いがパリスの鼻をつく
スゥーー...ハァーー... いい匂いだ。ここの店はどうやら当たりのようだな。
「いらっしゃいませー。注文が決まったら私に声をかけて下さい。」
「あっ、もう決まってるんで。そのカカドスープ下さい。」
パリスが看板を指さす
「カカドスープですね。分かりました。4銅テラスになります。」
「はいよ」
「確かに受け取りました。では、席についてお待ち下さい。お運びします。」
「お願いしまーす。」
にしても、朝っぱらなのに、だいぶ客が多いな。
それだけ、ここの料理が美味いってことなんだろうが、うん。なんにせよ、楽しみだ。
「よう、兄ちゃん。あっちで俺らと一緒に飲もうや。」
酔っ払いジジイが話しかけてきた。正直、こんな朝から飲んだくれてるヤツに、あんまり良い印象を抱かない。
「んー、遠慮しとくわ。このあと用事あるし。まず俺14歳だから、酒は飲めねぇんだ。すまねぇな。」
「そうなのか?んじゃあ仕方ねぇな。また会ったら今度こそ飲もうぜ。じゃあな兄ちゃん。」
「おう」
ふぅ。ダル絡みされた時はめんどくせぇって思ったが、まぁまぁ普通のヤツで良かった。一安心だ。
「お待たせしました。カカドスープです。」
「ありがとうございます。」
「ごゆっくりどうぞ。」
今の時間は...7時か。馬車の出立は7時40分だから、よし。まだ40分ある。これならゆっくりできそうだ。しかしこのスープ...思ってたよりグロいな。
「おい、今日は何をするんだ?いつものように討伐か?つまらんな。」
ジオが話しかけてくる。
「まだ一言も言ってねえだろ。...まぁそうなんだがよ。ただ、今日はいつもとは少しばかり違うぜ。なんてったって、今日のクエストはBランクだからな。」
「Bランクのクエスト程度で誇っているようじゃまだまだだな。まぁそれはいい。今日は一体何を討伐する」
「今日はこのスープの主役であるカカドウルフを討伐するんだ。」
「そうか。カカドウルフか。」
「あぁ。アイツらは単体ならCかそれ以下なんだが、アイツらは頭がいいから常に群れで行動するんだ。だから、今回みたいに群れから逸れた集団を討伐するんだよ。」
「群れから逸れた集団を...?何故そんな手間暇の掛かることをする。魔術で群れごと焼き殺せばよかろう。」
ジオが当たり前かの如く無理難題を突き付けてくる
「お前な。そんな事ができるのは、ごく一部の魔術師だけだろ。それに、出来たとしても周りが吹き飛んじまうだろ?ちょっとは頭使って考えろよ。バカ。」
「そうかそうか。済まなかった。お前は魔術が使えんのだったな。そんなヤツに魔術を求める俺がバカだった。」
「ハァ?俺だって魔術の一つや二つ使えますけど〜?あの魔術でお前をボコボコにできますけど〜?」
「あんな下らん魔術で俺を倒せるとでも?無理だ。お前が俺を倒せるなぞ、夢のまた夢だ。せめて、魔術がなんたるものかを理解してから夢見事を吐くがいい。」
「ハァ?大体、お前が先に―――………」
「何を言う。貴様が先に―――………」
二人の言葉の応酬が繰り広げられること数十分
「ッチ。まぁ今回はこれくらいにしてやるよ」
っていうか、そんな事してる場合じゃねぇな。そろそろ40分だし、馬車の待ち合わせ場所に行かねえと。
---
「んーと、確かこの店の角を曲がった先で待ち合わせてたと思うんだが...あった!」
馬を二匹手懐け、荷車を繋ぐ馬車の姿があった
「すいません。昨日お話しした、パリス・カーディールなんですが」
「あぁ、君かい。少し遅いから、何かあったのかと思ってたよ。じゃあそろそろ出発するから、後ろの荷車に乗りな。」
「分かりました。」
「おっと。忘れるところだった。ここから南暑地の入り口までだから...まぁ銅テラス硬貨15枚ってところだな。」
「分かってますよ。これで。」
「へへっ 毎度」
お金を払い、馬車に乗る
はぁ。やっぱりクソ高ぇな、コレ。まあ正直な話、歩いて南暑地まで行くってなると、ガチでしんどいからな。まあこれも一つの経費だと思うしかねぇか。
「ん?」
ふと、今来た道を振り返る。
「...気のせいか」
「じゃあ、出立するぜ。」
---
荒野の様な、砂漠の様な、乾燥地帯を馬が駆ける
ここからおよそ5km先に、南暑地のキャンプ地があるため、今はそこに向かっている
「おい、パリス」
「なんだよ。ジオ」
「目の前に、お前の様な粋がった剣士が二人、そして、魔術師が三人いるが...此奴らのように、お前もパーティーを組まないのか?俺としては、そろそろ貴様にパーティーを組んで欲しいのだが」
「何回も言ってんだろ?ゼオ。俺は、俺が組みたいって思った奴としか組まねぇよ。」
「それは、お前のプライドからか?」
「いいや違うね。パーティーを組むんなら、互いに心が通ってねえといけねぇ。そこらで出会った、日雇いみてぇな魔術師や剣士なんかと一緒にクエストに行ったって、どうせ誰かが死ぬだけだ。それなら、どれだけ掛かろうと、心の底から信じることの出来る奴が現れるまで探した方がいい。」
「成る程な。お前の考えはよく分かった。確かに、信頼できる仲間を見つけることは重要だ。だが、そんなお前に一つ言ってやろう。その言葉を吐き続けて、一体今日で何年目になると思う?」
「...2年目?」
「3年だ。3年間、お前はずっとそんな事を言い続けている。いい加減、そろそろ仲間を見つけろ。後悔する事になるぞ?」
「はぁ、分かったよ。今年こそは見つけてやりますよ。それよりも、ほら、見えたぞ。キャンプ地だ。」
パリスが窓から身を乗り出す
その視線の先には、南暑地の入り口とも呼ばれる約100人程度が生活するキャンプ地があった
---
「着いたぜ、兄ちゃん達。」
「あざした」
「おうよ。...あっ!そうだったそうだった。言い忘れる所だったぜ」
「ん?どうしたんすか?」
「俺は今からこの乾燥地帯を抜けてメデルの街に向かうんだが、そこでちょっとしたら、またコッチに戻ってくるんだ。だから、そうだな...今が8時30分だから...まぁ大体夜の10時くらいには此処に帰ってくる。タークルの街に帰りてえんなら、その時間に此処にいてくれ。送ってってやるよ。それに、そうだなぁ...まあアンタは渋らずに気前良く15銅テラス出してくれたんだ。その時は半額以下の7銅テラスで送り届けてやるからよ。じゃ、そういうことで、じゃあな。兄ちゃん。」
「おう、また頼むぜ。」
その言葉に反応するように、男は親指を上げた
それを見て、パリスは背を向け歩き始める
「さてと、それじゃあ行きますか!」
...ん?
パリスは訝しむ様子で、辺りを見回した
、、、
まただ。また、なにかを感じた。ストーカーか?まぁ、気のせいだろ。
「ここからどうするんだ?カカドウルフはどこにいる?」
ジオが話しかけてくる
「この道を真っ直ぐ行った先に、看板が建てられてるんだ。その看板の先には、南暑地のオアシスが幾つかあるんだが、そこにはカカドウルフが水を頻繁に飲みにやってくる。今回は、群れから逸れたカカドウルフが水を飲みに来たところをズバッといく作戦だ。」
「ほう。俺の知っている頃とは地形が随分と変わっているようだな。まさかこの乾燥地に、オアシスが出来ているとは」
「...なぁ、いつも思うんだがよ。その、この世界の過去を知ってますよ〜アピールやめてくれないか?鬱陶しくて仕方無いんだが、、、」
「何故だ?事実、この地は2000年前までは何もなかったのだぞ?それが、このように迫害されていた魔族や人族の手で発展しているのだ。喜ばしいことだろう?」
「まあ確かにそうなんだがよ。てか、お前のそう言う話を聞くたびに、いっつも思うんだがよ、お前は一体何者なんだ?なんで俺の体の中にいる?」
「俺は俺だ。それに、お前の体の中にいたくているわけじゃ無い。それを忘れるな。」
「はいはいそうですか。まぁ、その話はまたおいおいするとして、そろそろ着くぞ。南暑地のオアシスだ。」
燦々と降り注ぐ太陽の光、燃えるように暑い乾燥地に存在する旅人や冒険者の給水所
これを、オアシスと言う
ここ、南暑地のオアシスは他と比べて、少し小さいが、その分数が多く存在する
よし、着いた。この岩陰に隠れて、カカドウルフが来るのを待ちますか。―――ん?あれは、、、
「あっ!あなたは先程、私達と一緒にここまで馬車で来た人ですよね?どうしたんですか?こんなところで」
礼儀の良い男の魔術師が話しかけて来る。さっき、一緒に馬車に乗り合わせた5人パーティーがここに来たようだ。
「よぉ。俺はここに逸れたカカドウルフを狩りに来たんだが、もしや...」
「ええ。実は、私達も群れから逸れたカカドウルフを討伐する依頼を受けていまして...」
「因みに、討伐する数は?」
「5匹です」
「俺もだな」
「なるほど...つまり、これは...」
「二重依頼だな。こりゃ」
「ええ、そのようですね。」
---
オアシスに近く、大きな岩陰で、6人が互いに意見を交わす
「さて、どうする?この状況」
「そうですね、、、あなたも、私達と同じようにタークルの街からやってきたので、帰るためには、かなりのお金を使います。どちらかが諦めて帰るとなると、損が生じてしまいますね...どうしましょうか」
「そうだな...どうしようか?」
んーこういう時は普通、早い者勝ちなんだが、今回はどうもな...
男の魔術師の方を見る
コイツは礼儀正しいから、早い者勝ちってのはなんか違うんだよな。んーどうしようか...
「てか、もしかしてアンタ、一人か?」
男剣士が話しかけてくる
「あぁ、そうだ。それがどうかしたか?」
「そうだ、じゃねぇよ。群れから逸れた5匹程度とはいえ、カカドウルフだぞ?一人で勝てんのか?」
「ああ、そういうことなら大丈夫だ。俺はこう見えて、剣星流の上級だからな。5匹くらいなら怪我なく勝てる。」
「そうか...なら良い」
なるほどな。俺の身を案じてくれてたのか。そりゃあ嬉しいんだが、そんなことよりも早くこの二重依頼を解決しねぇと、カカドウルフが水を飲みにきちまう。さて、どうしたもんか...
「では、こういうのはどうでしょうか?」
魔術師の男が口を開く
「私達と一緒にカカドウルフを討伐しませんか?報酬に関しては、折半するという形で。今回の報酬は銅テラス100枚ですが、カカドウルフの肉や毛皮を一定量持っていくと+100銅テラスとなりますので...私達と一緒にカカドウルフを狩る。そして、100銅テラスずつ分ける、というのなんかはどうでしょう?」
「いい案だな。賛成だ。」
「では、そういうことで。短い付き合いになりますが、よろしくお願いします。」
魔術師の男が座りながら礼をする
「私達のパーティーの名前は、バックアンテナです。そして、このパーティーのリーダーを務めています。グラウスです。よろしくお願いします。」
「俺の名前はパリス・カーディールだ。こちらこそ、よろしく頼む」
握手を交わす二人
その岩陰の裏で、モンスターの鳴き声がした
「この声は!」
「ああ、カカドウルフだ。ちょうど来やがった。」
「その様ですね。行きますよ、みなさん。今回は、このパリスさんと一緒に行動するため、出来るだけ簡単な布陣でカカドウルフを追い詰めます。分かりましたね?」
男剣士が反応する
「ああ、問題無い。」
「よし」
岩陰から身を乗り出す
「奴ら、まだ周りを警戒して水を飲んでいませんね。」
グラウスがこちらを見る
「奴らが水を飲み始めたら、私達が奴らを魔術で囲います。その間に、パリスさんはこちらの剣士二人と協力して奴らを攻撃して下さい。私は治癒魔術が得意ですので、もし怪我をしたら下がって下さい。そのときは私が治癒します。よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ。問題無ぇ。」
「分かりました。それでは、、、」
辺りが静まるその瞬間、
カカドウルフが水を飲み始めると同時に、グラウスが声を上げる
「今です!ヘンス!クライア!」
「大いなる地には恵を。小さなる我らには導きを。その恵を、我らに導きを与え給え!大いなる土壁!」
「地下にて眠り、世界を構成するものよ。我らにその力を与え給え!巨大な石錬壁!」
二人の魔術師が詠唱を唱え終わると、カカドウルフの左右を囲むように、大きな壁が地面から這い出てきた
だが、正面と背後は壁が生成されていない
カカドウルフは一体何事だ、と動揺する
その隙を見逃さず、二人の剣士は走っていた
「俺が右に行くから、ターナは左に行ってくれ!」
「了解!」
慣れた手付きで、カカドウルフを囲むバックアンテナのメンバー達
「なるほど、そういうことか!」
まず、カカドウルフの左右を二人の魔術師が壁で囲む。そして、正面を二人の剣士が抑える。オアシスの方を壁で囲まないのは、二人の魔力消費量を抑えるためだろう。たとえ、オアシスの方から逃げようとしても、そこは水場だ。自由に動き回れず、行動を制限される水場では、魔術師の格好の的になる。あとは、剣士の二人がカカドウルフに詰め寄ることで、簡単に依頼をこなせるってことだ。よく考えられてるな。名付けるなら、背水の陣強制作戦って言ったところか。
「ッハ、何だそのネーミングは?しょうもない」
「うるせーぞジオ」
バックアンテの面々の顔を見る
みな、落ち着いていた
「うっし!俺も行きますか!っと、その前に、一つグラウスさんに確認したい事が」
「?どうしたんですか?」
「このパーティーに、戦闘中の決まり事ってありますか?例えば、敵を倒す時は2対1で戦うとか、パーティーだけの合言葉とか」
「戦術によってはありますが、今回の作戦ではそういったものはありません。いつも通り戦ってくれれば、私達がサポートしますので、大丈夫です」
「了解!よっし!それじゃあ、、、行くぜ!」
パリスがカカドウルフ目掛けて走る
その速さは、先駆けて走っていた剣士二人とは一線を画していた
「速い!」
男剣士が反応する
剣星流の上級って言ってたから、強いとは思ってたが、足もめちゃくちゃ速いな。あの人。流石、一人で生き抜いてるだけはあるな。
「パリス!俺達は左右から追い込む。だから、アンタは中央を頼む!」
「いや、大丈夫だ。二人は出口を塞いでおいてくれ。俺が中に入ってアイツらをぶっ飛ばしてくるからよ。」
「えっ!?でも、危険じゃ...」
全てを言い終わる前に、パリスが目の前を通過して行く
この目は、、、もう止まらない目だ。あの人は、アイツらを一人で倒せる自信があるんだ。じゃあ、俺らは...
「ターナ!俺達はここで、逃げてきたカカドウルフを狩るぞ!中はあの人に任せる!」
「分かったわ。グラウィル」
一方、カカドウルフに向かって、名を名乗る男がいた
「俺の名はパリス・カーディール!行くぞ!狼ども!」
「ワオオォォォーン!!!」
カカドウルフが咆哮する
アイツらに、中を任せてくれって言ったからには、ちゃんと仕事しねぇとな。
腰に携えた剣を右手で掴む
それと相対するように、1匹のカカドウルフが走ってきた
パリスは、迷う事無く剣を振り抜く
「はぁぁぁっ!」
剣はカカドウルフの体を切り裂き、その肉は見事、上下に切断されていた
「グルルルル...ガウッ!ガァーッ!!!」
それに怒るように、残りの4匹もパリス目掛けて走ってくる
「だよな!仲間を殺されたんだ!そりゃ怒るってもんだ。だが、俺らも本気でな!すまねぇが、死んでもらうぞ!」
パリスは剣を使い、攻めてくるカカドウルフの首を1つ、2つと次々と斬り落としていく
その姿はまるで、冷酷無比な鏖殺者のようだった
「これで最後だ!」
そう言うとパリスは、最後の1匹の首筋目掛け、剣を突き刺した
---
「よし、こいつで最後だな。」
そう言いながら、パリスはカカドウルフの肉を布で包み、皮を剥ぎ取る
「ふぅ、これでこっちは終わった。そっちはどうだ?もう終わりそうか?」
「ええ、私達もコイツで最後です」
「そうか。なら、手伝う必要はなさそうだな」
「ええ。ところでなんですが、お強いですね。パリスさんは」
「そうか?まぁ、俺も伊達に一人でクエストこなしてるわけじゃねぇからな。そんじょそこらの奴らよりかは、強いと思うぜ。」
「ええ。私もまさか、一人でカカドウルフ5匹を倒すとは、思ってもいませんでした。ウチの剣士のグラウィルは、剣星流の中級でして、実力的には、あまり差がないものだと思っていましたが、まさか、中級と上級であれだけの差があるとは、、、」
グラウィルがムッとした目でグラウスを見る
「中級剣士で悪かったな。グラウス」
「いや、そういう意味で言ったワケじゃないんだが...」
立ち止まりながら話をする二人に、女の魔術師が語りかける
「ほら、雑談は歩きながらしてくれ。カカドウルフの素材はもう全部回収しただろう?なら、歩くのが先だ。」
「そうですね。すいません、パリスさん。お見苦しいところをお見せしました。では、行きましょうか。」
グラウスがそう声をかけた瞬間、オアシスの方向から、無数の影が現れた
「ッ!グラウス!オアシスの向こう、何かがいるぞ!」
「なっ、、、あれは...まさか!」
そこにいたのは、カカドウルフとよく似た獣の群れだった
「あれは、カカドウルフの近縁種、シードルフ!まさか群れで現れるとは!」
「グラウス!早く走るぞ!今ならまだ間に合う!」
「そうですね!みなさん!ここからキャンプ地まで走ります!さぁ、早く!」
だが、グラウィルは走らない
「どうしたんですか、グラウィル?どこかおかしいところでも?」
グラウィルは震えた声で伝える
「グ...グラウス、、、前、...」
「前?―――っ!?」
固まる一同
その目線の先には、シードルフが無数に在った
つまり、挟み撃ちである
「...何か作戦はあるか?」
パリスが口を開く
「...いえ、ありません、、、」
それにグラウスが応答する
パリスは覚悟を決める
「そうか、、、...なら、道は一つだな。」
「?何か手が?」
「いや、手っていう程の手じゃねえんだが、聞いてくれ。正面はそっちの剣士二人が守る。そして、そのサポートをグラウス含めた魔術師3人にお願いしたい」
「パリスさんはどうするのですか?」
「俺は殿を務める」
「それは...危険では?」
「大丈夫だ。俺が強いのは知ってるだろ?それに、こういう時は、誰かが殿になるのが定石だろ?」
「そうですか...分かりました。では、行きましょう!」
「ああ!」
6人は走り出す
それと同時に、シードルフも此方を目掛けて一斉に走り出す
敵の数は...前後合わせて30匹っていったところか。まずは目の前から走ってくるシードルフだが...
「はああぁぁぁ!」
グラウィルが剣を振りかざす
よし、あのグラウィルって剣士、中々やるじゃねえか。一人で一匹倒せるんなら上々だ。
次は抜けて来たシードルフだが、
「熱をここに。我ら生命の強さを示したまえ!簡熱放射!」
女の魔術師クライアが放った火魔術は、シードルフの体を焼き焦がした
よし、大丈夫だ。アイツらもちゃんとシードルフを殺せる!後は...
「グァァァオォォォン!!」
「お前らだ!」
無数のシードルフがパリスに襲い掛かり、パリスもそれに応戦する
コイツらはただの獣じゃねえ!群れで行動するレベルには頭が回る奴らだ!そりゃあ一人でいるやつを攻撃するよな!でも...
「俺は強いぞ!」
そう言うとパリスは、襲い掛かってきたシードルフ2体をまとめて両断する
これなら行ける!このまま、アイツらと陣形を保ってキャンプ地まで進んで行けば...
「後ろだ!パリス!!!」
ジオが声を荒げる
パリスの背後には、一際大きいシードルフが迫っていた
だが、パリスの剣は間に合わない
「パリスさん!」
グラウスが反応する
だが、グラウスの魔術は間に合わない
「クソッ!マジかよ...!」
こんなところで...死ぬわけにはいかねぇんだよ―――!