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僕は浮気をされた

「返信遅れたの許さないから」


「ごめんなさい。生徒会が長引いたので返信遅れました」


「だからそもそも生徒会なんかに入るなって私言ったよね。イツキ、次に家来たとき土下座な」


「ごめんなさい。是非土下座させてください」

 

 メッセージのやりとりが終わり僕はため息をひとつついた。相手は僕の幼馴染であり恋人の桐崎雫(きりさき しずく)だ。彼女からメッセージが来たら三分以内に返信しないといけないルールがあって、守れなかった時は土下座でもしない限り許してくれない。機嫌が悪いと一時間越えの土下座になることもあるから慎重に言葉を選んだつもりだ。


 今夜はもうメッセージのやり取りはないだろうと机に広げた問題集に目を向けた時、またスマートフォンが小さく振動した。手早く画面を開き、雫からのメッセージを読んで僕は固まってしまった。


「明日は付き合って一ヶ月記念日だね。放課後ユウトとデートするのほんと楽しみ」


 何度読み返しても文章が頭に入ってこなかった。僕の名前は佐々木イツキ。ユウトといえばクラスメイトの一条ユウトしか思い浮かばない。三分ルールを思い出し一応「デート楽しみだね」と返信したけど底抜けに間抜けなメッセージだということは自分でも分かっていた。雫とデートの約束をした覚えはないし、僕らは付き合いはじめて三年。誤爆なのは疑いようがなかった。


「シズがメッセージを取り消しました」とディスプレイに表示されたあとも、呼吸するのもきつかった。




 雫は僕に対して昔から辛辣で、少しでも気に入らないことがあると激しくキレだすし、どんな酷いことをしても絶対に謝ったりはしない。だから、次の日の朝「話し合いがしたい。昼休みに裏庭に来て欲しい」と雫からメッセージを受け取った時、一体彼女がどう弁解するのか想像もつかなかった。


 校舎の裏庭には雫の他に、一条ユウトの姿もあった。僕の顔を見ると一条ユウトはニヤニヤ笑いながら雫の肩に腕を伸ばした。彼の手が制服越しに雫の胸部に触れるけど、彼女は気にするそぶりも見せなかった。


「ばれたんだってな。一応謝っておく、わりぃ。やることも一通りやっちまった」


 馬鹿にするような表情でそう話す一条ユウトを前にして足が震えてしまった。想定していた選択肢の中で一番最悪の状況だ。

「でも正直、お前なんかが雫ちゃんと付き合ってるなんて知らなかったし、今でも信じらんねぇ。なんていうかお前、髪型やばくてすごいキモいだろ、クラスで誰かと話しているのもみたことないし」


 一条ユウトと話す気もなかった。僕が知りたかったのは雫の気持ちだけだ。一体何でこんなことをしたのか理由が知りたかった。ようやく絞り出した僕の声は震えていた。


「雫、なんで浮気なんかしたの? 人としておかしいと思わない? 謝ってくれたら許すから理由を聞かせて欲しい」


 雫の目つきが変わった時、思わずビクリとした。こんな状況でもやっぱり雫は雫なのだ。


「なんで私がイツキに謝らなければいけないのよ」

 雫は睨みつけながら言った。

「物事に100%悪い方なんて存在しない。何事も原因があって結果があるの。私が浮気したというならあんたにも原因があるんじゃないの? 人を責める前に自分が反省すべきっていつも教えてきたよね」


「浮気されたとしても、やっぱり僕が悪いってこと?」


「今までで私が間違えてあんたが正しかったことなんてあった? それにそもそも私を責めるなんてイツキの分際で生意気なんだけど」


 一度スイッチが入ると雫はいつもの暴言モードに突入した。ブサイク、無能、無価値、気持ち悪い。いつもの辛辣な言葉を散々吐かれた。


 今までどんな暴言も耐えてきたのに、今回ばかりは限界だった。これ以上この場にいると頭がどうにかなりそうだ。


「ごめん雫、今回ばかりは耐えられそうにない」


 僕はそう言って二人に背を向け、歩き始めた。するとすぐに「イツキ、待ちなさいよ」と雫に肩を掴まれた。


 振り向くと見たこともない表情があった。雫はどこか怯えているような顔つきをしていたのだ。

「あ、あんたの分際で勝手なことしないでよね。話し合いは終わってないんだから」


 話し合い?ただ罵倒されただけだし、話し合う余地なんてあるのだろうか。僕が答えるより前に、一条ユウトが間に入った。

「だからさ、なんども言っている通り、これからはこいつに代わって俺が雫ちゃんの正式な彼氏になるし。別にこんな奴捨てればいいって」


「いや、それと、これとは話が違くて。とにかく私はイツキに反省して欲しくて」


 二人の間で何かの齟齬があるようだけど僕は少しでも早くこの場から離れたくて、また二人に背を向けて歩き始めた。


「イ、イツキ! ちょっと、話聞きなさいよ! 私を本気で怒らせて後悔しても知らないからね!」


 そんな幼馴染の声が聞こえてきたけど、何も考えることができなかった。

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