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5 なんて執念なのかしら! ですわ!



 リックとカロナが落としてしまった信用を私は数ヶ月かけて取り戻した。領民たちは豊かな表情になっていった。お父様は小さい頃「領民あっての領主」だと教えてくれていたけれど、それは本当だったのね。領民たちが丁寧に育てた野菜は都心部の方で話題になって流通も盛んに行われる様になったし、国が予算を出して大きな街道を作ってくれるという話まで持ち上がっていた。

「お嬢様〜、ティー撫でてもいい?」

「ティーがいいならいいですわよ」

 牧場のベンチで可愛い子馬を眺めながら日向ぼっこをしていると、学舎からランチタイムで出てきた子供たちが私とティーの周りに集まって持ち寄ったパンやら野菜やらを広げて食べ始める。ティーは子供たちのおこぼれをもらいながらふわふわの毛を撫でさせて上機嫌だわ。


「お嬢様、お便りが届いておりますよ」

 セドリックが子供たちにポップコーンを渡してから、こちらに寄ってくると胸ポケットの中から豪華な封筒を取り出した。金縁に赤い蝋封、王家の紋章。

「王宮から?」

「はい、王宮で社交界のパーティーがある様です。お嬢様はコーネリア家の代表として参加となっております。ですが、いささか問題が」

 ごほんと彼が咳払いをし、私の耳元に口を寄せる。

「妹君とリック殿がいらっしゃるとの噂です」

「あの人たちは社交界を追放になったはずよ?」


 セドリックは目をぐるっと回転させると大きくため息をついた。

「子供のいない男爵家に養子縁組をしたそうです。多額の金銭を盛った元伯爵家の人間を後継ぎがおらず困っていた男爵家は暖かく迎え入れたとか」

 そんな抜け道があったのね……。とはいえ、格下の男爵家に養子縁組だなんてあの子きっととんでもない屈辱を味わったのだわ。

「うーん、ドレスなんかあったかしら……」

「それなら、お父上が送ってくださった美しいドレスがございますよ」


「よし、私が留守のあいだティーの面倒を見てくれる子、手をあげるのよ!」

 バッと子供たちが全員で手を挙げた。

「じゃ、ティーの好きにさせるわよ」

「え〜、絶対ティーは馬小屋じゃんか〜」

「ご飯をあげてくれればいいのよ、ね? よろしくね」

「は〜〜い」



***


 馬車に乗り切らないほどの野菜を積み込んで私とセドリックは王宮へと向かっていた。この野菜は領民からの献上品でどれもこれも最高級のものだ。

 

「厨房に渡したいから、馬車は裏手につけてくださる?」

「御意。それにしても私にまでこんなに……コーネリア嬢なんとお礼を申したら良いか」

「気にしないで受け取って。辺境まで馬を走らせてきてくれたのだもの。もちろん、お馬さんたちの人参もちゃんとあげてね」

 頑張ったお馬さんの鼻を撫でて、優しくたてがみをすいてやれば御礼とばかりにブルルと鼻を鳴らす。

「重たい荷物を運ばせてごめんね。いい子いい子」


 王宮の使用人たちに野菜を運んでもらって、私はドレスを少し直してからセドリックと一緒にパーティー会場へと向かった。

 色とりどりのドレスに身を包んだご令嬢たちはみなパートナーを連れて歩いている。仲睦まじく歩く姿、頬を赤らめて初々しく歩く姿。なんて素敵なの……?

 一方で私は婚約破棄をされた傷心令嬢、なんだか周りの視線が痛いわ。


「でも、私は私らしく。よね」



「あ〜ら、お姉さま。おひさしゅうございますわ」

「久しぶりだな、アメリア」


 あぁ、面倒臭いのが現れたわ。

 私はセドリックに目配せをしてその場を退避しようとする。しかし、カロナはすっと私の前に立ち塞がった。

「あらあらだめよ、お姉さま。この先はパートナーと一緒じゃないとダンスフロアには上がれないわ」

 カロナはこっそりと私に囁いて意地悪く笑った。

 姉妹とはいえ今は私と彼女では爵位も違えば立場も違う。この子は社交界で一体何を学んだのかしら。

「カロナ、私は伯爵家の人間。あなたは仮にも男爵家の御令嬢になったのでしょう? 私には構わないで」



「お姉さまったらひどいわ!」


 カロナは大袈裟にリックに抱きつくと大きな声で


「実の姉妹なのに爵位で差別をするなんて……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


と騒ぐ。涙を浮かべて悲劇のヒロインを演じてみせる彼女、リックはニヤニヤしながらカロナを宥める様に抱きしめた。

「アメリア、いくらなんでも実の妹にひどいじゃないか」


 私たちの周りがザワザワと騒がしくなる。

 周りの人たちがみんなカロナを悲劇のヒロインのように思っているんじゃないかしら。社交界を追放になったとはいえ、その理由を知っている人はどのくらいいる? 私はリックに捨てられた可哀想な女だと思われているのかしら。

 それとも、私は妹をいじめる姉に見えているのかしら。



「セドリック、やっぱり帰りましょう。確かに、パートナーがいない私がくる場所じゃなかったわ。お知り合いの伯爵様にご挨拶をしたら馬車の手配を」

「ですが、お嬢様」

「セドリック、いいの」



 セドリックは突然ひざまづいて最敬礼をする。私ではなく私の後ろに立っていた人物にだ。さっきまでザワザワとしていたフロアはシンと静かになり、カロナとリックはあんぐりと口を開けている。



「お待ちしておりましたよ。コーネリア伯爵令嬢。僕が送った招待状はお持ちかな」


 そこに立っていたのは色素の薄いブルーの瞳をしたあの旅人だった。彼は高貴なチュニックにサーベルト、ダイヤモンドの勲章は彼が王族であることを表していた。

 

 

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