第28話 死中求活!! 闇が彩るラストステージ
「この数は……!」
すぐに臨戦態勢へ移る《リーパー》と《レイス》。しかしながらそれに待ったをかけたのはザクロだった。
「相手するだけ無駄だ。恐らくだがベースはここの患者達の心の傷……いや、傷というのも大袈裟なものか。精々注射が嫌いだとか、医者が苦手だとかそんな程度……」
「あぁもう、結論は簡潔に!」
「ここは病院なんだぞ。そんな気持ちなんか無数にある」
《レイス》が圧縮した炎をレーザーの様に放ち、《ナースアトラム》を数体破壊する。だがその隙間をすぐ埋める様に新たな個体が姿を現す。
「つまり無限に湧き続けるってことか!」
「ユナカさん、灰簾さん! こっちに非常階段があります!」
と、晶が指差した先。そこには鉄製の扉と、赤いランプで表示された非常階段の文字があった。
「仕方ない、一旦そこへ!」
4人は一斉に駆け出し、中へと逃げ込む。最後に入った《レイス》が扉の前に炎の糸を何重にも張り巡らせ、閉めた。
「……で、これからどうする?」
皆の視線がザクロへと集まる。すると少し考え込む様な仕草を見せた後、彼女は晶から受け取ったフラグメント・Vの破片を見つめる。
「これはきっと、黒幕からのヒントだ。じゃなければ痕跡なんか残す筈はない。つまり黒幕からすればこのゲームをクリアして欲しいって事だ。君達の魂を入れ替えるのが目的ではなくて……」
「私達との接触が目的……?」
出そうとしていた結論を《レイス》に先出され、少々不機嫌そうに頬をむくれさせる。しかしすぐに視線を破片へと戻す。
「正体を考察させる為のヒントのつもりだったんだろうが……見通しが甘かったねぇ」
ザクロはニヤリと笑うと、破片の一部を謎のフラグメント・Vの中へと入れる。そしてそれをヴィトロガンへ装填し、スライド部分を引くと、内部へフラグメント・Vが滑り込む。
《ゲートイン!!》
《ブンセキチュー》
「フッフッフ、この分析が終われば精製者の場所はおろか素性も丸裸……」
だがその時、非常階段を何かが上がってくる音が響く。それも大勢が駆け上がる音。
「簡単にはゲームを終わらせたくないみたいだな!」
「ユナカくん、上に!」
《リーパー》はザクロを、《レイス》は晶を抱え、階段を上がっていく。
「丁重に運びたまえよユナカ。ヴィトロガンを落としたらノーヒントに逆戻りだ。で、また一から謎解きしている時間もない」
踊り場の窓からの景色。それは刻限である日暮れ。地平線へ夕陽が沈みかけ、頭の先しか出ていない。
「まずい、時間がない!」
「ユナカさん、前!」
「っ!?」
踊り場のドアが蹴り開けられる。巨体の所為でドアを潜れず、捩じ込もうと身をくねらせる《ナースアトラム》だった。
「オチュウ、ジャッ!?」
前蹴りでドアの向こう側へ押しやり、扉を閉める。しかしすぐに扉が揺れ始める。
「早くしてくれ!!」
「ふむ……仕方ないな」
するとザクロはヴィトロガンを天へと向ける。彼女の目に刻まれた炎の紋章が、一際強く輝きを放つ。
「まだ分析途中だが、そこは私が補完して結果を導き出そう」
《ブンセキカンリョー》
同時にトリガーを引く。
《ゲート カイホウ!!》
《フラグメント コンクルージョン》
ヴィトロガンの銃口から、ほつれた光の糸の様なものが編み出されていく。
「これを辿っていきたまえ。謎解き茶番は終わりにしよう」
光の糸は4人を導く様に伸びていく。階段の上へ、上へと昇っていき、やがてそれが途切れたのは、
「屋上かっ!!」
《リーパー》は勢いよく扉を蹴り抜いた。広がる外の景色、そこには僅かに紅い光が残っている。
屋上の先には1つの影があった。車椅子に座る小さな少年。それを見たユナカは一瞬目を疑ったが、こちらを見ながら微笑み、手を叩く姿で確信へ変わる。
「まさか、君が……!?」
「凄いね〜お兄さん達」
ユナカもザクロも灰簾も、少年の事は見た事なかった。だが晶は気づく。柔らかな微笑みと癖っ毛に。
「透くん!?」
「お〜、晶くんもお兄さん達のお友達だったんだ。僕の友達と遊んでくれてありがとうね」
「友達……?」
透が小さく礼をすると、胸ポケットの中から何かが飛び出した。ガラス管を満たす黒い液体、キャップに施されている2本の角を持つ食人鬼の髑髏を模した装飾。
フラグメント・Vが、一人でに空を舞っている。そして、
『ゲームクリアー!! 中々やるなぁお前らぁ!』
一人でに喋り出した。
「フラグメントが……!?」
『けどよぉ、俺と相棒がせっかく用意したヒント、この時代の錬生術師に解いて欲しかったんだよなぁ! ちょいと難易度調整ミスったかぁ?』
「あなた一体何なの!? フラグメントが喋るなんて細工……」
「いいや、あれは細工なんかじゃない」
戸惑う《レイス》の言葉をザクロは遮る。そして《リーパー》から降り、喋るフラグメントへ向き直る。
「はっきり言おう。君の背景、ルール、制限時間、諸々を加味してもお粗末すぎるゲームだった。現代じゃ君はもうこの世に存在しない事になっている。現に私もヴィトロガンで分析するまでそう思っていたからねぇ。私達は存在し得ない答えが用意されたゲームに参加させられていたわけだ」
『……マジ? 死んだ事になってたのか俺? いや、ありゃ死んでもしょうがなかったけどよ……そりゃ悪かったなお前ら』
フラグメントは相変わらず饒舌に話し続ける。《リーパー》は一歩踏み出すと、疑問をぶつける。
「目的は何だ。どうして晶くんまでゲームに巻き込んだ?」
『そう睨むなよ。別にお前達が考えてるような事じゃねぇ。けどなぁ……ただで教えるってのもちょっと違う気がする。そこで、だ』
フラグメントは透の手に収まる。
『ボーナスステージだ。お前らがその状態で俺達を満足させたら色々教えてやるよ。相棒、良いよな?』
「うん、良いよ〜。僕も皆ともっと遊びたい」
透の左手に現れたのは、片側が欠けたフラグメントゲート、否、アンフィスが用いているものと同じ、ミッシングゲートだった。
《テネブラエ・レヴァナント》
《アナライズ》
透はミッシングゲートの左側、ホルダー部へ装填。目に刻まれた紋章が輝いた時、《レイス》は息を呑む。
「君、どうして闇の……!?」
「変身」
《ゲート カイホウ》
開いた扉に描かれていたのは、身体を無理やり繋ぎ合わせたような姿の死霊。あまりに歪な怪物。
《Open the Gate!! Resurrected from the DEAD!! Unleash Tenebrae Revenant!!》
瞬く間に透の身体を黒い炎が包む。炎は一度球状に変化、やがて胴体と四肢を形成し、何処からか飛来した灰色の骨の鎧を纏う。首が無い状態で佇む身体へ、大小異なる2本の角が生えた骸骨が上空から現れ、兜を被るように合体。悪辣な笑みを浮かべる口元から残火のように黒炎が漏れ出した。
《Let the Exciting Game Begin!!》
「さぁ、ラスボス戦ってやつだ!! 気合い入れてけよ、現代の錬生術師達ぃ!!」
日が沈み、屋上を月明かりが照らす中、《レヴァナント》は指を鳴らした。
続く




