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第37話 暗雲低迷 不退転のアンフィス

 

「成果は無し……か。残念だったね」

「ほんと使えねーなお前!!」

 静かに笑うモルオンに対し、セレスタは怒号を上げながらクマのぬいぐるみを蹴り飛ばした。放物線を描いて飛翔したぬいぐるみは、顔を掻くガーデルの顔面に直撃。

「いやさ、普通のアトラムくらいなら何とでもなるのよ。けど最低でも俺達クラスの奴探せってのは荷が重いって」

「それでヘラヘラ帰って来る奴が何処にいんだよ!!」

「ここにいまーす、なんちって」

「はいぶっ殺し確定!」

「まぁまぁまぁまぁ! 仲良しが一番!」

 と、仲間割れが勃発しかけた間へフローラが割って入る。助け舟を出されて安心した様子のガーデルに対し、セレスタは先程とは異なる怒りの表情を見せる。


「ふん、確かに? 貴重な戦力ポシャらせた上に炎の錬生術師強くしただけのクソ無能よりは何もしてない方がマシか」

「手厳しい! でもでも、今回はこっちにも成果あったんだって!」

 自身の弁明を聞いて欲しいと言わんばかりにフローラはあるフラグメントを取り出す。

「これ、炎の錬生術師から生まれたアトラムの残滓なんだけどさ、まだほんのちょっぴり力が残ってるんだ」

「アレの残滓……つまり、錬生術師の力が混じったアトラムの力がその中に?」

「正解! まだ2本しか培養出来てないけど、これ使えばもっと面白いものが ──」


 その時、部屋の扉が凄まじい勢いで開く。ただならぬ雰囲気に全員の視線が向いた先にいたのは、


「はぁ……はぁ……はぁ……!!」


 青ざめた顔で壁にもたれかかるアンフィスだった。モルオンは表情を曇らせる。

「随分気分が良さそうだけど、右眼は取り戻せたのかな?」

「……もう、時間がない」

 アンフィスはよろめきながらフラグメントを取り出すと、それを手で握り砕いた。溢れでる光の粒子がアンフィスの身体に溶け込むと、僅かに表情の険しさが消える。

「錬生術師達の戦力を分散させる……散らばった場所で人間を襲え」

「はぁ? なに偉そうに指図してるわけ?」

 その物言いに食ってかかるセレスタ。

「そんなボロボロでまだ自分の方が上とか思ってんなら、今ここで理解させても良いんだけど?」

「セレスタ、喧嘩はよそう」

 モルオンは彼女を制止する。しかし彼の表情は依然曇ったまま。

「でも言う事には一理あるかな。今のあなたと僕達じゃ立場が対等じゃない。ただでさえアトラムと錬生術師って相容れない関係なんだ。言う事を聞かせたいならそれなりの誠意が欲しい」

 するとアンフィスは何かをテーブルへと叩きつけた。それは以前にモルオン達へ貸し与えた改造ヴィトロガン。同じものが3つ並んでいた。

「好きに使えばいい……前に渡したイリガルヴィトロガンもリチューンする」

「なるほど、これで全員分……本気みたいだね」

 モルオンはそれらを受け取ると、2つをセレスタ、フローラへ投げ渡した。

「わーいやったー!」

「……使い方とか知らないし」

「ガーデルは前の奴をそのまま使えばいい」

「ほーい」

「それとフローラ、あのフラグメントを1本預かってもいいかな」

「んぁ? 良いけど大事に使ってよ〜?」

「心配いらないさ」

 モルオンはテーブルに置いたままのタブレット端末に目をやる。そこにはとある事件のネット記事が載っていた。


《金識町連続児童殺害事件 犯人未だ特定出来ず》


「きっと上手くいく」



 その足でモルオンは夜の街へ繰り出す。日が落ちたこの時間、普段ならば子供が1人で歩く事などない。加えてあの事件である。いつにも増して人の気配すら少なかった。

「でも人間は不思議だ。自分達が巻き込まれることはない、なんて楽観的な思考を持つのが一定数いる」

 足を運んだ先は、鉄道が走る高架橋の下。付近にある学習塾への近道としての側面があるこの場所に、モルオンは少し前から目を付けていた。

「そんな警戒心の薄い個体は」

 街灯のない橋の下、そこで蠢く影の前にモルオンは身を晒す。


 影の正体は黒いフードを目深に被った高校生くらいの少年。そしてその足元にはランドセルと散乱する教材、赤い水溜り。


「淘汰されてしまう。悲しいね」

「……あーぁ、見つかっちゃったかぁ」

 少年はボソリと呟く。しかしその後の行動が早かった。手にしたナイフを引くとそのままモルオンへ突進。彼の鳩尾へ刃を突き立てたのだ。

「……ん?」

 少年は違和感を感じる。間違いなく刃はモルオンを貫いているにも関わらず、本人は変わらず爽やかに笑っているのだ。

「いいね。想像以上の逸材かもしれない」

 そこで少年は、手にしたナイフの刃がモルオンの足元へ転がっている事に気づいた。

「もしかしてさぁ……お兄さん、最近よく出る化け物、だったり?」

「ご名答」

「そっかぁ」

 しかし少年はさして驚く様子を見せず、薄ら笑いを浮かべる。

「逮捕されるのもまぁ悪い事じゃないかなって気もしてたけど……化け物に殺されるってのは良い話だよ。死んだ後の土産話には」

「期待に添えないようで申し訳ないけど」

 モルオンは懐からフラグメントを取り出す。フローラから受け取った、《ネクロリーパー》の残滓。

「君はこれから化け物の仲間入りをするんだ。人を人とも思わない化け物の魂に、その入れ物は小さすぎるだろう?」

 侮辱とも取れるモルオンの言葉。しかしそれを聞いた少年の笑みは更に深くなる。


「へぇ……いいねぇ」





「息子がお世話になっています」

 ジュエルブレッドを訪れた晶の父がユナカへ一礼する。それに対しユナカも礼を返す。

「いえ、晶くんを預かる以上は当然のことしか」

「まさか晶がパン屋を目指していたなんて、しかも世界に出ても恥ずかしくないレベルのものとは」

「ま、まぁね……」

 ユナカと晶は苦い表情を浮かべそうになりながらも何とか取り繕う。

 晶がジュエルブレッドに世話になっている表向きの理由。それはパン屋になる為の修行だというもの。一から十までザクロがでっち上げたデタラメなのだが、電話で晶本人からの言葉で説明した為に何とか信じ込ませる事が出来たのだ。

「それにしてもジュエルブレッド、今日も賑わっていますね。制服も店長さんが?」

「違います、あの子……あの、ミニスカート履いてる子の要望で」

 何故ユナカがそう即答したのか。それはいつもの制服ではなく、クリスマス仕様へ変わっていた為だ。

 ユナカは帽子と白髭、赤い服を身につけ、袋を背負ったサンタクロース。灰簾は角のヘッドセットとブラウンのメイド服を身に纏ったトナカイメイド。翡翠は赤いベストに赤いミニスカート、黒いタイツを着用した謎のサンタ。

「ねぇ、これどういう趣旨のコスチューム?」

「見ての通りクリスマスだけど?」

「にしてもトナカイメイドって……」

「本当は私がそれ着たかったんだよなぁ」

「嫌に決まってるでしょ! 私はそんな丈の短いスカート着たくない!」

 パンを運びながら交わされる2人の会話。見慣れつつある光景ではあるが、それこそが打ち解け合っている証明だった。


「なんかすみません。ちょっと落ち着きのない店で」

「いえ、最近は物騒な世の中ですから。これくらい明るくて丁度いいくらいですよ」

 晶の父は笑いながら言うと、ユナカからパンの袋を受け取った。

「私はこれで。晶のこと、よろしくお願いします」

 アンフィスの事を晶の父は知る由もない。だがその言葉を、ユナカは胸に刻み込んだ。

「はい、必ず」



 店の中から客が去り、落ち着きを取り戻した頃。

「やぁやぁ、休憩時間中なんだが良いかね諸君」

 上の階で作業をしていたザクロが降りて来た。

「なんだザクロ。手伝いをサボった言い訳くらいしてもいいぞ」

「そうだそうだー! 私と先輩と灰簾ちゃんに謝れー!」

「次の忙しい時間は引っ張り出してでも手伝わせるから!」

 姿を現しただけで非難轟々なその様子に、晶は苦笑いしてしまう。しかも当のザクロは悪びれる事すらしない。

「残念だが今日はこれから臨時休業だ。ニュースを見たまえ」

 言われるがまま、ユナカはテレビの電源を入れる。ニュースは生中継の最中だった。


『現在、金識町の各地で怪物が暴れ回っております! まだ避難が済んでいない住民の方はすぐに、うわぁっ!?』

『ほーい失礼ー。これあれっしょ、テレビ。いぇーい映ってるー?』


 何とそこには、アナウンサーからマイクを奪う《ガーデル》の姿が映っていた。

「ダルストンズ!?」

「今回は全員が散らばって暴れている。こちらも戦力を分散させるしかない。もう土の錬生術師には連絡を付けた」

 ザクロはフラグメントのいくつかを灰簾と翡翠へ投げ渡した。

「水の錬生術師と風の錬生術師は他の2箇所へ。ユナカはここで待機だ」

「待機? ……まさか」

 意味を理解したユナカ。同時に灰簾と翡翠も裏口から外へ走り出した。



 店の外には、幾度となく見た彼の姿があった。


「アンフィス!」

「右眼を、ぐぅ……今日こそ返して貰う……」

 だがその出立にユナカは疑念を抱く。肩で息を吐き、立つのもやっとな様だった。

「もはや乗っ取った少女の身体も限界か。このままでは崩壊してしまうぞ」

「何だと!?」

「崩、壊……って」

 ザクロの分析にユナカは声を上げ、晶は信じられないように呟く。だがアンフィスはそれに答えることはせず、懐から取り出したクリアフラグメント数本を握り砕く。

 溢れた光をその身に取り込み、ミッシングゲートを出現させる。


「だからこそだ……どんな手段を用いても……!」

「晶くんは絶対に渡さない。お前が乗っ取ったその子も解放して貰うぞ」


 対するユナカはフラグメントゲート、そして3つのフラグメントを取り出した。

 ユナカの手にある真紅のフラグメント、ヘリオライトフェニックスを見たアンフィスの表情が歪みを増す。

「なんだそのフラグメントは……! 前にも増して奴の面影を感じさせる……!」


 2人は同時にフラグメントを装填。そして同時にゲートを解放した。


「「変身!」」


《ゲート カイホウ!!》

《ゲート・カイホウ》


《業火絢爛!! Re バースト!!! イグナイト・リーパー!!!》

《Open the Gate!! Glorious the Legacy!! Half Awakening Lux Dragon!!》


《リーパー・サラマンダーの法則!! アペンド・フェニックス!!》

《Open the Left Eye》


 ユナカの姿は《リーパー》、そして《ネクロリーパー》の姿を一瞬取り、やがて身体を包む炎が爆発。《イグナイトリーパー》へ姿を変えた。

 《アンフィス》もまた、左のアイレンズに灯る輝きを増幅させる。



「見ろよ相棒、中々面白い対戦カードだぜ」


 晶を巡る決戦を、送電鉄塔の上から見下ろす影。それは変身した《レヴァナント》だった。


「ちょいと観戦してみるか。相棒が楽しめるヒーローショー、見せてくれよな」



続く

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