第一話「とある---の夜と、とある少年の朝」
星刻歴50241年
「ハッ!!! その程度か?英雄ども!この俺を倒すと息巻いていた頃が懐かしく感じるぞ!」
そう豪語する×××は、英雄と呼ばれる者達を次々と薙ぎ倒していく。ただ物理的な力だけではない。魔術。そう呼ばれる力を使って。
「...そうか。終わりか。存外、楽しめたが、それだけだ。貴様らは、俺を倒せると言っていたな。
クク...クハハハハ!だが結果はどうだ!?確かに、俺も左腕を失い、体の至る所に傷を負った。だが、貴様らは違う。多くの命を失った。多くの街を失った。残ったモノは、ただ息という生命活動を行っている矮小なる存在に過ぎん。
ハッキリと言おう。貴様らの敗北だ。」
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「おっちゃーん。ここに2日間泊まりたいんだけど、何テラス?」
「6銅テラスだよ。」
「りょうかい」
そう言うと少年は、ポケットからお金を出した
「はいこれ」
「丁度だね。毎度。部屋は2階の一番奥を使うといい。」
「ほーい」
少年の名はパリス・カーディール
茶髪に混ざった白髪が特徴的であり、金色の瞳を持っている。男らしくも整った顔立ちをしている彼は
弱冠14歳にして、Cランク冒険者である。たった今、クエストから帰還したところだ
「ふぅー疲れたー」
そう言ってベッドに倒れ込む
なんとか宿は確保できた。あとは...
「店が閉まる前に晩飯買いにいくか。」
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何を買おうか。パンだけでも正直いいんだが、明日はBランクのクエストだ。力をつけるためも、肉を買うか。
「へいらっしゃい。いい肉が揃ってるよ。」
「そうだなぁ〜 じゃあこの肉で。」
「おっ いいのに目付けるね兄ちゃん。3銅テラスだよ。」
「これで」
「毎度あり」
ふぅ。飯も買えたことだし、宿に戻りますかぁ。
...パンも食いてぇな。
人通りの多い大通りを抜け、
少し静かな閑静街へと足を向ける
「これで」
「毎度」
結局パンも買ってしまった。はぁ、ここのパン屋ちと高いな。まぁこんな人通りの少ない所に店を構えて繁盛してるところを見ると不味くはないようだ。
まぁいいか。細かいことはいちいち気にしてらんねぇよな。さ、早く帰ろうっと。
...うん?
パリスが目を凝らした先には、建物に横たわるローブを着た獣人の女の子がいた
そのローブは泥をひっくり返したかの様に汚く、
ぼろぼろになっていた
あれは、、、ローブでよく見えねえが、白髪の...獣人か?何でこんなところにあんな姿で...あぁ、そうか。捨てられたのか。いや、もしかしたら奴隷になる前に逃げてきたのかもしれない。可哀想に。だが、俺も一日生きるのに必死なんだ。すまないとは思うが、関わらないのが一番だな。
... ... ....
「おい」
「?」
「腹減ってんだろ?ほら、やるよ。分けてやれるのはパンしかねぇが、まぁ腹の足しにはなる。」
「...大丈夫だ。気にしないでくれ。」
「大丈夫って... じゃあ最後に食べたのはいつなんだ?」
「今日の朝だ。」
「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか」
「私は獣人だ。獣人は他の種族と違って腹持ちが良い。それに、お前の好意を断るのは忍びないが、返せぬ借りを作るのも悪い。すまないな。」
「おう...そうか...」
キッパリ断られちまった。しかしまぁ、近くで見てみると、これまた印象が変わるな。多少野生味溢れるが、整った顔立ちをしている。頭には...猫耳も生えている。それに、腰には凄そうな剣を携えている。腹筋もバキバキだ。背の高さ的に、同い年くらいか?これは女の子って言うよりかは、女戦士の方が似合ってるな。こりゃ。
「? どうかしたか?」
女戦士が訝しむ顔でこちらを見る
「いやぁゴメンゴメン。さっき見た印象と少し違ってよ。まぁそれはいい。それよりも飯の話だが」
「先程も言っただろう。私は受けた借りを返せぬと。」
「別にいいよ、借りなんて。俺は男だ。男にニ言はねぇ。ほら、受け取ってくれ。」
「この袋は?」
「テラス銅貨10枚だ。それがあれば1日くらいは持つ。2日目からは...あとは頑張ってくれ。」
「だが...」
「いいんだよ。これは俺の気持ちだから。」
「そうか... 分かった。なら、お前の名前を教えてくれ。」
「俺の名前?なんで?」
「ただ、助けて貰う者として、助けてくれたヤツの名前を聞きたいだけだ。」
「そういうモンなのか?まぁ、別にいいけどよ。俺の名前は、パリス・カーディールだ」
「そうか、分かった。ありがとう、パリス。これは有り難く頂戴する。」
「おう、そうしてくれると俺も助かる。んじゃあまた、どっかでな。」
「ああ。じゃあな。」
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宿へ向かって歩くこと10分
いやーやっぱりいい事をした後は気持ちが良いな。
俺の食べるパンは減っちまったが、まぁいいか。
今の俺にはなんとも言えない満足感が腹を満たしているからな。まぁただの自己満足なんだが。
そんな事を考えているうちに、宿へ着く
「さてと、飯の準備を」
「何故あんな事をした。パリス」
頭の中。そこ存在している、もしくは心の中に潜んでいる黒く淀み、濁るモヤが俺に話しかけてくる。
俺は、その言葉に応答する。
「はぁ...何度も言ってんだろ、自分が楽しく生きていくためだって。」
こいつは、よく俺の頭の中に話しかけてくる。名前はジオ。
不思議なことに、俺の中には、何かがいる。それが一体どんなものなのかは俺にもよく分からない。
多分、こいつは俺が産まれた時から俺の中にいる。俺が物心ついたときにはいたから、多分そうなんだろう。
ただ一つ分かってるのは、こいつと俺が"盟友"だってことだ。小さい頃の俺がなってくれって頼んだらしい。まったく、、、何やってんだよ。俺。
まぁ悪い気はしないからいいんだが。
「何故楽しく生きてゆくために人を助ける?俺には心底理解できんな。」
「理解できなくて結構だ。俺も、お前に理解できるとは思えねぇからな。」
「ハッ、丁度俺もそう思っていたところだ。ところで、今日の飯はなんだ。肉か?魚か?」
「てめぇは食わねぇから別にいいだろ。...肉とパンだよ。」
「そうか、俺はパンが嫌いだ。」
「そうかよ。そりゃ良かった。好都合だ。」
二人は何気ない言葉を交わす
パリスは笑っていた
黒いモヤも、表情を伺うことは出来ないが、笑っているように見えた
「まぁとりあえず、飯食うか。」
明日の朝は早い。早く飯食って歯磨いて寝るか。
「にしてもこの肉、筋は硬ぇが身が美味い。これはいい買い物したぜ。」
「その肉とパンを一緒に食べてみろ。美味いぞ」
「なんでテメェが知ってんだよ。しかも絶対合わねぇだろ、パンと肉なんて。
ソーセージならまだしも......意外とこのパンと食うともっとウメぇな」
「ほらな。」