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水溜まりの国のアリス ~Alice in Puddle~

作者: 白黒西瓜

始めまして、白黒西瓜しろくろ すいかです。

犬好きの妄想を書きました。

「おはよう、ゆずる。朝だよ、散歩に行こう。」


 誰かが私に話しかけている……気がした。


 私の名前は、有巣ありす 弓弦ゆずる

 東京郊外のペット可物件の賃貸で一人暮らしをしている、三十七歳、女性である。


 なので、明け方に家の中で声を掛けて来る人などいないのだ。


「ゆずる、起きて。散歩に行くよ。」


 確かに私に話しかけてきている。


 恐る恐る目を開けると、目の前には、きらきらした二つの瞳が付いている毛むくじゃらの何かがいる。

 はっとしながらも、よく見ると、愛犬の『みかん』である。

 愛犬みかん、四歳、ジャックラッセルテリア。


「ゆずる、やっと目を覚ました、早く起きて!散歩だよ。」


 そう言って、みかんは私を急かした。


 暫くぼーっとした頭で、何も考えられずにいたが、頑張って言葉を発した。


「ねえ、みかん。何で人間の言葉を喋ってるの?」


「やだな、いつも話してたじゃない。どうしたの?頭おかしくなったの?」


 心配そうな目つきでみかんが私を見た。


 そうなのか、いつも喋ってたのか、それは知らなかった。





 夜が明けて間もない、気持ちのいい時間だ、確かに散歩にピッタリ。

 今日は休日だし、のんびりと早朝の散歩を楽しむことにした。


「みかん、普通は動物は喋らないから、外では喋らないでね。いつも通りにワンって言ってね。」


 オレンジの首輪に、白のリードにつながれたみかんが、こちらを振り向き


「何言ってるの、他の犬も喋るよ。」


 そう言って、目の前の水溜まりに突進した、そして水溜まりの水を凄い速さでペロペロと飲んだ。


「汚いから、水溜まりの水は飲まないでって言ってるでしょ。飲みたいならばここにあるよ。」


 そう言って、犬用のウォーターボトルを差し出した。それでもみかんは水溜まりの水を飲んでいる。


「こっちの方が、味がして美味しいんだよ。それに、下を覗いてみて。」


 そう言われて、水溜まりの中を覗き込んだ。

 回転寿司屋だ……

 知らないチェーン店だけど、水溜まりの中に回転寿司屋が見える。

 じっくり見ようと腰をかがめようとしたところ、みかんが前足で後ろから押した。

 私は、みかんを連れて、水溜まりに落ちた。


 この水溜まり深い。

 どんどん沈んでいく。

 どこまで沈むんだろう。


 気が付くと、回転寿司屋の前に、しりもちを付いていた。

『お元気ですか、皆さまごきげんよう 七郷店』

 これが、この寿司屋の名前か?他にも店舗があるんだろうか?初めて目にする回転寿司屋だ。


 隣には、みかんが二本脚で立っていた。

 みかんは自分のリードを外して、私に渡した。

「ここでは、リード不要だから。さあ、お寿司食べに行きましょう。お腹ペコペコなの。」

 そう言って、回転寿司屋の自動ドアの前に立った。

 自動ドアが普通に開いて、みかんが入って行った。私も、急いで立ち上がり、みかんの後を追った。


 受付のタッチパネルのを見ると

 大人 子供 小型犬 中型犬 大型犬

 と書かれていて、人数を入力するようになっていた。


 大人1人、小型犬1人と入力すると、番号の紙が出てきた。十七番テーブルと書かれているので、十七番テーブルに座った。


 自分の席にたどり着くまでにも、沢山の犬を見かけた。

 皆思い思いに寿司を楽しんでいるようだ。

 御主人の膝の上に載って、マグロを貰っている子。

 自分の席に座って、ご主人から渡されたものを食べている子。


 そして、なによりも、寿司を運ぶベルトコンベアには小型犬が沢山乗っていた。

 勝手に寿司の上の刺身をペロペロ舐めたり、刺身だけ引っ張り出して食べたりしている。

 流れているプリンは、半分食べられてしまっている。それを気にもせず、人間が受け取り食べていた。

 従業員が持ってきた、鶏のから揚げに犬たちが群がった。多分、他の席のワンコたちもやって来ている。

 人間が食べられる唐揚げは1つしか残っていなかった。

 人間がそれを大事そうに食べていた。


 衛生上の問題が山積みな気がした。

 しかし、お客も、従業員も誰一人、気にする人がいない。


 注文用のタッチパネルから、アジ、あなご、中トロを選択した。

 目の前のみかんがこっちを見ている。

「みかんは何を注文する?」


「サーモン、マグロ、ローストビーフ……一先ずはそれで。」


 熱いと可愛そうなので、みかんのお茶には水を入れてぬるくてから、渡した。

 みかんが、湯呑を両手にもってお茶を飲んだ。

 可愛い、可愛すぎる。

 思わず、携帯のカメラで写真を撮った。どこぞのSNSに投稿しよう。


 みかんの注文品が届いた。

 シャリは残して、上の具だけを食べた。


「今度注文するときは、犬用の方を選んでね、シャリは来ないから。」

 そう言って、みかんがタッチパネルの右下を可愛いおててで示した。

 確かに犬用と言う選択肢があった。


「分かった、何か追加で注文する?」


「バニラアイス」


 私は、自分のあなごにたれをぬりぬりして、食べようとした。

 じっとみかんがこちらを見ている。


「みかんもあなご食べたいの?」


「食べたい。」


 二貫あったので、一切れをみかんにあげた。

 大満足の顔で食べている、譲った甲斐があったってもんだ。やっぱり可愛い、思わず写真を撮った。

 残ったシャリは自分で食べた。


 ふと、こんなに寿司だのアイスだのって犬にあげていいんだっけ?

 そんな疑問が頭をかすめたが、周りのワンコたちも思う存分に寿司、デザート、揚げ物を堪能しているようだ。




「ケーキが食べたい。」

 寿司屋を出るや否や、みかんが言った。


「寿司食べたばっかりじゃん、みかんはアイスも食べてたし。」


「夕食後のデザートに買って行こうよ。」


「仕方ないな。」


 そう言って、見上げると、そこはケーキ屋さんだった。

『ケーキ屋 ちゃってらいせ』変な名前の店だ。


 そう思っていると、みかんは店の中に入っていた。


 ショーケースには、沢山のケーキが並んでいる。


 みかんは立ち上がり、ショーケースに前足を付けて、茶色の瞳をキラキラさせて中を覗いている。

 暫し覗いてから、ショーケースに前足を付けたまま、顔だけこちらに向けて、上目遣いで

「私は、プリンアラモードと、ベイクドチーズケーキ。」


「二つも食べたら多いよ。一つにしなよ。」

 でも、上目遣いの表情が可愛い。二つ買ってあげたくなってします。

 って言うか、一つだったとしても、犬にそんなにケーキを食べさせていいのだろうか?

 そんな疑問が頭を過ったが、周りでも犬たちがケーキを選んでいる。

 大型犬はよだれを垂らしながら、ケーキを見つめている。


「大丈夫だよ、二つ食べられるもん。」

 そういって、みかんがすねた。

 可愛い。


「仕方ないな。」

 そう言って、私は彼女の要求を飲んだ。


 自分はアップルパイを頼んだ。

 夕食後にコーヒーと食べるのだ。楽しみ。




「今日のお夕食はなに?」

 みかんが私に尋ねた。


 はて?

 君の夕食は、いつものカリカリのドックフードに、レンジでチンしたささ身を乗せたものだぞ。

 そう思ったが、黒のゴムパッキンの様なものに縁どられた、茶色の瞳でこちらを上目遣いで見て来る。

 ああ、いつものカリカリだよなんて言えない。こんな瞳で尋ねられたら、言えないよ。


「何が良いかな?」


「みかんは、お肉が食べたい。牛。」


 牛かよ。豚か鳥で良いだろう。

 さっき、回転寿司屋でローストビーフ食べただろう。

 でも、まん丸の茶色の目が、牛を懇願している。


「牛肉かあ、焼肉にでもしようか。薄めの肉で。」


「みかん、薄めのお肉でも良い。牛。」


 分かったよ、牛が良いのは分かったよ。


 そう言ってスーパーを探そうとしたが、目の前がスーパーだった。

『スーパーなスーパー OKかすまない』これも変な名前の店だ…


 みかんが自動ドアを開けて入って行った。

 カート置き場の前で待っていたので、カートを一つ取り出し、みかんを子どもの座る座席に乗せた。


 野菜売り場を通るとき、みかんは座席で大人しくしていた。

 私は、焼肉用にピーマン、茄子、カボチャ、もやしを買った。


 次に、魚売り場に入ると、みかんは立ち上がって。

「鮭を買って。」

 そう言って、カートから身を乗り出した。


「落ちるから、座って。危ないよ。」


 そう言っても、立ち上がって、魚を覗き見ている。


 塩が付いていない切り身の鮭が安売りしていたので、二切れ袋に入れて、カートに入れた。


 辺りを見回すと、カートに犬を乗せた飼い主たちが、ワンコたちの要求に応じて品物を籠に入れている。


「もう、これ以上は買わないからね。後はお肉と、焼肉のたれだけだよ。」


「えー、みかん、クリームチーズとアイスクリームも食べたい。」


 さっき、アイスは食べただろう。食後のデザートも買っただろう。


「もう、そんなに食べたら駄目!太っちゃうよ。歯にも良くないよ。ダメダメダメ。」


「ダメって言わないで、その言葉が一番嫌い。」


 そう言って、みかんが逆切れした。


「飼い主としての責任があるの、駄目なものダメ~~~~~。」


 私は大声で、スーパーの真ん中でダメと叫び続けた。




 気が付くと、部屋のベットで寝ていた。


 横を見ると、みかんは自分の丸いベットの中でスヤスヤ眠っていた。

 私の視線に気づいて、こちらを見た。フア~っと猫のような声を上げて、また眠りについた。


 何だ、夢だったのか。

お読みいただいてありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?感想など聞かせていただけると嬉しいです!

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