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第30話 闇対蒸気!! ゲームの結末

 

「短期決戦たぁ随分な啖呵切ったな、炎の錬生術師の弟子ぃ!」

 一気に駆け出した《レヴァナント》は、同時に両腕を射出。まずは数を減らすべく攻撃を分散させる戦法に出る。

「所詮分身なんざ、本体が割れりゃ終わりな攻略法だ!」

 《レヴァナント》の両腕は《リーパー》の分身を貫く。その予想を疑わぬままに真ん中の個体へ蹴りを放とうとした。

 ところが《リーパー》の分身がとった行動は、

「その攻略法は」

「悪手だ」

 分身は《レヴァナント》の腕の軌道を見切り、それらを掴んで受け止めた。伝わる感覚に《レヴァナント》は違和感を覚える。

(何だ、こいつ……おかしくないか)

 《レヴァナント》は分身を、フラグメントの力によって生み出されたものだと予想している。だがそれにしてははっきり・・・・しすぎている。分身にしては力の差をあまりにも感じない。

 しかしそれらだけに構うわけにもいかず、そのまま《リーパー》の分身を蹴りつける。交差した腕により胴には入らなかったが、《レヴァナント》の意識はそこには向いていなかった。

(違いが無さすぎる、どれが分身か)

 《リーパー》から反撃の蹴りが来るが、《レヴァナント》は身体を再びバラバラにして回避。しかし距離を離すより早く残る2つの分身に蒸気を纏ったハイキックを両足に叩きつけられる。

(いや、俺が見分けられないわけじゃねぇ!)

 孤立した頭へ回転蹴りが刺さり、《レヴァナント》は屋上の柵へ叩きつけられた。

「くっ……ふっはははははぁ、はっはっはっはっ!! 分かるわけねえよなぁ!!」

 《レヴァナント》はようやく正体を掴んだ。《リーパー》の分身は決してまやかしや、力を分散させたものではない。


「全部″本体″じゃねぇか!! クソゲー乙ぅ!!」


 身体を合体させた《レヴァナント》へ畳み掛けるように、四方八方から《リーパー》達の攻撃が襲いかかる。

 フラグメントエクステンダーで変換された膨大な炎と水の反発エネルギーは、《リーパー》の身体を同一能力で複製、分割ではなく増殖させる形で分身を生み出した。すなわち今の《リーパー》の戦力は単純に5倍となっているのだ。

「こいつは、いでっ! 降参しちまうか相棒!? ……ぁ、何? 最後に大技対決したいって!?」

 《レヴァナント》の言葉を聞いたのか、《リーパー》の猛攻が一度止む。目の前に並んだ5人の《リーパー》が異様な威圧感を放つ中でも構わず《レヴァナント》は続ける。


「まぁ、遅延して勝つか負けるかよりは……そっちの方が楽しいよなぁ!!」

「っ!」


《リアナライズ》

《E リアクション!!》


 《リーパー》と《レヴァナント》は同時に構える。

 分身は1人へと集結し、纏っていた蒸気が全て右足へ集結。揺らめいていた姿が露わとなり、肩の噴気孔が後ろへ回転。ジェットパックと共に大量の蒸気を噴出する。

 《レヴァナント》は自らの頭部を外し、リフティングの様に足で弄ぶ。足と頭部には黒い炎が灯り、大きくなっていく。


「ラストアタック……ターイム!!!」

「正真正銘、最後の一撃だ!!」


《サラマンダー・ウンディーネ!! アルケミックスチームブレイク!!》

《レヴァナント!! ダークネスクラッシュ!!》


 《リーパー》は直上へ瞬時に飛翔。超高熱の蒸気が螺旋状に渦巻く右足を向け、一気に《レヴァナント》へと突進する。

 対する《レヴァナント》は闇炎を纏った自らの頭部を蹴り飛ばし、同時に後を追う様に跳躍。《リーパー》の足と衝突した頭を更に押し込むように蹴り込んだ。


 長い拮抗、月明かりを掻き消した光が一際強く輝いた刹那、それは爆轟と共に決着した。



 バラバラとなった《レヴァナント》が先に落下。続くように変身が解けたユナカが落下した。

「ユナカさん!!」

「ユナカくん!!」

 晶と灰簾が駆け寄る。意識はないが、他に別状がないことを確認し、息を吐いた。

 遅れて歩み寄ったザクロはフラグメントゲートを見ていた。未だに熱を吐き続け、僅かに火花を散らしている。

「まだ改良の余地はありそうだ」

「……あ、透くんは!?」

 晶はバラバラになった《レヴァナント》の方を見る。壊れたプラモデルのようになっていた身体は消え、入れ替わるように車椅子に乗った透が現れた。

「透くん!」

「……すぅ」

「え、寝てる……?」

 車椅子で穏やかに眠る姿に、晶は目を丸くする。あれだけ激しい爆発だったにも関わらず外傷は一切見当たらない。

「怪我もなさそうだし……」

『当たり前だろ、相棒死なせるわけにはいかねーからな』

「ひっ!?」

 と、透の胸ポケットからフラグメント・Vが飛び出した。レヴァナントだ。

「ま、まだ生きてる!」

『結構ギリギリよ? 相棒守るのにパワーを使いすぎちまった。多分病院のアトラムも消えちまったなこりゃ。インスタント食品とおんなじノリで作っちまったやつだし』



 レヴァナントの言葉通り、手も足も出ない状況は覆る事となる。

「このままじゃ、まずい!」

「このっ! って、あぁ、コラー! 私の身体で遊ぶなー!」

 ドクターアトラムに逆さに吊るされ、薬を飲まされそうになる琥珀。聴診器を巻きつけられ身動きを封じられる翡翠。

「うわっ!? ……え?」

「あ、あら?」

 だがドクターアトラムもナースアトラムも一瞬で姿を消し、静かな病院へ様変わりしていた。

「……もしかして、ユナカさん達がやってくれたのかな?」

「あっちゃぁ、今回私達良いところ無しだったじゃん!」



『そんなわけで、お前達の勝ちだ。約束通り元に戻す。まぁ寝て起きたらぐらいになってるかもだが』

 と、未だに震える晶へレヴァナントが何かを投げ渡した。それは下半身が蜘蛛の女を模ったフラグメント・Vだった。

『それとルール設定ミスの詫び品だ。どうせ俺達にゃ合わないしな。そんなわけでゲームセット! お疲れやしたーってわけで』

「待て闇の錬生術師」

 話を強引に打ち切ろうとしたレヴァナントをザクロが割って入り止める。

『なぁんだよ、顔合わせのついでにフラグメントもくれてやっただろ。これ以上なにが欲しいってんだ』

「情報だね。どこで晶くんの事を知ったのかを話して貰おうか」

『あー、坊主の事なぁ』

 レヴァナントは急に口籠る。言うべきか否かを考えているようだったが、やがて何かを納得したような様子で話し始めた。

『言える範囲で言うなら、坊主がアンフィスの手に渡る事を望んでる奴等もいるって事だ。で、俺達にもそう手引きするように頼んできた。でも俺達にゃ何も楽しみがないから、ここに連れてきた口実作りと顔合わせを兼ねてゲームを開いたってわけ』

「いったい誰がそんな事を……」

『それを突き止めるのはお前達の仕事だろ。俺と相棒は楽しけりゃどうだっていい』

 と、レヴァナントから黒い霧が噴き出し、透の身体を包み始めた。


『ま、切り札使ってこれなら厳しいかもな。次に遊びにいくまでに新しいネタ、仕入れとけよー』


 車椅子だけを残し、透とレヴァナントは消えてしまった。




 かくして騒動に一応の決着は着いた。だが、


「はーい灰簾ちゃん、腰ギュッとしますよ〜」

「あ″あ″あ″ぁぁぁ……」

 次の日のジュエルブレッドは休業。全身が筋肉痛となり動けなくなった灰簾を、翡翠がマッサージする光景があった。そして、

「ユナカさーん、ハンドグリップ持ってきました!」

「ありがとう晶くん。もう少しで……」

 晶から受け取ったハンドグリップを握りながら、蹴りの練習を続けるユナカ。

「どうやったら1日でここまで鈍るんだ……?」

「それどういう意味ユナ……ゔっ!?」

「うっわ、ここエグいくらい張ってる! 私と刑事さんはそんなだったし、こりゃ2人の運動量の差が効いたみたいだね〜」

 レヴァナントが与えた被害は意図しない場所で機能していたのであった。



「ん〜、このぐらいにしておくか」

 アトラムの元となる鍵型のフラグメントが並ぶテーブル。それを見た青年が達成感に満ちた笑顔を浮かべる。

 白髪に月明かりが当たり、紫色の煌めきが微かに揺らぐ。濁った紫色の瞳と艶のある笑み。一見すれば、美しくもまだあどけなさの残る少女。だが彼の放つ雰囲気には奇妙な艶があった。

「もうすぐ会いにいくよ、お兄ちゃん」


 ネクロマンサーを模したフラグメント・Vが、胸ポケットから覗いていた。



続く

Next Fragment……


《ニコラウム・アラクネー!!》




《リーパー・フラグメント》

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