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生徒会長がからかってきます

 一度振られてしまうと、二人は正式に付き合い始めたみたいだ。教室のベランダで肩を寄せ合ってお弁当を食べる二人、雨の日に一つの傘に収まって帰る二人。

 

 ある時なんか「体育館裏に来て」と雫からメッセージが届き、行ってみると二人が抱きしめあっていたこともあった。胸が痛くなり、僕は顔を背けて逃げることしかできなかった。 


 雫と付き合っていた時、僕は校内で仲良くすることはもちろん、話すことすら禁止されていた。雫は僕のような気持ちの悪い男子と付き合っていることが周りにばれるのを心底嫌がっていたからだ。交友関係の広い一条ユウトだったら周りに交際が知れても恥ずかしくないのだろう。そして追い打ちをかけるように傷つくのがこれだ。


 スマートフォンには届いたばかりの雫からのメッセージが表示されている。

「ユウトはあの陰キャと違って生徒会とかに入っていないし、いつでも会えるところが大好き。今日も会いたいな」


 また誤爆だ。例の体育館裏のもそうだけど、雫は昔から僕とばかりメッセージを交わしていたせいか今だに送信宛を時折間違えるようなのだ。しばらくすると取り消し機能を使ってメッセージは消されるけど、二人の親密さを見せつけられているようで嫉妬心を抑えられなかった。ブロックしようとも思うけど、幼馴染への未練が残っていて、それもできないでいた。




「イツキ、なんかあった?」

 スマホのディスプレイを呆然と見ていたら、生徒会長が心配げな顔つきで話しかけてきた。


 場所は賑やかな生徒会室。僕は教師に押し付けられる形で生徒会書記という、いてもいなくても同じようなポストを任されてしまっている。そして、生徒会の集まりは僕にとって地獄としか言いようがない。


 なんていうかここの生徒会は、僕が想像していた生徒会と違ってかなりの陽キャの集まりなのだ。制服を着崩すちょっと不良っぽい軽音部の男子やサッカー部に所属するとにかくモテる体格のいい男子。そしてその頂点とも言えるのが僕に今話しかけてきた桃園エリカ生徒会長だ。


「イツキ、今日はいつにもまして暗いよ。どうした?」

 そう言って桃園エリカはいつもそうするように僕の長い前髪を持ち上げじっとこちらを見てきた。僕はいつもそうするようにすみませんと謝りながら彼女の手を払い顔を背ける。するといつもそうするように桃園エリカは前髪を持ち上げようとし、さらに僕はいつもそうするようにそれを手で払いのけようとする……という儀式がこの人といると永遠に繰り返されるのだ。


 きっと僕のブサイクな顔を見てバカにしているんだろうけど、やめて下さいとはっきり言えるだけの勇気もなかった。

 そもそも桃園エリカは僕のような陰キャが最も苦手とするタイプ。何しろこの学校一、いや学校を超えて知名度の高い有名人なのだ。


 成績は常にトップの生徒会長、それでいてSNSフォロワー100万人超えの人気モデルでもあるという煌びやかな経歴の持ち主。甘い香りのする金色の髪、短な制服のスカートからは人の目を引くすらりとした足が伸び、胸にしたってとにかく大きくて、桃園エリカ会長を前にすると目のやり場に困るくらいだ。生徒会長選挙では男子票を満票集めたという伝説があるけど、確かにこの美貌ならそれも頷ける。


 困ったことに僕は桃園エリカにことあるごとにからかわれているのだ。


「確かイツキは彼女さんいるっていってたよね。彼女と喧嘩でもしたの? 彼女がいて喧嘩できるだけでも幸せなんだぞ。幸せ者にはこうだ!」


 桃園エリカはいきなり僕の頭に両腕を回しぎゅっと力を込める。甘い香りとともに、女性の柔らかな領域が直接顔に当たる。


「ち、違いますよ! その逆です! 振られたんですよ!」


「振られた?」

 桃園会長は僕の顔から腕を外すとキョトンとした顔で言った。

「あらら、それはかわいそうに。みんな! ちゅーもく! イツキが彼女に振られたんだって!」


 そう会長が呼びかけると、生徒会室にいた他のメンバーがぞろぞろ集まってきて、

「まぁ気にすんなよ!」「俺も今年に入って人生で初めてフラれたからな。っていうか桃園会長、俺のどこがダメなんですか!」「ごめん、タイプじゃないから」「タイプ……俺、結構モテるのに」「そうだ今度彼女いない組は書記くんを含めて合コンを開こう!」「おっいいね、じゃあ女子集めとくわ」「それはダメ。イツキに女子を紹介しないで」「えっ会長、それって、ど、どういう意味ですか?」


 などという会話が繰り広げられるから、ここの生徒会は地獄なのだ。とにかくイベント好き、スキあらば大騒ぎばかりする人たちで、内気で人と関わることが苦手な僕とはまるで違う。僕は小さく「帰ります」と言ってから、帰り支度をした。


 すでに別の話題で盛り上がる生徒会室をそろりそろりと抜け出そうとしたら腕を掴まれた。腕を掴むのは桃園エリカだ。今日はなんだかいつも以上に絡まれるな。


「彼女と別れたってことは連絡先交換しても大丈夫だよね?」

 そう言って桃園エリカはスマホのディスプレイを差し出した。他の女子との連絡先交換はもちろん雫ルールでは禁止事項。でもすぐに幼馴染に捨てられた事実を思い出して悲しくなる。

「ちなみに私も偶然フリーだから、そこんとこよろしくね佐々木イツキくん」


 連絡先を交換したものの、一体何がよろしくなのか少しも理解できなかった。校内一モテて、モデルをやっている桃園エリカに恋人がいるかいないかなんて陰キャの僕にとっては宇宙の果ての話題と言っていいくらい関係のないことだ。


「それに、あの人絶対彼氏いるだろうし」

 桃園エリカと数通交わした社交辞令のようなメッセージを見て、そんな虚しい感想しか頭には浮かばなかった。


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