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第35話 覚悟再燃!! 炎鳳の翼、開く時

 

 ジュエルブレッドから抜け出したのは、自暴自棄になったからではない。

 今のユナカには、《ネクロリーパー》が何処にいるのか、そして何をしているのかが分かる。今、あの怪物は真っ直ぐこちらへ迫っている。

 おそらく《ネクロリーパー》にも、ユナカの動向が分かっている。近くには必ずフローラかアンフィスもいるだろう。それによって晶の位置を知られる危険性がある。


 それを避ける為に、今にも砕けそうな重い体を引きずり、遠く離れた場所へ向かっている。


「……こんな、ことに、なったのは……俺の所為なんだ」


 ならばこれ以上、誰も巻き込むわけにはいかない。


「ゥゥゥ……!!」

「……」


 目の前に降り立った《ネクロリーパー》相手に、一歩も退く事なく相対するユナカ。

「お前は……俺、が、必ず……」

「お前には不可能だ」

 ユナカの言葉を《ネクロリーパー》が遮る。よく聞けばその声はユナカのものと全く同じだった。

「ほたるを見殺しに……いや、殺したお前に」

「っ……!」

 アトラムの言葉に耳を貸してはならない。ザクロから教わった事だ。寄生された人達にまず掛けるべき言葉だ。

 だが実際に自分が寄生されて分かった。そんな事が出来る人間などいない。深い傷の脆い部分を、鋭利な道具で突き砕くような重さが、アトラムの言葉にはあるのだ。

「完全体になることなんかどうでもいい。俺はお前を殺す。それが俺の義務だ」

 《ネクロリーパー》は瞬時に駆け出す。ユナカが防御の姿勢を取るより早く、拳が鳩尾に辿り着いた。

「がっ!?」

 変身していない体には致命の一撃。その場に崩れ落ちるユナカへ、《ネクロリーパー》は追い討ちのように顎を拳で打ち抜いた。

 声すら発せず宙に放り出され、全身をアスファルトへ叩きつけられる。

 どれだけ念じようともフラグメントゲートは現れない。《ネクロリーパー》の力ではない。


 既にユナカの心は、それを呼び出すに足る強さを保てていないのだ。


(結局何も……何も出来ないまま……!)

 涙の代わりに血が湧きあがり、口から零れ落ちる。立ち上がろうにも身体のダメージと、何より壊れゆく心がそれを許さない。鎖は黒くなると同時に、黒炎を上げる。

「このまま消えるなんて許さない」

 《ネクロリーパー》の身体に同様の黒い炎が灯る。本来の姿が完成しつつあるのだ。

「必ず俺の手で……!」


「凄い凄い凄い! ここまで上手くいくなんて!」

 その様子を電信柱の上から見下ろすフローラ。まるで喜劇を見ているかのように満面の笑みを浮かべていた。

「これならお兄ちゃんが死ぬと同時に完全体になって……あら?」

 だがそれを阻む影が現れたことに気づく。


「変身!!」


《ゲート カイホウ!!》


《土涛・クラッキング!! テラ・ファントム!!》


《ファントム・ノーム結合!!》


「ぐぅっ!?」

 変身した琥珀、《ファントム》が《ネクロリーパー》へ拳を打ち込む。不意を突かれた《ネクロリーパー》は大きく後ずさった。

「琥珀、くん……」

「……」

 ユナカは《ファントム》を驚いた目で見ていたが、すぐに逸らしてしまった。部屋を去る前にザクロが真相を話していた事は聞こえていた為だ。自分は憎むべき敵になったと思っていた。

 だが、

「僕は……本当に情けない奴です……!」

 硬く握った拳、弱々しく吐かれた言葉。それら全て、ユナカの思惑とは異なるものだった。

「あの日の真相を聞いた時……何で言ってくれなかったんだって……何で頼ってくれなかったのかって……本当に、どうにかなりそうなくらい……あなたを許せなかった」

「邪魔をするなぁぁぁ!!!」

 《ネクロリーパー》はすぐさま走り出そうとする。だがそれを《ファントム》は組みつくように体当たりし、行手を阻んだ。

「琥珀くん……俺は許されるべきじゃ ──」

「でもそうじゃない!!」

 《ネクロリーパー》は黒炎を纏った拳を何度も《ファントム》へ叩きつける。しかし《ファントム》は一歩も引かない。

「簡単に他人に任せられるような事じゃない!! 半身みたいに生きてきたほたるちゃんを助けられなかった気持ちを……他の誰にも背負わせたくない想いを……何も分かってなかった!!」

「消えろ消えろぉ!!!」

 《ファントム》を無理矢理引き剥がすと、後方へと蹴り飛ばす。その堅牢な装甲に亀裂が走った。


「輝蹟ユナカァ……お前はほたるの、っ!?」


《ニコラウム・アラクネー!! 強靭、粘着、ヘビィな織糸!!》


 歩みを再開しようとした《ネクロリーパー》を、無数の金属糸が絡み付く。

 《ファントム》の右腕には蜘蛛の腹部、左腕には糸を織る美女の装甲が備わっていた。それらから光り輝く糸が伸びている。

「でも、それでも言わせて下さい!! 僕だってほたるちゃんを助けたい!! ほんの少しでもいいから! 僕にも背負わせて下さい!!」

「琥珀、くん……!」

「ヌグゥゥゥァァァ!!!」

 咆哮する《ネクロリーパー》。その手から黒い炎を放ち、ユナカを焼き尽くそうとする。

 だがそれを、降り注ぐ雨の障壁が防いだ。そして障壁を貫いて飛来する風の弾丸が《ネクロリーパー》の腕を弾く。


「何で1人で出て行くのユナカくん!」

「灰簾さん……翡翠ちゃん……」

 振り返った先にいたのは《レイス》。そのすぐ後ろには《スピリット》の姿もあった。

「先輩」

「……俺は、君の親友を消した……仇」

「じゃなくてさ」

 側を通り過ぎると、《ネクロリーパー》へ2丁の銃を向ける。

「嘘ついてごめんなさい、でしょ」

「翡翠ちゃん……」

「ちゃんと先輩の口から教えて下さい。それで許してあげますから」


「おわぁ面倒くさ……ま、この時のために」

 フローラは懐から大量のフラグメントを取り出す。それはアンフィスが人々から奪ったものへ、ある改良を行なったもの。

「ちまちま作ってたんだけど」

 それらを一斉に投げ捨てた。


 砕け散るフラグメントから漏れた霧、そこから大量のバデックが現れる。

「っ、また何にもない場所から急に!?」

「それだけじゃない……」

 バデック達は次々と融合。その形は泥人形の様に何度も変形を繰り返すと、

「イェヒヒヒ」

「ハ、ハタラ、ハタラ?」

 その姿を《バンデットアトラム》と《エンプロイヤーアトラム》を模したものへ変えた。だが首輪は存在せず、まともな言語すら発せていない。

「アトラム!?」

 再生した2体を相手にせざるを得なくなった《レイス》と《スピリット》。

 そして、

「ぐ、ぅぅぅ、離すか……絶対!!」

 《ネクロリーパー》に絡みついた糸は黒炎に焼かれ、切れ始めていた。


「どうして……俺は……!」

 皆が必死に自分を救おうとしているのに、倒れ伏し、地面で虫の様に踠くことしか出来ない。その情けなさが更にユナカの心を追い詰めて行く。

「彼奴の言う通りだ……俺は、何も……」

『ユナカさん!』

 ユナカの前に、カラスの置物が舞い降りる。そこから晶の声が聞こえて来た。

「晶くん……」

『きっとユナカさんは自分のこと沢山責めてるのかもしれません……でも僕はユナカさんに助けられたこと、今も守ってくれていること、忘れたことありません! 今までも……これからも!』

「……なんで」


「不思議なものだな」


 そしてその言葉を晶から託された人物は、カラスの置物を拾い上げる。

「君はあの日からずっと自分を責め続けていた。だが君の周りはどうだ。真実を聞いても、君を助ける為にこうして集まっている」

「ザクロ……」

 ユナカが見上げた先。そこにはザクロが立っていた。全てを失い、出会ったあの日の光景と重なる。

「残念だが、私は彼等ほど優しくない。代わりに今一度、君に問おうか」

 2人の視線が交錯する。


「その手に、取り戻したいものはあるかい?」


 取り戻したいもの。取り戻したい人。あの日、最後に彼女が伝えた言葉を聞く事。

 否、既にあの日、聞こえていたのだ。ほたるが自分に伝えた言葉、ショックで忘れていた言葉を。

 後悔でも、呪詛でも、別れでもない。


── お兄、ちゃん……助けて…… ──


「何を、やっているんだ、俺は……!!」

 妹は最後の時まで自分を信じていた。自分の夢を裏切った兄の事を。だというのに、

「ほたるが信じてくれた事を忘れて…………投げ出そうと……自分が、楽になろうとしていたんだ……!!」

 地面を殴る。それを見たザクロの口角が持ち上がった。


 炎の錬生術師の力の源である、怒り。だが今のユナカのそれは本質が違う。自分を無意味に傷つけるのではない、鼓舞する為のもの。


「どうするかはユナカの自由だ。でも、ここまで来た信念と、見据えた未来。少し考えれば……いや、考えるまでもなく、一択だろう」


 ユナカの眼の紋章に炎が灯る。それだけではない。身体から流れ出る血液を燃料に、全身から炎が上がる。

 自らを縛る鎖に手を掛け、それを力任せに引き千切ろうとする。


「無駄だ、お前如きに引き裂けるものか!!」

「ま、ずい、ユナカさん!!」

 遂に《ファントム》の糸が焼き尽くされ、《ネクロリーパー》が解放されてしまう。

「灰になれぇ!!」

 黒い炎を右腕から放射。ユナカとザクロを焼き尽くさんとする。2体のアトラムに阻まれた《レイス》と《スピリット》も間に合わない。

「逃げて!!」

「やっば!?」

 しかしユナカは逃げない。鎖を握りしめたまま、《ネクロリーパー》を見据える。

「もう逃げない……諦めない……!!」

 真正面から炎を受け止めた。しかしそれがユナカとザクロを焼くことは叶わず、周囲へと飛散する。


「ほたるを…………必ず救い出す!!」


 その時、ユナカ以外の全員が目を疑う。握りしめた鎖は炎となり、千切れるのではなく、ユナカの身体へと吸収されたのだ。同時に《ネクロリーパー》との繋がりが断ち切られる。

 目の前にかざした右手へ、ザクロの白衣ポケットから空のフラグメント・Vが飛来。ユナカの身体から溢れ出す炎の全てが内部へ充填されていく。

 内部が満たされてもなお、注がれていく炎は途切れない。しかしフラグメント・Vは割れる事なく全てを受け入れる。密に、より密に、高密度に。


 やがてフラグメント・Vの形状が変化。内部では太陽フレアの様に炎が荒れ狂い、それを封じ込めるキャップが模ったのは、



 翼を広げた、炎の不死鳥。



「え、え? 何が起きてんの?」

 フローラは呆気に取られ、

「精製装置も無しに、フラグメントを……」

 《レイス》はそれ以上の言葉を失い、

「ユナカ、さん……」

 《ファントム》は呆然と見つめ、

「先輩……」

 《スピリット》は振り向かず名を呟き、


「流石、私の弟子だ」

 ザクロは笑みを向けた。



《リーパー・フラグメント!!》

《イグニスサラマンダー・フラグメント!!》


《ヘリオライトフェニックス・フラグメント!!》



 出現したフラグメントゲートへ、3本のフラグメント・Vを装填。


《リアクション!!》


 出現したのは石門ではなく、炎で形作られた扉。死神は業火を纏い、大蜥蜴は炎を喰らって巨大化。扉の上では不死鳥が翼を羽ばたかせる。

 その3体が扉へ吸い込まれ、炎は天高く伸び、夜空を照らした。


「変身!!」


 扉を、炎が逆巻く右足で蹴り開ける。



《ゲート カイホウ!!》


《業火絢爛!! Re バースト!!! イグナイト・リーパー!!!》


《リーパー・サラマンダーの法則!! アペンド・フェニックス!!》



 その身は一度《リーパー》を取り、すぐさま煌炎によって自らを焼き尽くす。そこから現れたのは新たな姿。

 不死鳥の翼を模った外套を纏い、アイレンズは更に鋭利な形状へ変化すると共に深紅へ。身体に埋め込まれた水晶の中では炎が暴れ、ボディスーツはメタリックオレンジをベースにレッドのラインが走る。踵に備わった蹴爪型の装甲と大蜥蜴の頭蓋骨の装甲が融合し、本体と共に敵を睨み据える。


 肩を振るわせ戦闘態勢を取る《ネクロリーパー》に対し、新たな《リーパー》 ── 《イグナイトリーパー》は叫んだ。


「来い……輝蹟ユナカ!!」



続く

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