2 ログハウスですわ!
「お嬢様、本当にこんな小さなお屋敷で……お屋敷というより木こりの住処のようですが……」
「いいのいいの、完璧よ!」
森の中に出来上がった小さな木の小屋は私がひとり住むには十分な広さだ。セドリックが心配するので彼のために屋根裏部屋を作ってもらった。こぢんまりした暖炉と暖かい木目に囲まれた空間、領民たちに作ってもらった家具……。食器や調理器具もいらないものを譲ってもらったし、ふかふかのベッドもつぎはぎだらけだ。
でも、田舎の領主として領民たちに寄り添うためには同じ様に暮らしてみねばならない。お父さまもきっと感心してくれるはずよ。
「お嬢様、お茶を」
「ありがとう、セドリック」
セドリックが小さなキッチンでヤカンに火をつけ、ティータイムの準備をする。不揃いなティーセット、ポットなんかは少し欠けていて味があるわ。
「お嬢様〜!」
大きな声が聞こえてドアを開けてみると、そこには可愛らしい小さな動物を抱えた子供が立っていた。
「あら、ブライアン。遅かったじゃない」
「へへへ、ごめんよ〜。だってお産は1ヶ月だったんだもんよ。お嬢様に1匹譲ってほしいなんて言われた時はびっくらしたけど、ほら可愛い子が生まれたんだよぉ」
ふわふわの小さな黒猫を私は受け取るとそっと手の中で撫でる。みゅうみゅうとなく子猫は目を細め楽しそうに手をバタつかせた。
「なんて可愛いの」
「うちの馬小屋で生まれてさぁ、ほら馬はいろんな動物と仲がいいから……でもうちでは飼いきれなくてお嬢様が一緒にいてくださるなら幸せだぁ」
「おや、ただの子猫ではありませんね」
お茶を容姿したセドリックが私の手の中の子猫を見ていった。
「さすがは、執事のお兄さん。この子はケットシーだよ。猫の妖精みたいなもん。馬小屋でネズミが入ってこない様に代々番をしてくれてるんだぁ〜お嬢様のところもきっとこの子が守ってくれるよ」
ケットシーは家の守り神としてこの地方で伝わる猫の妖精だわ。お家の食糧をネズミや虫から守り、その生涯を主人と添い遂げると言われている。
「あっ、寝ちゃったわ」
くぅくぅと寝息を立てて、子猫は眠ってた。
「かわいいねぇ」
「これは、かわいいです」
子供もセドリックも囁き声になる。
「でも、ケットシーって成長が早いからすぐにおっきくなっちゃうよ」
***
「名前は何にしようかしら」
ベッドで眠る小さな黒猫を眺めながら私はティータイムを過ごしていた。ふわふわの毛並み、長くて立派な尻尾。ケットシーはそんなに大きくならないし
「オスメスは確かめましたか? お嬢様」
「えっ、どうやって確かめるのかしら?」
セドリックは子猫の尻尾をやさしく摘むと軽く猫の尻を確かめた。
(まぁ……そういうこと)
「この子は雄猫ですね。お嬢様をしっかり守ってくれるでしょう」
「名前、どうしようかしら。あの子に決めて貰えばよかったわ。うーん」
「こういう時、名前というのはふとした思いつきでつけることもありますよ。例えば、出会った時何をしていたか……とか」
目の前には不揃いのティーセット。セドリック特性のハーブティー。
「ティー……」
「決まりですね」
「みゅうみゅう」
「あら、起こしちゃったわね。ティー。これからよろしくね!」