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26 再び、神殿に呼ばれる。

イヨは以前も来たプライベートスペースと思われる地味な白い岩部屋で、所在ないまま座っていた。呼ばれたのはイヨひとりであったため、部屋がさらに広く見える。本日も天気が良い。白い曇りガラスみたいな虫の甲殻の窓が、明るく部屋を照らす。

イヨはソファに座ったまま、目の前の椅子を眺める。前に呼び出されたときにあった一段高い朱色の椅子ではなく、深みどりの背もたれのある椅子になっている。おそらく、呼び出しは巫女からではないだろうってことは予想できた。

乱暴に扉が開き、顔を伏せると人が動く気配がある。なんとなく、衣擦れの音も少し乱暴に聞こえるきがする。

さらに、ドスンと椅子に腰を下ろしたような音がする。


「待たせたな。面を上げて、楽にせよ。」


予想通りにイクオミの声がして、イヨは顔をあげる。あれから髭を剃ることを続けているのか、イクオミの顔には毛は生えていない。だからこそ、眉間に寄せたシワと、難題に挑んでいるかのような厳しい表情が良く見える。そんな表情すら俳優のように魅力的、と一瞬イヨの頭に浮かんだ邪念は首を振って追い払う。


「あのう、なにかありましたか……?」

「うむ……。おぬし、姫巫女がどこに行ったか知ってはおらんか? 」

「どこか……とは……? 」

「なにも聞いておらんか? 顔剃りをした日など、ずいぶん話し込んでいたようだが。」

「剃毛やマッサージの方法、ポーションなど基礎化粧品の使用方法などで、そのような話はなにも……。―――えっと、あの、巫女様は、どこかへ行かれたのですか……? 」

「……うむ。」


イクオミは顎に手をやる。

さらに目付きが鋭く、厳しい表情となった。イヨが前みたより、ずっと怖いように感じた。


「―――1週間ほど前に、姫巫女が神殿から姿をくらましたのだ。」


イクオミの言葉に、イヨは息を飲んだ。

彼が厳しい表情なのも当たり前だ。この国のトップが姿をくらますなど一大事だ。


「すぐに国内の長老たちに連絡を取り、姫巫女を探したんだが………。顔を剃り、部屋着のような簡素な衣服を着て外に出てしまっては、誰が姫巫女かわからない状態でな。」

「あの、もしかして、お召しになっていたのはわが社のジャージー素材の衣服でしょうか……? 」

「そう、それだ。おぬしの会社の、今のユキホムラの若者がよく着ているようなものだ。化粧品や毛剃りのカミソリなんかと一緒にムラクモから購入していたらしい。」

「す、すみません……。ありがたいことに、ジャージー素材の衣服も流行となっていて、今では多くのドワーフが着用している状況です。衣装だけでは、若者のなかから巫女様を探すのは困難かと。」

「その通りだ。すぐに欲しい、部屋着だから既製品で良い、と言ったらしくてな。既製品の一番売れている服を購入したようだ。同じ衣服の女はこのユキホムラには五万といるだろう。―――全く、毛を剃った姫巫女は、想像以上に庶民顔で地味すぎて目立たなかったからな。既製品の服を着た姫巫女は、完全にユキホムラの庶民に溶け込んでいることが予想される。さらに、たとえ国外に出たとしても、顔の毛がなければ小柄で地味なヒューマンの女にしか見えないだろう。姫巫女を探すのは砂浜で砂金を探すより困難だ。」


イヨは髭を剃った姫巫女の顔を思い出した。

愛らしくはあったが、言ってしまえばどこにでもいる顔。体型も普通、背丈も平均、髪の毛もこの国のドワーフたちと同じ黒~茶色の髪色で、よくいる服装であれば人混みに紛れてはすれ違っても気が付ける自信はなかった。


「髭を剃ってからこの国ではドワーフを髭の艶や毛の流れではなく、顔で区別するようになったわけだが、まだ髭を剃った巫女の顔を見たものが少なすぎた。この時期の儀式は少なかったため、元々いた神殿のものしか顔を見ていない。だからこそこの時期を休暇(オフ)として姫巫女の希望を叶えていたわけだが……。とにかく長老たちはまだ一人も顔合わせしていないため、国内に居ても簡単には見つからないだろう。」

「なぜ、姫巫女さまは居なくなってしまったのでしょう………。」

「うむ……。あれは俺の姉だから昔を知っているが、もともと、活発なおなごだったからなあ。とくに冒険者に憧れているようなやつで、俺たち兄弟はドラゴンを倒すような冒険譚を寝物語に過ごしていたんだ。」

「じゃあ、姫巫女さまは冒険者になろうと……? 」

「可能性は高いな。」

「でも、なぜ、今……。顔を剃ったらからでしょうか……? 」

「ああ……。顔を剃ったからというのもあるだろうが………。」

イクオミはチラリとイヨをみてから、眉間のシワを深くする。

「おぬしの魔道具―――鏡を視たから、だろうな。」

「え……? それはどういう………? 」


イクオミはイヨの問いには答えなかった。


「……………そもそも、巫女は誰がなるかは知っているか?」

「……? 姫巫女様は神殿の巫女の誰かがなるのでは……? 」

「あの姫巫女はたまたま"勾玉"の魔道具を授かったために、神殿に行くことになったんだ。姉の勾玉は癒しの魔法が使えたんだ………。その功績と前の巫女が仕事が出来なくなった時期のタイミングで姫巫女に選出されたのだ。」

「あの勾玉にはそんな魔法が………。」

「巫女になるには、魔道具を使って多くの人を救うことで資格が産まれると言われている。巫女は魔道具をみることで、次の巫女の資格を"視る"ことが出来るというんだ。」

「…………。」


イクオミの言葉に、思わずイヨは鏡を取り出してそれをみた。鈍い光を反射する魔道具は、そんな特殊なものには見えず、イヨにはただの鏡にしか見えない。


「そうだ。姫巫女の残した書き置きには、おぬしが次の巫女だと記されていたのだ。」

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