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5 さっそく、顔剃りをしてみよう

「イヨ、居るか? 出来たぞ! 」


カイが自宅の岩穴に飛び込むように入ってくる。もちろんその手には、カミソリが光っていた。


「カイ兄!! もうできたの? 早くない?! 」


「俺が手伝ったからなぁ。」


カイの後ろからがははと笑うシンも顔を出した。

八重歯もシンの口から顔を出すほどいい笑顔だ。


「カイが頭を抱えてるから結局、搾実器じゃなくてイヨの刃物の手伝いをしちゃったわ。」


「いや、刃物はすぐ作れたんや。ただ、持ち手は俺の専門じゃないから、な? 」


「よー言うわ! 刃が小さすぎるし薄すぎるし難しすぎるってブツブツゆーてたくせに。」


「シン黙れ ―――んで、これはなにに使うんだ? 」


「そう、それが気になってつい帰ってきちゃったわあ。」


カイとシンは興味津々の表情でイヨの顔を覗きこむ。

二人の兄と、オイルとカミソリを交互に見ながらどう説明すべきかとしばらくかんがえるが、イヨは正直に話すことにした。





「「顔の、毛を、なくす??? 」」


「うん。……だって、エルフもヒューマンも顔に毛が生えてないし。前に見たエルフみたいに綺麗になりたいんだよ。」


「そうは言うが……、エルフとドワーフは全く種族が違うだろ? 」


「そりゃ種族がちがうけどさ。カイ兄たちだって、あのエルフ綺麗だ可愛いだって、ずっと言ってたじゃん。」


「……んんっ。――まあ、あのエルフは麗しかった… 」


「がはは。思い出しただけなのに、カイが真っ赤になっとるわあ。」


「シン黙れ。お前だって時折あのエルフの話題を出すくせに――― こほんっ……。イヨは毛がなくなればエルフになれると思っているのか。」


「エルフとか綺麗とか、そこまでは言わないけどね……、ちょっと近づけるかなって。」


―――少なくとも、前世くらいの顔になりたい。



「顔の毛がなるなるだけで、エルフになるとは思えねぇが―――。まあ、イヨがしてみたいってんならやらせてみたらいいんじゃねえか。それよりこの道具でどうやって毛をなくすんだ? 」


うむ、とカイは腕を組ながら頷く。

「まあ、とりあえず刃物の具合も知りたいから、顔の毛をなくすところを俺たちにも見せてくれないか。」


えー、なんか恥ずかしいからやだなーという本音をぐっと飲み込んだイヨは、とりあえず綺麗とかよりも真新しい道具の使い道にわくわく顔の兄たちの期待に応えることにした。


まずは巫女様から授かった鏡を固定して、自分の顔が見やすいように立てる。

何度みても見慣れない顔がそこにある。

ふぅと一息だけため息をついて、お湯で湿らせた手拭いで顔を温め、出来立てのアーモンドオイルを顔に塗る。


「これはなんだ? 何を塗ったんだ? 」


「アーモンドのオイルだよ。シンちゃんから貰った搾実器使って作ったんだ。このまま刃物を肌に当てると肌がキズだらけになっちゃうからね。」


「あれを早速活用したんか! 目が細かすぎて失敗作だったが……、顔に塗るならもっと細かい方が良さそうだなあ。」


シンはオイルの感触を確かめるように、親指と人差し指でオイルを擦り合わせる。もっと改良を考えているような瞳だ。


「じゃあ、はじめるね。刃物を立てるけど、切るんじゃなくて滑らせる感じでするんだ。」


毛の流れに沿ってスッとカミソリを動かすと、なんの抵抗もなく刃物が滑る。さすが優秀な刃物職人であるカイの作品だ。切れ味が半端ない。剃った部分だけ、イヨの隠れていた肌の色が鮮明に鏡に映る。

イヨはオイルと共に刃に付いた産毛をいらない布で拭って、更に刃物を顔に滑らせた。


「おぉ……! 顔の色が違って見えるな! 」


「もしかして、皮膚を削いでいるのか? 」


「違うよー。皮膚はキズ付けずに、毛だけ削いでいるってかんじかなー 」


「眉毛もなくすのか? 頭の毛はどうするんだ? 」


「眉は…目に汗が入ったら染みるから残す、かな。頭の毛も残すよ。えーっと、頭はぶつけたら大事おおごとだから、髪の毛で保護してるというか…… 」


なぜ眉があるとか頭髪があるとか前世のあいまいな知識をモゴモゴと伝えてみるが、兄二人は納得したように頷いている。

間違っていたらごめんね。前世の見た目の基準に合わせてるだけなんだ。エルフやヒューマンも眉毛があったから、たぶんこの世界でも眉毛は標準装備なハズ。


ある程度剃り終えたら、眉毛をハサミで整える。

こちらの世界のハサミは和ハサミのような形で、扱いにくいためなかなかうまく切れない。これも兄たちに改良をお願いしようかと思うイヨだった。







「―――出来た! 」


「おぉ!! 確かに、エルフとまではいかねえが、悪くねえじゃん。」


「色が白く見えるせいか、目鼻立ちがはっきりして見えるな。」




イヨは鏡をみながら、頬のさわり心地を確認する。

鏡のなかには、全体的にスッキリした顔があった。

美人とか美少女とはいかないけれど、まぁまぁ愛嬌のある顔だった。


肌は産毛のせいで緑がかっていたようで剃り終えた肌は白くなり、頬は薄桃色に輝いて(当社比)つやつやしてるよ!

肌は緑じゃなかったよ! 結構色白だったよ!


なにより眉毛!!! 顔が全く違って見える!


前世の記憶の中だと短めの眉が流行っていたけど、この丸いドワーフ顔だと眉尻を長めにとったほうがバランスよく見える。

なだらかな曲線のアーチ眉は、前世でよくやったキリッとした直線の眉よりも今の顔によく似合っていた。

眉の太さの流行は時代ごとに変わるけれど…、この世界にも眉の流行りってあるのかな。テレビも雑誌もインターネットもスマホもないこの世界だと、メイクの流行りとかどうやって知るんだろう。

どっちにしろ目と眉の黄金比率は、目幅1に対して眉の太さ2/3。それでも毛がおおいせいか、2/3よりもやや太眉ぎみだけどこれはこれで可愛い。


それから―――。



「顔が……涼しい。汗で痒くない! 」



そう。そして、風が顔に当たって気持ちがいい。

どれだけ毛が風から顔を守っていたのか、おでこに風を感じるとか初めての体験。さらさらとした感触は、初夏の高原のような清々しさ。


なんで、今までドワーフは毛を剃らなかったのか。

こんな岩に住んでいたり、鍛治をしたりと暑くて仕方ないのに。なんで毛をふさふささせていたのか。

不思議で仕方ないほど、涼しくて快適な感じがした。



「涼しい?? 」


「汗で痒くない!? 」


「全然!! 毛がないほうが快適なんだけど! 涼しくて気持ちいい! めっちゃ痒くない! 」


快適さを好奇心旺盛なドワーフたちにアピールしたら、そりゃ、こうなる。




「「俺もやってみたい!!! 」」

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