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機種変更

作者: 三駒丈路

 頭にはちょんまげを乗せ、腰には人を切れる刃物を下げた人物がスカートのようなものをはいて偉そうに歩いていた……。

本当にそんな時代があったんだろうかと思ってしまうが、蓄積された歴史という知識を紐解けば、真実だったらしい。検索をかければ、そんな幕末とやらの写真も出てくる。

 まあ、気軽にそういった検索などできなかった時代、スマホというものが無い時代というのもあったわけで。そのころの暮らしというのを考えると、それはもうちょんまげと同様、歴史の彼方みたいなものだ。


 登場からしばらくすると、スマホは生活の必需品となっていた。当初は少し便利な電話機というだけだったらしいが、機能とともにどんどんその存在感を増していき、電話機能はオマケみたいなものになっていった。

 何かを調べるのにスマホ。地図を見るのにスマホ。読書や動画もスマホ。移動の際の切符はスマホ。財布もスマホ。なんでもできてしまう。

 さらには免許証やら保険証やら個人識別やらの機能も持つようになると、スマホの重要性はとてつもなく大きくなった。

 そうなると怖くなるのが、紛失や破壊や盗難など、スマホを失ってしまうことだ。スマホが無くなると、何もできなくなってしまう。自分が自分であるという証明すら失ってしまうことになるのだ。

スマホ持たざるは人間にあらず。というのは当時まだ言い過ぎだったかもしれないが。


 それで、生体チップ型のスマホが開発された。スマホを身体に埋め込んでしまうのだ。そうすれば失ってしまうことはない。食事をしていればエネルギーが供給され、電源の必要もない。

 当初は数年おきに機種変更としてチップを交換する必要があったが、バイオアップデートという技術革新により一生交換する必要はなくなった。それに伴い、新生児にはすぐにスマホを埋め込むというのが常識となった。

 もちろんそれに反対する声もあったのだが、スマホチップの有り無しはその子の人生に大きく影響を与えるので、いつしかすべての人間がスマホ埋め込み人間になった。

 なにせ、スマホは埋め込む時期が早いほうがAIと身体との親和性が高くなり、優秀な人間になったというのだから。

 そうやって育った子どもは自然にスマホ機能を使って生活できる。知識も世界中から集めることができる。ただ、その膨大な知識をうまく扱うにはAIを育てる必要がある。AIを育てるために学校へ行ったり塾へ行ったりしなければならないというのは、スマホ無し時代と変わらなかったようだ。


 そして、そんな時代すらも過去の話になった。もはや人間にスマホが搭載されているのは当たり前だったし、バイオアップデートを繰り返したAIの発達により人間が自ら思考する必要も無くなった。そういう面倒なことはAIにまかせておけばいいのだ。人間は何も考えずスマホを維持するために動き、栄養を摂取してくれさえすればよくなった。


 ……こんな昔のことに思いをはせるのも、私の身体が年をとったからかな。そういえばヒザも痛いな。身体にガタがきているのか。そろそろ機種変更した方がいいかな。明日あたり、ボディーショップに行ってみようか。身体さえ取り替えれば、我々スマホはずっと生きていられるわけだからな。便利なものだ。

 ものを考えられなくなった人間の身体がずらりと並ぶボディーショップの光景は壮観だし、そこから好みの身体を選ぶ楽しみもある。いい身体が入荷しているといいなぁ。


 2023/04/24の新潟日報読者文芸コント欄に「選評」された作品。「秀逸なアイデアのみで、物語不在」とのこと。


 どちらかというと、アイデア的にはありがちかなぁ、と思いつつそこへどう持っていくか考えたつもりだったのだけど。確かに最後は急ぎすぎたかなという気もする。

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