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第65話 造炎失光! 崩れゆく鍵

 

 《ウィスプ》はフラグメントバスターを発射。店の外へ《ガイスト》を追い出す様に光弾を放ち続ける。

「これはぁ……当たったら痛いじゃ済まない」

 それを緩やかに後退しながら躱し続ける《ガイスト》。首は不自然な角度に曲がり、身体はありえない角度で捩れている。

「狙いが、定まらない!!」

(晶くん、一旦攻撃を止めて。向こうが攻撃してくる瞬間を狙えば、もしかしたら)

「っ、そうか!」

 《ウィスプ》はフラグメントバスターを構えたまま射撃を止める。

「あらぁ……銃撃ぃ、止みましたね。どうかぁ、しましたか?」

 反り返らせた身体を元に戻しながら《ガイスト》は問う。だが《ウィスプ》は何も答えず、ただ静かに待つ。

「じゃあ今度はぁ……こちらから」

 アーティフィスヴィトロガンを放ちながら《ガイスト》は前進。二つの銃口から吐き出されるエネルギー弾が《ウィスプ》へ降り注ぐが、構わず狙いを定め続ける。

(まだだ、まだ……まだ)

 まだ撃たない。まだバリアは使わない。装甲越しに伝わる衝撃と痛みに照準がブレそうになるが、機会を待ち続ける。

 そしてそれは遂に訪れる。額を狙った瞬間、不規則だった《ガイスト》の動きが僅かに止まった。

(ここだ!!)

 フラグメントバスターを発射。エネルギー弾を掻き消しながら《ガイスト》へ向かっていき、

「あらぁ……」

 腹部へ直撃。地面を転がりながら電信柱へ衝突した。

「当たった……!」

(このまま一気に!)

「はい!」

 土煙に隠れた場所へ更に砲撃を浴びせる。相手の手札が分からない以上、それを切らせる前に倒す事が最適解だ。


「今のはぁ、とても痛かった」


 だがその声は土煙の中ではなく、《ウィスプ》の隣から現れる。

「なっ!?」

 それに気づいた瞬間、《ガイスト》は至近距離からアーティフィスヴィトロガンを発射。バリアの展開も間に合わず、《ウィスプ》は大きく吹き飛ばされた。

「うわっ! うっ、く……!」

(晶くん大丈夫!?)

「大丈夫、です……でも彼奴……!」

 強い、というよりも、得体が知れない。腹の傷から立ち昇る黒煙を見るにダメージはあるようだが、まるでそれを意に介していない。

「光の錬生術師ぃ……紋章が複製出来ないのも納得です。特殊ゆえにぃ、とても強い」

 すると《ガイスト》はアーティフィスヴィトロガンを空へ向けて2発発砲。それを合図に、何処からともなく複数の影が現れる。

「だからぁ、予定通り手伝って貰います」


 それは白装束を纏った男女。数は7人。フードから僅かに覗く眼には小さな紋章。


「あれは、珊瑚くんにもあった……」

 ユナカが気づいた瞬間、7人はアーティフィスヴィトロガンを抜き、フラグメントを装填。


《ローデッド ホムンクルス》

《コンセントレーション・プリミティブ》



『造身』


 7つの声が重なり、トリガーが引かれた。



《ゲート カイホウ》


《Creation of Extra Factor! ホムンクルス》



 7人は《ホムンクルス》へ変身。同時に《ウィスプ》へ照準を向ける。

「君達の相手はぁ、彼等に任せます。……さぁ炎の錬生術師ぃ、改めて」

 《ガイスト》はユナカへ手を差し出す。

「始めましょうかぁ。変身、どうぞ」

「わざわざお膳立てまで……!」

 ユナカはデーモンハートを握り締め、《ガイスト》の誘いに乗って変身しようとした。


「待てユナカ!!」


 だがそれを、背後から響いた声が制止する。振り返れば息を荒げるザクロの姿があった。

「まだダメだ……変身するな」

「どうして……!?」

「それ、は……」

 途端にザクロは目を逸らす。真意が分からず立ち尽くすユナカを見た《ガイスト》は急に身体を震わせ始める。

「なぁんで教えてあげないんですかぁ……今それを使えば」

 笑いを堪えながら発した言葉は、その場にいた全員を凍りつかせた。



「身体が崩壊するかもしれないぃ、って」



「え……」

(それって……)

「……崩壊、する」

 それは真実なのか。ユナカが視線で尋ねる。その答えは、俯いたまま上がらないザクロの顔だった。

「まさか気づいてないわけじゃないでしょぉ……あなたの手。もうパンなんかぁ、作れないじゃないですか」

 《ガイスト》の言葉につられるように自らの手を見る。塵となって地に溢れていくそれは、現実を突きつける。


「躊躇いますよねぇ、死は怖いものです。所詮あなたの妹様への愛はぁ、自分の命より軽いということで」

「……」


 ユナカは今一度《ガイスト》へ向き直ると、


《デーモンハート!!》

《オーバーリアクション!!》


 デーモンハートをフラグメントゲートへ装填した。


「っ、よせユナカ!! 奴の挑発に乗るな!!」

「勘違いするなザクロ」

 ユナカはザクロの声を振り切ると、フラグメントゲートを開いた。

「あんなしょうもない挑発に乗ったわけじゃない!」


《ゲート ブレイク!!!》


《Deadry!! Dangerous!! Destruction!! Discharge !! デーモンハート・オーバーバースト!!! メルトリーパー!!!》


《アンノウン・ジ・エナジー》


「ぅ……!!」

 《メルトリーパー》へ変身。身体の中を駆け巡る熱に一瞬苦悶の声を漏らすが、

「俺はまだ死ねない、死ぬ訳にはいかない!!」

 その全てを捩じ伏せ、《ガイスト》へ向かって走り出した。


「ユナカさぁん!!」

 《ウィスプ》は《メルトリーパー》を止めようと立ち上がる。しかし、

「うぅっ!?」

 《ホムンクルス》達の銃撃が降り掛かる。絶え間なく続く弾雨によって前へ進めない。

「邪魔、するなぁ!!」

 遂にバリアを展開。弾幕の中でフラグメントバスターを充填すると、光の熱線を薙ぎ払うように照射する。


《ローデッド カーボンゴーレム》

《コンセントレーション・カーボン》


 《ホムンクルス》達はアーティフィスヴィトロガンへフラグメントを装填。トリガーを引くと、目の前に炭素の壁を召喚。フラグメントバスターの攻撃を凌いだ。

「時間稼ぎばかり!」

(晶くん落ち着いて!)

「でも!!」

 焦る《ウィスプ》へ、《ホムンクルス》達は再び銃撃を仕掛けようとする。

「無理矢理でも行くしかない!!」


《チャージコンプリート》


 バリアを盾に、グリップをスライド。最大出力で収束させた光を、散弾の様に射出した。


《カンデラ・ブラスト!!》


 正面に陣取っていた3人を吹き飛ばした。だが残る4人はそれを盾に接近。


《ローデッド チタニウム・ヘルハウンド》

《コンセントレーション・チタニウム》


 アーティフィスヴィトロガンにフラグメントを装填すると、銃身の下部から刃が伸びる。


《カウントオーバー》


 そして最悪なタイミングでバリアが消失。取り回しが劣悪なフラグメントバスターで迎撃するには人数が多過ぎる。

「しまっ……!!」


《サイドチェンジ レフトサイド》


「えっ!?」

 その時、《ウィスプ》のフラグメントゲートが開閉。左側の扉が輝きを増したかと思うと、


《Blink the Shining!! ルクスドラゴン・ルーメン!! キラキラキラーン!!》


 《ウィスプ》は飛び上がり、空中で装甲が分解、再構築。瞬く間にカンデラモードからルーメンモードで形態を変化させた。

 光刃が《ホムンクルス》達の刃を切断、更に高速で駆け巡り吹き飛ばした。

(光結さん、ごめんなさい……僕……!)

「大丈夫、あとは私に任せて」

陣形を立て直す《ホムンクルス》達へ、光刃の鋒を向けた。


「奴等を片付けて、パン屋のお兄さんを助ける」




 《メルトリーパー》が振るう一撃が大気を震わせる。だが奇怪な動きと身体の変形を駆使する《ガイスト》に対して、それは空を打つばかり。

「鍵の完成まであと少しぃ、と聞いていますけど」

 対して《ガイスト》の攻撃、アーティフィスヴィトロガンの銃撃と鞭の様にしなる蹴りは全て《メルトリーパー》へ直撃している。

「これはあとぉ、一回が限度ですかね。炎の錬生術師ぃ、良かったですね」

 《メルトリーパー》の膝を撃ち、体勢が崩れた所へ踵落としを叩き込みながら、《ガイスト》はザクロへ語りかける。

「あなたの夢ぇ、もうすぐ叶いますよ。健気な弟子で良かったですねぇ」

「……」

「黙ってないでぇ、応援でもしてあげたらどうです? 私の夢の為にぃ、死んでくれって」

「黙れ!!!」


 ザクロは絶叫する。怒りと悲哀が混ざり合った表情、何度も繰り返される浅い呼吸。彼女の精神状態はおよそ正常には見えない。


「酷い師匠様ですねぇ、弟子を騙して犠牲にするなんて。そうまでして叶えたい夢だぁ、きっとさぞかし崇高な ──」

 その時、《ガイスト》の喉笛が絞め上げられる。ザクロを挑発することに夢中になっていた隙を突き、《メルトリーパー》が遂に捕えたのだ。

「お前に、言った筈だ」


《クリティカルリアクション・オーバーリミット!!)


 右足に収束していく蒼白い燐光。それを見た《ガイスト》は、

「これはぁ、はは、綺麗だ」

 抵抗する素振りすら見せず、不気味に笑っていた。


《メルトリーパー!! アルケミックイレイザー!!!》


 振り上げた蹴りが《ガイスト》の脇腹を叩く。肉の繊維が焼き弾ける甲高い音と、骨が乾いて砕ける破砕音が重なる。

 必殺の一撃をまともに受けた《ガイスト》は力無く項垂れる。



「良い景色がぁ、見れました」



《ローデッドバースト ガイスト!!》


 アーティフィスヴィトロガンが突然ブローバック。2つの銃口が灰色の炎を伴って《メルトリーパー》の額に押し当てられる。


「完成の前祝いですぅ、受け取って下さい」


《ガイスト!! アルケミック・リボルブレイク!!》


「うぁぁぁっ!!?」

 額を撃たれた《メルトリーパー》は大きく吹き飛ばされる。同時に、解放された《ガイスト》も片膝をついた。

「帰ったら修理ぃ、ですね。一旦撤収させてぇ、いただきます」

 変身が解けるのと同時に、ベリルは霧の様に姿を消した。それを見た《ホムンクルス》達も、《ウィスプ》を残して消えていく。

「逃げた……」

「っ、ユナカさん!」

 変身を解き、晶と光結は《メルトリーパー》の元へ駆け寄る。


「ザクロ、奴が言っていたのは」

 《メルトリーパー》から戻ったユナカは、未だ立ち尽くすザクロへ歩み寄ろうとした。


「っ?」


 急に重力に負け、ユナカは地面に倒れた。今までの疲労によるものとは違う。まるで身体を支えるものが突然無くなったような。

「あ、ぁ……ユナカさん……!!」

「パン屋のお兄さん、足が!!」

「足……?」


 ようやく気づいた。


 膝から下、自分の右足が塵となって消えていた事に。



「これが……崩壊……!?」



 その時、ユナカの腕からデーモンハートが外される。

「っ、ザクロ!!」

 デーモンハートを抱え、何処かへ走り去って行くザクロ。だが今のユナカに彼女を追う事は出来ない。

「晶くん、なんとか2階まで!!」

「はい!」

 晶と光結に抱えられ、運ばれていく最中。遠ざかって行くザクロの背を見たユナカは、静かに目を伏せるのだった。



続く

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