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第53話 円転滑脱? 扉へ至る為の道筋

 

「これはまた、手酷くやられたみたいだ」

 乱雑に開いた扉、そこから倒れ込みながら侵入してきたリシアに対し、モルオンはティーカップをソーサラーに置きながら声を掛ける。視線は向けずに。

「だから調子に乗るなって言ったんだ。僕の忠告、やっぱり聞いてなかったか」

「はぁ、はぁ……うる、さいなぁ……!!」

 苛立った様に床を叩き、リシアは立ち上がる。

「何でもいいからさぁ……フラグメント、だっけ……僕にくれよ……そうすれば……!!」

「だっっっさ」

 リシアの言葉に横から口を挟んだのはセレスタだった。クマのヌイグルミの顔を踏みつけながら、侮蔑の笑みを浮かべている。

「のこのこ負けて帰ってきて何その口の利き方! 下っ端のカスらしく頭下げろっての!」

「……ねぇ、誰も君となんて話してないんだけど」

 テーブルを蹴り上げるリシア。紅茶がティーカップから溢れ、モルオンの表情が僅かに歪む。

「大体君達だって、力が上手く使えないせいで倒れてた癖に」

「いつの話してんだよ。もうとっくに使いこなしてるっての。ていうか、お前が負けた事と関係ねぇだろ!」

「まぁまぁまぁまぁ喧嘩しない喧嘩しない」

 一触即発状態の2人の間へガーデルが割って入る。

「あれだよ新人くん。俺もボコられて帰って来たことあったから辛い気持ちは分かるよ。とりあえずごめんなさいして次がんばろう」

「……だから」

 リシアはガーデルの元へ近づくと、果物ナイフを出現させて突き出した。

「君達に話してなんかないんだよ! 黙ってて!!」

「っ、ぬん!!」

「うっ!?」

 だがその小さな刃はガーデルの身体を貫けず、それどころか弾き飛ばされてしまう。

 よろめいたリシアはテーブルにぶつかり、果物ナイフがスコーンを貫く。モルオンは苦い表情を浮かべる。

「あっ、ごめん」

「くそ……くそ、くそっ!! 僕はまだ、まだ!!」

 ティーカップに拳を振り下ろす。粉々に砕けて中身を散らす様を見たモルオンが歯を軋ませるのにも構わず、リシアは掴み掛かった。

「何でも良い!! これ以上失うものなんか僕には無いんだ!! 早く寄越せよ!!」

「……はぁ」

 モルオンは深く息を吐き、リシアの手を振り払った。そして棚の上に置かれた1本のフラグメントを投げ渡す。


 キャップは何も象られていない。中では大量の黒い腕が地虫の様に蠢いている。


「僕達と君とじゃ色々と違いすぎる。だからこそ、君ならそれを使えるかもしれない。……少なくとも、僕はそれを使いたくない」

「っ、はは……いいよ、使いこなしてみせる。次は必ず……!」

 リシアはフラグメントを抱え、部屋を飛び出していった。


「……ねぇモルオン、あれめっちゃやばい奴だから使わない方が良いってフローラ言ってなかった?」

「つーか何でそんなもん残してんだよ。バカしかいないの?」

「じゃあセレスタもバカってこと痛ァイ!?」

 失言をしたガーデルはセレスタに尻を蹴り上げられる。そんな2人に構わず、モルオンは新しいティーカップに紅茶を注ぎ、揺らめく赤い液面を見つめていた。


「これ以上失うものなんてないらしいからね。好きにさせてあげようと思っただけさ」




「こことここを弄って……これで、オッケ!!」

 フローラは完成した《キメラアトラム》の頭を力強く引っ叩く。しかし以前の様に暴れる様子はなく、代わりにゆっくりとフローラの方へ向き直る。

「ありがとうございます。少し思考能力にイジョウガガガガ、失礼、異常がありましたが、今は問題ございません」

「うんうん! そりゃ俺の調整だもん、完璧に決まってんじゃん! 知能が大丈夫なら君は無敵さ!」


「随分と好調な様だな」


 横から掛けられた声の方向へ、フローラは嫌な顔をしながら向く。だがその姿を見ると、表情が明るいものへと変わっていく。

「へぇ、直接会ったのって俺が生まれたばっかの時だっけ。いいの? アトラムと会ってたらまずいんじゃないの?」

「ソウリストゲートに辿り着く為に必要な事だ。手段にこだわるほど私は気高く生きてはいない」

「いいねー。そっちも準備は順調なの?」

「滞りなく進んでいる」

「聞けば進捗も話してくれるんだ。随分変わったんじゃない、あんたの組織」


 フローラを見つめる時計の仮面の奥の表情は計り知れない。ラプラスはただ淡々と語る。


「今の私の意思が、ユニオンの意思だと思ってくれて構わない」




「ソウリストユニオンについて知っている方は……」

 珊瑚が辺りを見回す。静かに手を上げたのは、なんとユナカと晶以外のメンバーだった。それに驚いたのは琥珀だった。

「え、灰簾さんはともかく、翡翠ちゃんも知ってたの?」

「知ってたも何も、これ作ったのユニオンだし」

 フラグメントマグナムを取り出す翡翠。思えば自身のフラグメントメイスもユニオンが作ったもの。琥珀は小さく頷いて納得した。

「私としては存在云々よりも」


 だがそれを聞いて逆に訝しむ表情を浮かべたのは灰簾。

「技術力の向上について知りたい。こんな言い方は侮辱と捉えられるかもしれないけど、ソウリストユニオンはまともにフラグメントを扱えない人達の集まり。それなのに」

 灰簾の視線が動く。その先にあるのは、晶と光結の手に備わったフラグメントゲート。

「こんなものまで……」

「それについては僕の一存で明かせない事になっていますので。ただ、僕達には変身するだけの力は無い。フラグメントゲートを作ることが出来ても、結局は貴方達に頼るしかありません」

 珊瑚は懐から2本のフラグメントを取り出し、それぞれ琥珀と翡翠へ手渡す。

 そして光結へ、小さなフラグメントを渡した。


「ソウリストユニオンの目的は、ソウリストゲートを全ての錬生術師の共有財産とし、より良き世界を築くこと。その為には何としても貴方達に辿り着いてもらわないといけない」


 珊瑚の言葉を聞いたユナカは僅かに俯く。


 自身と琥珀が倒せなかったキメラアトラム、灰簾と翡翠が相対した完全体のアトラム、晶と光結が退けたマーダーアトラム、未だ敵か味方か分からない透とレヴァナント、そしてダルストンズ。


 ほたるを救う為にはソウリストゲートへ辿り着かなければならない。だが先の戦いは敗北した様なもの。



「私達も協力は惜しみません。全ての人達、そして世界の為に、貴方達の力を貸してください」




 皆が解散し、静まり返った店の中。


 テーブル席に座っているユナカの元へ人影が訪れる。

「……遅かったな」

「あぁ。私も多忙でね」

 向かいの席に座るザクロ。その顔にはいつものような不敵な笑み。

 しかしユナカは何処か違和感を感じる。

「何かあったのか?」

「急にどうしたんだね。今までも勝手にいなくなっていただろう。今更何を心配している」

「……そうか」

 はぐらかされてしまった。ユナカはそれ以上追求はせず、用意していたピザパンを頬張るザクロを見つめる。

「そうそう、話を聞いたよ。手酷くやられたらしいじゃないか」

「手酷くは……いや、その通り、か」

 いつになく不安な様子を見せるユナカに、ザクロの顔から笑みが消える。

「なに、心配しなくてもいい。私に考えがある。君はいつものように何も気にせず私を頼ればいいさ」

「……そうだな」

 ユナカは席を立ち、自分の部屋へ戻って行った。

「……」

 ピザパンを食べる手を止め、ザクロは服の下に隠していたものを取り出し、見つめる。


 それはユナカに説明した彼女の考え、デーモンハート。つい先程、全ての調整を終えて完成した新たなる切り札。そして、ソウリストゲートへ辿り着く為の鍵。


「そうさ。何も考えなくていい。必ず上手くいく。私なら必ず……」


 ザクロにも、ソウリストゲートに向かう為の目的がある。救わねばならない恩師がいる。


「必ず師匠は……戻って来る」



続く

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