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やっぱり桃園エリカは刺激が強過ぎる

 放課後に訪れた賑やかなカフェ。僕の前の席で足を組んで思案顔を浮かべるのは桃園エリカだ。

 

 彼女は何かを考えている時でさえ一つの芸術品のような洗練された美しさを放っている。


 その証拠に全ての男性客は驚いた表情で彼女を二度見してから通り過ぎていく。僕だって未だに桃園エリカと放課後一緒にカフェに行って、相談事を聞いてもらうような関係になったことが信じられないくらいだ。


 桃園エリカは口を開いた。

「とにかく、何か対策しないとね。ストーカーは厄介だから」


「ええ、一応その都度タクシーに乗ったりして対策はしているんですけど」


 僕が桃園エリカに相談しているのはここのところ続いている付きまとい行為だ。相手が誰かはわからないが、下校時や撮影の仕事に行く移動の際など常に正体不明人物の視線を感じるのだ。そして最近ではさらに付きまとい行為はエスカレートしてきた。


「この前なんかアパートのインターホンを連打されて。他にも家の前に手紙付きのプレゼントみたいなものが置かれていて、怖いのでそのままにしていたら、次見た時には無くなっていたんです」


「知り合いで君にプレゼントを渡しそうな人はいないの?」


 僕は首を振る。「僕の家を知っている知り合いで突然プレゼントを渡す人なんていないですよ」


「例えば元カノとかは?」


 雫が僕に手紙付きのプレゼント?「絶対にないです」


「じゃあやっぱり知らないフォロワーとかがストーカ化したのか。家まで突き止められているのは流石に怖いなぁ」


 桃園エリカはそう言って再び思案顔になった。「今やイツキも顔が知れている有名人なんだからセキュリティがしっかりしているマンションに引っ越すのがベストなんだけどね」


「それが一番なんでしょうけど……」


 ただ気安く引っ越すわけにはいかない。もともと僕は父親と二人暮らしで、父が異動になったので一人暮らしをしているだけ。流石に高校生の自分だけで引っ越したりはできない。


「そうだ、いい方法がある!」


 どうしたらいいか頭を悩ませていると桃園エリカはパッと笑みを浮かべた。

「とりあえず私のとこに来なよ。私も一人暮らしだし、私のマンションはセキュリティばっちり。仕事のない日は一緒に下校すれば安心でしょ」


「僕なんかがエリカさんのマンションの敷居をまたげるわけないじゃないですか!」


 桃園エリカはくすくすと小さく笑った。

「何? マンションの敷居って? 面白いなぁイツキの反応。別にいいじゃん。私の家、結構広いし、ストーカー対策としては一番それがいいって」


「高校生の男女が二人で暮らすって学校的、あとはモラル的にはどうなんですか」


「別に大丈夫でしょ。止むに止まれぬ事情があるんだし。それに一緒に暮らすっていうだけでやましいことがあるわけじゃ……」そこまで言って桃園エリカは一度言葉を止めて、からかうような笑みを浮かべた。


「それともイツキは、生活し始めたら二人の仲はディープな関係に発展すると考えておられるのかな」


「そんなこと、微塵も思ってません!」


 もちろん僕なんかが桃園エリカのような人と深い関係に発展することはありえないけど、それ以前に彼女のマンションに足を踏み入れただけで頭が爆発してしまいそうだ。

 

 さらに生活するってことは扉のすぐ向こうで桃園エリカは制服を脱ぎ、彼女が浸かったお風呂で自分の体を温めることになるのだ。仕事をするようになってから色々刺激的なものを目にしてきたけど、それとこれとは別で、桃園エリカとの同棲は僕には刺激が強すぎる。


「ちなみに私、見た目がこうだからよく勘違いされやすいんだけど、自分の体は大事にしてる方なんだよ」


「はい。エリカさんが恋愛に関してしっかりとした考えを持っているのはよく知ってます」


 モデルの間でも桃園エリカの異性に対する鉄壁ガードは有名な話だ。十代に人気の男性アイドルから熱心に言い寄られた時も無下に断ったという噂も聞いたことがある。


 桃園エリカはいたずらっぽい笑みを浮かべて、小声で言った。

「でも、大好きなイツキと暮らしたら、貞操観念ゆるんでしまうかも」


「な、何いってるんですか!」


 僕があたふたすると桃園エリカは楽しそうにケラケラ笑った。


 まぁ何にせよ桃園エリカはきっとからかっているだけなんだろうと思っていたら、彼女は本当にバッグから鍵を取り出した。


「はい、これがマンションの鍵。とりあえずベッドは一つしかないけどキングサイズだから、まぁ仲良く一緒に寝ようね」


「さすがに床で寝させてください!」

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