3 外堀はしっかりと埋めるのですわ!
「アメリア嬢、遠路はるばるお越しくださってありがとうございます」
申し訳なさそうにいったのはロードシット伯爵だった。ロードシット家に招かれた私とお父さまは今回の駆け落ちの件でしっかりと対処をすることにしたのだ。
「いいえ、この度はこんな形で婚約が破棄になってしまうなんて」
「我が息子、リチャードが飛んだ真似を……アメリア嬢と婚約しておきながらカロナ嬢と……駆け落ちだなんて」
「ロードシット伯爵、この件に関してはしっかりとご対処いただきたく思いますぞ」
お父さまは毅然とした態度で杖をコンコンと鳴らした。
「リチャード君は我が別宅にあったすべての家財道具とアンティークを盗み出していてね、あれには相当な価値があったものも……それに、カロナも」
正直、誘惑したのはカロナに決まっているのだけどここでは黙っていましょう。リックだってかなりの横暴を働いていたんだし。
「コーネリア伯爵、それはカロナ嬢も同罪なのでは……? この手紙をみるに2人が愛しあっていたのは明白。ですから、罰を下すのであれば平等にしなければならないと思いますが?」
お父さまはその言葉に難しそうな顔をした。お父さまにとってカロナは目に入れても痛くないほど可愛い娘だったのだものね。
「お父さま、ロードシット伯爵様……私は家財道具を持ち出されたことや愛する人を妹に奪われてしまったことを怒っているわけではありませんわ。ですが……私たち貴族は決められた婚約者と領民たちのために生涯を尽くすのが使命。その使命から逃げた2人にはそれ相応の罰をと思っているだけですわ」
「今回の被害者はアメリア嬢だ。コーネリア伯爵、彼女の希望を聴こうじゃありませんか」
お父さまは渋々頷いた。
「私が望むのはただ一つ、リチャード・ロードシットとカロリーナ・コーネリアの社交界永久追放と両家による援助の禁止ですわ」
「アメリア嬢、それでは甘すぎます。コーネリア家の別宅には数々の値打ちのある家具やアンティークがあったはず。それを持ち逃げした彼らは一生食うに困ることはないでしょう」
「アメリア……」
お父さまな複雑な顔だ。
「お父さま、カロナは亡きお母様の形見である指輪も持っていってしまったのですよ」
お父さまは、ハッと息を呑むと「なんということだ……」と頭を抱えた。
「ですから……彼らが2度と貴族の社会に戻ってこられなくするだけで十分なのです。カロナは愛を取る代わりに家族とそれから名誉を捨てたのです。貴族として彼女の行動は一生後ろ指を刺されることになるでしょう。それはいくら何でも残酷ですわ。ただ、愛する人と一緒に暮らしたいというカロナの思いを……私は姉としてその願いを叶えてやりたい……それだけですわ」
私としては2人が現実社会に飽きてしまって「戻ってきたい」と言うのをどうしても阻止したかった。カロナのことだから、最初のうちは熱をあげていてもそのうち飽きてしまって泣きついてくるに決まっている。お父さまはきっと許してしまうのだから、先に手を打っておかなくては。
お父さまとロードシット伯爵はリックとカロナに関する誓約をかわし、2人を勘当した。この事実は一晩にして社交界中に伝わり、実質的に2人は貴族社会から追放されたのだった。
「アメリア、本当に大丈夫なのかい? しばらくパパと一緒に城下町にいたらどうだい?」
「ううん、いいの。 リックが領民たちに横暴を働いたぶん、私が信用を取り戻さないといけないし……それに私は生まれ育ったあの場所でゆっくり心の傷を癒したいの。セドリックもいるし安心よ」
「そうかい、何か欲しいものがあったらパパに言うんだよ。今この時から娘はアメリア1人だけなのだから……」
「じゃあパパ……ママの形見の指輪を探して欲しいの。セドリックによれば街の質屋に出されたようなのだけどどこかのお金持ちが買ってしまった様で……、お願い」
「パパに任せなさい」