第29話 蒸気爆轟!! 逆転の攻略法
「何がラスボス戦よ!!」
「ザクロ、晶くんを頼む!」
《リーパー》はヴィトロサイズを手に、《レイス》は火球を形成し、《レヴァナント》へ立ち向かう。
「おぉ、作戦はガンガン行くぜってかぁ!? 楽しい奴らだなぁ! まぁ俺はいろいろやれが好みで ──」
「はぁっ!!」
《リーパー》はヴィトロサイズを真横に薙ぎ払う。避ける素振りすら見せない《レヴァナント》の身体を刃が斬り裂く。
「っ!?」
手応えがない。その違和感を感じた《リーパー》が《レヴァナント》を見る。
「攻めるだけじゃあ突破口は開けない、ゲーム攻略じゃ常識だ。バフやデバフを上手く活用して ──」
ヴィトロサイズが通過した《レヴァナント》の身体は上半身と下半身に分かれていた。しかし斬り裂かれた訳ではない。断面からは黒い炎が噴き出ており、切り離された上半身はフラフラと揺れ、下半身は機嫌が良さそうにタップを刻んでいる。
「コイツ、身体が!?」
「ユナカくん下がって!!」
《レイス》の声を聞いた《リーパー》は瞬時に後ろへ飛び退く。空中で撃ち出された火球とすれ違い、それらが《レヴァナント》へ殺到する様を見送る。
「そうそう、コンビネーションアタック!」
次の瞬間、《レヴァナント》の身体が多数に分裂する。四肢だけでなく、上半身は右と左に分かれ、火球を潜り抜ける様に躱してしまった。
「アクションゲームじゃ重要だよなぁ。けどこんな単純な連携じゃあ」
直後、《レヴァナント》の両腕が《レイス》へ飛翔。更に下半身が《リーパー》の元へと走り寄る。
「何、これ、このっ!」
飛来する両腕をヴィトロスタッフで追い払おうとするが、振り回される杖をすり抜け、煽る様にピースサインを浮かべる。そして、
「ほいほいほいほいほいほい!」
「ぁっ、くっ、ぅあっ、あぁっ!?」
鋭利な棘と爪で《レイス》を切り裂き、平手打ちで地面へ薙ぎ倒した。
「灰簾さん!」
「隙あり、マスカーキック!」
「ぐっ!」
気を取られた一瞬、《リーパー》へ下半身が跳び蹴りを放った。それに気づいた《リーパー》もヴィトロサイズで受け止めようとするが、間に合わずに吹き飛ばされる。
「決めてやったぜマスカーキック! お前ら知ってるか? マスカーマンって番組を相棒が見ててよ! これがまたカッコよくて」
「何なの彼奴……!」
「翻弄されたら奴の思う壺です」
《リーパー》は立ち上がると、ヴィトロサイズを消失させる。
「安定して戦えるのは灰簾さんの方です。俺が囮になりますからその隙に」
「……」
《レイス》の沈黙を待たず、《リーパー》は駆け出す。それを見た《レヴァナント》は再び身体を元の状態へ戻すと、
「マスカーマンで見たお決まりシチュ〜。敵の形態変化っと」
《サルファー ドラゴンゾンビ》
《アナライズ》
《レヴァナント》はフラグメント・Vをミッシングゲートへ装填。両腕が鉤爪を備えた骨状の装甲を纏い、《リーパー》の蹴りを迎え撃つ様に打ち出した。
「がっ!」
何も纏っていない《リーパー》は弾き飛ばされるが、すぐに両手を着き、後方へ回転して衝撃を逃す。
しかし追い討ちの様に《レヴァナント》は装甲から黄色の結晶を飛ばす。散弾の様に撒き散らされた結晶は《リーパー》の装甲を抉ると同時に、
「うっ!? 装甲、が……」
傷跡から成長し、《リーパー》の動きを阻害する。
「こりゃハンデの重さをミスったかぁ!? それとも俺の期待しすぎだったかぁ!?」
「うぐぁっ!!」
腕の装甲が足へと移り、分離した下半身が両足蹴りを《リーパー》へ叩き込んだ。大きく吹き飛んだ《リーパー》の身体は地面へめり込み、装甲から生えた結晶が食い込む。
「立ち上が、れ、ない……!」
「つ、強い……」
晶は呆然と蹂躙される様を見つめるしかなかった。その横で戦いを見つめるザクロの目も、いつもの様な余裕はない。
「あまりに掴みどころが無さすぎる。アトラムの生みの親ということしか私も知らなかったが、これほどとは……」
「あ、アトラムの親!?」
ザクロが呟いた言葉に晶は思わず声を上げる。
「じゃ、じゃあ彼奴は、ダルストンズのボス……!?」
「おいおい光の坊主、俺を悪の組織のボス扱いはやめろやぁ」
「ひぃっ!!」
《レヴァナント》は心外そうに指を突きつけた。右腕を飛ばし、晶の鼻先へ。
「確かに俺はアトラムを造った。けどその後の事は知らぬ存ぜぬ。生まれた後は好きに生きりゃいい、それが俺の教育方針だ」
「ふざけないで! あんたが造ったアトラムがどれだけ人を不幸にしてると!」
《レイス》は炎で編んだ2本の鞭を打ち出し、右腕を弾き飛ばし、本体へと振り下ろした。
「あんたがアトラムなんか造らなければ!!」
「錬生術師も必要無かった。そりゃ的外れな意見だぜ、水の錬生術師」
振り下ろされた炎の鞭を、身体をバラバラにして回避。そして左腕を飛ばしてヴィトロスタッフを弾き、右腕で《レイス》の首を掴み、地面に引き倒した。
「ぎっ!?」
「人間の心の傷をアトラムとして具現化させ、それを錬生術師が倒す事で傷を取り除く。本来あるべき仕組みはそれだった筈なんだ」
《レヴァナント》の言葉の続きを語ったのは、なんとザクロだった。
「だが人間の心とアトラムの結び付きは想像以上に強くなってしまった。アトラムがそう進化したのか、誰かがそうなるよう仕向けたのか」
「そりゃ知らんがな。何せそうなったのは俺の肉体が死んだ後だ。まぁとにかくもう彼奴等と俺に繋がりはねぇ。今でも好きにアトラムを造れはするが、しょっぱい作品ばかりだ。時間が来りゃ自壊しちまう」
身動きが取れない2人を尻目に、《レヴァナント》は自らの身の上を語る。
その間、《レイス》は打開策を考えていた。
(このままじゃ、彼奴を倒せない……慣れない身体と能力じゃ連携は……)
瞬間、《レイス》の脳裏にある装置の存在が過る。
── フラグメントエクステンダー、私達にも用意出来ないの? ──
── 残念だが無理だ。これをユナカ以外が使うのもねぇ ──
「炎の、錬生、術師……あれを……」
「……ほぉ。晶くん、水の錬生術師からフラグメントを引っこ抜いてくれ」
「えっ!? でもそれじゃあ……」
「晶、くん、お願い!」
戸惑う晶へ呼びかける《レイス》。当然《レヴァナント》も聞いていたが、
(なんか秘策があるってかぁ? 頼むぜほんと、無双ゲームは趣味じゃねぇんだ)
手は出さない。秘策を目にするまで邪魔はしない。このゲームが楽しくなる事を期待して。
晶は意を決し、《レイス》のフラグメントゲートからフラグメント・Vを引き抜いた。そしてそれをザクロへ投げ渡す。
そしてザクロは胸元から取り出したフラグメントエクステンダーとアクアウンディーネ・フラグメントを《リーパー》へ投げ渡した。
「ユナカ、炎と水の属性反発は凄まじいぞ。使いこなせるか?」
「使いこなすしか、ないだろ!」
仰向けのまま2つを受け取り、《リーパー》はそれらを一気に装填。
《フラグメントエクステンダー!!》
《イグニスサラマンダー・フラグメント!!》
《E リアクション!!》
石門の前に現れた炎の大蜥蜴と水の精霊が何度もぶつかり合い、頭と頭をぶつけ合う。瞬間その2体を吸い込んだ石門が激しく振動、ヒビ割れた隙間から大量の水蒸気を吐き出した。
「変身!!」
《リーパー》が叫ぶと、石門が倒れ込み、扉が開かれた。
《ゲート カイホウ!!》
《イグニス プラス ウンディーネ!! イコール……スチーム! スチーム!! スチーム・リーパー!!!》
深紅の装甲に走るメタリックブルーのライン。両肩から突き出したバイクのマフラーに似た噴気孔、背中に備わったジェットパック。胸部に備わった排熱甲とインナースーツに張り巡らされた配管に似たパーツから大量の水蒸気を吐き出す。
《ズシュゥゥゥゥゥゥン……!!! ドシュゥゥゥゥゥゥン……!!!》
「おい……おいおいおいおいおいおい!! なんだぁそりゃあ!? ぶっ飛びすぎだろぉ!?」
歓喜に震える《レヴァナント》。変身が解けた灰簾から手を離し、挟み撃ちの様に《リーパー》へ飛翔させる。
だが2本の腕は《リーパー》を捉える事はなかった。身体が霧の様に散り、消失した為だ。
「あん?」
《レヴァナント》が首を傾げた刹那、背後に気配を感じた。霧が再び《リーパー》を形成し、頭部を狙ったハイキックが放たれる。
「バレバレだっての」
《レヴァナント》は頭を身体から切り離し、生じた隙間に《リーパー》の足を通した。
「これが秘策ってんなら期待はずぅっ!?」
予測出来なかった。出来るはずが無い。今自身の直下を通り過ぎた足とは別の足が側頭部を蹴りつけるなど。
吹き飛ばされた《レヴァナント》の頭部は、再び別方向から蹴りつけられる。そして吹き飛ばされた先で再び蹴りつけられ、蹴りつけられ、
「どう、なって、やがる!? 俺の頭どこにあるんだ今!?」
最後、蹴りつけられた《レヴァナント》の頭は自身の身体へ叩き込まれた。分離して回避するわけにもいかず、真正面から受け止めるしかない。
「うげぇ!? ったく何が起きて……っ???」
《レヴァナント》は頭を抱えたまま目の前を見た時、言葉を失い、そして、
「バッハッハッハッハッハ!!!」
笑い声を上げた。
《リーパー》は5人に増えていた。高温の蒸気を放ちながら揺らめく姿は、どれが本物か誰も分からない。
彼の仕草をわざと真似る様に、《リーパー》は指差した。
「攻略法は、超短期決戦だ」
続く




