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第51話 絶技瞬閃!! 融合、We go!!

 

「形は大分違うけど、名前は変わらない」

 静かに歩み寄る《ウィスプ》へ、《マーダーアトラム》は右手をかざす。黒い刃を出現させるつもりだ。

「分かったからもういいよ、っ!?」

 だがその手が一瞬止まる。自身の背後で職員達を取り押さえていたバデック全てが斬り刻まれた為だ。未だ目の前には《ウィスプ》がいるというのに。

「なん ──」

 刹那、《ウィスプ》と《マーダーアトラム》の姿が消滅。


 壁を破壊、施設の外へ転移、否、移動した。


「っつ、だから何が起きて……!?」

「あの中じゃ皆を巻き込む。それに」

 再び《ウィスプ》が消失。《マーダーアトラム》の目の前へ現れると、両腕の光刃が交差の軌跡を描いてその身体を斬り裂いた。

「うぁっ!?」

「広い場所の方が戦いやすいと思う。お互い」

 既に目の前に《ウィスプ》の姿はなく、少し離れた標識の上に立っている。そしてまた姿が消え、今度は《マーダーアトラム》の正面へ姿を現す。

「その高速移動が能力ってわけ……強くなってテンション上がってるんだろうけど」


 次に《ウィスプ》の姿が消えた時、《マーダーアトラム》は自身の周囲に大量の黒刃を展開。そして更にその外側を黒い影が覆う。

 影からは姿を消した《ウィスプ》が移動する気配を追い、刃を突き出していく。だが狙いは《ウィスプ》の追撃だけではない。

「調子に乗ってると足元掬われるよ」

 やがて周囲の黒刃が叩き折られていき、《ウィスプ》が迫っている事を示唆する。そして目前の刃が崩壊した時、

「こんな風に!」

 虚空から針のように黒刃を射出。以前に《イグナイトリーパー》を拘束したように不意を突いた一撃を放った。

 だが、

「っぐぅっ!?」

 降り注いだ光の斬撃は止まることなく《マーダーアトラム》を斬り裂いたのだ。

 倒れる刹那に視界の端に映ったのは、自らが虚空から出した筈の黒刃が崩れて破片となっているものだった。

「調子に乗っているのは!」

 怯んだその瞬間、姿を現した《ウィスプ》は《マーダーアトラム》の顎を蹴り上げ、打ち上がって無防備な身体の中心を雷の様な速度と軌跡で斬り抜ける。

「あなたの方!!」

「ばか、なっ、がぁぁ!!!」

 そして急反転して更に斬り抜け、地面へ着地。対する《マーダーアトラム》は背中から着地する。

「どうして……!? 絶対にバレない位置とタイミングで……!!」

私達・・に死角はない」

「私、達……!?」


 《マーダーアトラム》の不意打ちを破った秘密は、《ウィスプ》の頸に備わった小さい竜の頭にあった。

 言葉こそ発せないが、その中には光結と同化した晶の意識、そして力が込められている。

 《マーダーアトラム》が不意打ちを狙ったあの瞬間、光結は気づいていなかった。だが文字通り背中合わせとなった晶は気づいていたのだ。

(ビックリしたら何か光が出た、とか言いづらいなぁ)

 晶のそんな独白も、一体となった今の光結には筒抜けなのだが。


「何だよそれ……ズルい……ズルいズルい!!!」

 《マーダーアトラム》は吐き捨てると、黒い刃を手に突進。しかし《ウィスプ》は《マーダーアトラム》の肩の上に移動し、降りる瞬間にその背を蹴り飛ばした。

「僕はずっと、1人だったのに……!!」

「同情を誘いたいのかもしれないけど」

 倒れたまま地面を殴りつける《マーダーアトラム》へ、《ウィスプ》は冷たく言い放つ。

「あなたはもう人間じゃない。残念だけど、アトラムとして終わってもらう」


 《リアナライズ・リアクション》


 《ウィスプ》の身体が蜃気楼のように揺らめくと、無数の剣へ変化。光を纏った鋒を向け、蜂の大群の如く一斉に《マーダーアトラム》へ殺到する。

「アトラムとして……あぁそうさ! 僕は人間なんかじゃない!! あんな寂しくて弱い癖に身勝手な生き物なんかじゃない!!」

 《マーダーアトラム》は叫び、果物ナイフを生成。襲い来る光の剣を次々と払い落としていく。

「僕は、アトラムだぁ!! はっ、ぐっ!!?」

 だがあまりに膨大な数を小さな得物で払い落とすには限界がある。取りこぼした1本が腹を射抜く。それでも致命の一撃には至らない。


 筈だった。


 弾いたもの、地面に突き刺さったもの、これから降り注ごうとしていたもの。全ての光の剣が、《マーダーアトラム》に刺さった1本へ集結していく。

「なっ、なにっ、が、や、やめ……!!」

 それはやがて巨大な光の剣を形作っていく。そして全てが集った瞬間、


 《ルーメンドラゴン!! ブリンク・ザ・ストライク!!》


「はぁぁぁっ!!!」


 光の剣は《ウィスプ》となり、光を纏った蹴りが《マーダーアトラム》を貫いた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!?」


 絶叫、そしてそれが尽きると同時に、《マーダーアトラム》はその場に崩れ落ちる。

「ぁ、ぁぁ……だ、ダメだ……戻っちゃう前に、逃げなきゃ……!!」

 最後に残された力を振り絞り、《マーダーアトラム》は影に潜り姿を消した。


「追いたいところだけど……ここまで、か」

 《ウィスプ》の変身が解除。光結と晶が背中合わせの状態で離れる。

「変身できる時間は短い……説明された通り」

「おっとっと……ふぅ」

「お疲れ様、晶くん」

 光結は労わるように晶の頭を撫でる。

「まずはみんなの安全を確保してから、パン屋のお兄さんに会いに行こう。手伝ってくれるかな」

「は、はい」



「前衛〜!!」

 謎の叫びを上げながら《スピリット》が走り出す。銃撃しながらの突進に対し、《エクスキュートアトラム》は手に処刑斧を出現させる。

「ふん!」

「わぁお!?」

 薙ぎ払われた一撃を、《スピリット》は跳躍しながら身を捩って回避。振り抜かれた処刑斧は教室の壁を粉砕。外の景色が現れる。

「やばっ!! 灰簾ちゃん、今の時間はやばいって!!」

「通行人……!!」

「これは好都合だ……人間ども」

 《エクスキュートアトラム》は叫び逃げる通行人達を鎖で縛り上げる。殺すためではない。

「ひぃぃぃ!?」

「殺される……いやぁ……!!」

 アトラムにより刻みつけられた傷。そこから生まれたバデックが通行人達から這い出してくる。それが狙いだった。

「手駒は多い方が良い。ご苦労だったな人間。用は済んだ」

 そのまま絞め殺そうと鎖の力を強めようとする。

「させるわけ」

 それを《レイス》は見逃さない。

「ないでしょ!!」

 ヴィトロスタッフの杖先に圧縮した水のカッターを生成し、分裂させながら射出。《エクスキュートアトラム》の鎖を切断した。

「ぬぅ……小癪な」

「小癪なのはお前の方じゃい!!」

 その隙をついた《スピリット》は《エクスキュートアトラム》の目前へ接近。至近距離からヴィトロガンとフラグメントマグナムを連射する。

 しかし、《エクスキュートアトラム》の身体に傷は1つもない。

「マジィ……?」

「この程度か、ぬぅん!!」

「あひぃ!!」

 再び振るわれた処刑斧を、《スピリット》は身体を目一杯反らせて回避。その間も銃撃を浴びせるが、《エクスキュートアトラム》は怯む様子すらない。

「甘い!」

「うわっ!!」

 反らせた体を戻そうとした瞬間を突かれ、《スピリット》は蹴り飛ばされる。

「灰簾ちゃんサポート!」

 《スピリット》の声に、《レイス》は返事をする間もなく応える。水流によって吹き飛ばされた《スピリット》を受け止め、蹴りの体勢に変えた彼女をそのまま射出。

「重ねておらぁぁぁ!!」


 《クリティカル リアクション!!》


 《シルフィーネ!! アルケミックブレイク!!》


 水流の勢いに合わせ、最大出力の風を纏った両脚蹴りを《エクスキュートアトラム》へ叩きつける。

「ぐぬぅ……!!」

 それを受け止めた《エクスキュートアトラム》の身体は引きずられ、地面に二筋の溝を刻む。

「この、程度……どぁぁぁ!!」

「ぎゃっ!?」

 《エクスキュートアトラム》は《スピリット》を弾き飛ばす。

「ぐぇっ!! っておわぁぁぁバデックめっちゃ来たァァァ!!」

 そして着地した先で大量のバデックに囲まれる。

「小煩い奴は消えた、はぁぁっ!!」

「くっ!」

 鎖を伸ばした《エクスキュートアトラム》。それにより《レイス》の手からヴィトロスタッフが奪われる。

「手品師など相手にならん」

「そう……」

 嘲笑いながら近づく《エクスキュートアトラム》に対し、《レイス》はその場を動かない。

「女の中から見ていたぞ手品師。お前に俺の攻撃は躱せない」

 ヴィトロスタッフを彼方へ投げ捨てる。《レイス》には抵抗する術はない。

「精々醜く足掻いてみせろ」

「随分口が回るじゃない」

 否、まだある。

「進化して身体は強くなったみたいだけど、語彙は進化出来なかったの? 安い挑発ばかりしないで、進化した頭で少しはキレのある煽りでも考えたら?」

 一瞬の隙があれば切り札を切れる。だからこそ《レイス》は意味のない舌戦に持ち込んだ。

「……挑発のつもりか」

 言葉とは裏腹に、処刑斧を握る《エクスキュートアトラム》の手が震える。

「ならば乗せられてやる! 潰れろ手品師!!」

 処刑斧が振り下ろされる。直線的な軌道。ここまでは《レイス》の予想通り。

(かかった!)

 後は自分の足を信じるのみ。


(ワン、ツー)

 後ろへステップ。これだけでは躱せない。更に反転しながら更にバックステップ。

 《レイス》の身体は処刑斧を紙一重ですりぬけ、《エクスキュートアトラム》の側部へ回り込む形となる。

「ぬっ!?」

「1回で覚えられた。先生のおかげで!」

 手にしたヴィトロガンを最大出力で、加えて《スピリット》が蹴りを喰らわせた傷跡へ発射。

「ぬぅおっ!?」

 《エクスキュートアトラム》は仰け反りながら後ろへたたらを踏む。ほんの僅かな隙だが、

(逆らわずに、流れるように)


 《E リアクション!!》


 フラグメントエクステンダーとアトリビュータムウィザード・フラグメントを装填するには十分だった。


「おのれ、ぐぬわぁ!?」

 急ぎ妨害しようとするも、展開された魔法陣の扉に弾き飛ばされる《エクスキュートアトラム》。《レイス》の逆転の切り札が切られる。


 《ゲート カイホウ!!》


 《アトリビュータム・フュージョン!! イグニス! アクア! テラ! ヴェントス! イコール! イコール!! エレメンタル・レイス!!!》


 《レイス・ウンディーネの方程式 アディション・ウィザード》


 《レイス》は《エレメンタルレイス》へ変化。フラグメントシェイカーを出現させると、


 《サモンリアクション ヴェントス・シルフィーネ》


 風の妖精を召喚。体勢を崩した《エクスキュートアトラム》を暴風によって立て直すことを阻止する。

「お、のれ……はぁ!!」

 《エクスキュートアトラム》は蹲った状態から鎖を伸ばす。

 だが《エレメンタルレイス》は足に風を纏い、滑るように鎖を回避。そしてフラグメントシェイカーへ次々とフラグメントを装填していく。


 《カーボンゴーレム シングルリアクション!》

 《ヒュドラギュルムスライム ダブルリアクション!!》

 《チタニウムヘルハウンド トリプルリアクション!!!》

 《アルミニウムシムルグ クァトロリアクション!!!!》


 《フラグメント セントリーフュージョン!!》


 回転、融合、そして圧縮。異なるフラグメントのエネルギー達は、やがて鉱石で構成された巨大な手を生み出す。


 《クァトロフラグメンツ アルケミックスパイラルグラップ!!》


「なぁにぃ!? ぬぐぅおおお!?」


 手は《エクスキュートアトラム》を鷲掴みにすると、天高く持ち上げる。

「避けて!!」

「避けてってなに……おわぁぁぁ!?」

 バデック達を相手取っていた《スピリット》が空を見上げた時、《エレメンタルレイス》が何をしようとしているのかを理解する。そして全力でその場を離脱。


「馬鹿なァァァ!? 俺は、俺は完全体なんだ!! この程度で、くたばるものかぁぁぁ!!!」


 掴まれたまま、バデックの群れへ叩きつけられる《エクスキュートアトラム》。末期の叫びは叶わず、フラグメントエネルギーの爆発でバデック諸共この世界から退場することとなった。


「灰簾ちゃん……強ぉ……」



続く

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