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男のくせして女みたいな気持ち悪い顔

 次の日の朝、僕は心の底から怯えきっていた。


「だから、君は誰なんだ」


 何度、鏡に映る自分を見てもその感想しか出てこない。昨日までは目全体が隠れるまで伸ばしっぱなしだったボサボサとした髪型。(ひるがえ)って鏡にはブラウン系、そしてゆるっとしたパーマがかかった男が映し出されていて自分だとはどうしても思えない。眉毛もなんか変なことになっている。


(これじゃまるで不良の人じゃないか。しかもブサイクの……)


 校則が緩い高校だから違反にはならないけど、こんな髪型じゃ注目を集めること必至だ。何より醜い自分の顔を隠す前髪がない。僕はハァと大きくため息をついてから、遅刻しないよう手早く制服に着替えた。


 登校時も気苦労の連続だった。よっぽど奇妙な髪型をしているらしく、電車に乗ると見知らぬ女子高生のグループにチラチラ見られるし、中にはカメラを向ける女子までいる。あとで物笑いの種にされるんだろうなと、朝から気分が落ち込んでしまった。


 そしてとうとう教室に着くと緊張はピークに達した。否が応にも小学生の頃クラスの男子から投げかけられた言葉を思い出す。


「男のくせして女みたいな気持ち悪い顔」

「顔が小さい分脳味噌も足りなさそう」

「目の大きい宇宙人」

「その顔こっちに向けんな」

 

 醜い容姿が原因で僕はいじめられてきた過去がある。顔を隠す前髪はないし、あの頃いじめを受けないためにアドバイスをくれた幼馴染の雫もいない。


 できるだけ目立たないように顔を下に向けて教室に入ったつもりだけど、不自然なほどにクラスメイトの視線が僕に集中し、騒がしい教室は水を打ったように静まり返ってしまった。いじられるのを覚悟で席に向かうと、クラスメイトの会話が耳に入る。


「じゃああれって本当に佐々木だったんだ」

 ……どういう意味だ?


 席に座ると隣の女子が珍しく話しかけてきた。「佐々木君、だよね?」


「えっ、うん」


「ずっとグループチャットで話題だったんだよ。桃園会長がSNSにあげた超イケメン男子は誰かって」


「桃園会長がSNSにあげた超イケメン男子?」


 隣の女子が話すにはこうだ。桃園エリカはサロンで撮った画像を「我が校一のイケメン男子佐々木イツキ君。尊すぎる」というコメントとともに自身のSNSにアップしたらしい。そういえば桃園エリカに何か許可を求められた気がするけど、僕は雫の影響でSNSに疎くてよくわかっていなかった。


 僕の画像はどういうわけか瞬く間に世界中に拡散されて、うちの高校のグループチャットではあれは誰かという話題で持ちきりだったそうだ。


「佐々木イツキ君とは書いてはあったけど、本当にうちのクラスの佐々木君だったんだ」

 そう言って隣の女子はまじまじと僕の顔を見た。


 その日は不思議な一日だった。何人もの見知らぬ女子から連絡先を教えて欲しいと頼まれるし、話したこともないクラスメイトの男子から桃園エリカを紹介してほしいと言われるし、中には一緒に写真を撮って欲しいという女子まで現れた。


 そして何より、雫だ。何か強い視線を感じるなと思って振り向くと、決まって雫が僕のことを見ていた。目が合うと露骨に顔を背けてしまうけど、1日の内に何度も雫と目があった。きっと雫はこの髪型のことをバカにしているんだろう。もともと雫は派手な容姿をした人間を毛嫌いする傾向がある。まぁ髪なんてじきに伸びるし、この騒ぎも次第に落ち着くのだろうと思っていたら、夜にまた誤爆メッセージが届いた。


「最近ユウトと私の関係微妙だよね。なんだか寂しくて、元カレのこと思い出しちゃうんだ。もし今、彼が私にしたことを誠心誠意土下座して謝罪してきたらなびいちゃうかもしれない」


 微妙な関係って二人は今倦怠期か何かなのだろうか。そして僕のことを思い出してくれている上に、謝罪したらなびくって……一瞬嬉しくなってから、イヤイヤと僕は頭を振った。文字通りに受け取ってはダメだ。これは恋人同士の腹の探り合いのようなもの。きっと雫は一条ユウトに優しくして欲しいと暗にほのめかしているだけで、僕が鵜呑みにして雫に連絡をとったりしたら冷たく拒絶されるに決まっている。


 そしてちょうど届いた、桃園エリカからの「土曜予定空いてる? 先方が君のこと気に入ってくれて、自然光でのイメージも欲しいんだって。あと、撮影終わったら二人でデートしない?」というメッセージに僕は意識を向けた。


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