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第27話 有耶無耶? 出口が見えない謎の連鎖

 

「刑事さーん、私の身体に傷つけないでよー?」

「う、うん」

 一方、琥珀と翡翠は人が少ない病棟の捜索を行っていた。隠れやすい場所に潜んでいる可能性があると考えた、琥珀の提案だった。

「なんかそんなよそよそしいと、見た目は自分なのに可愛く見えちゃうなー」

「ねぇ翡翠ちゃん」

 と、どうでもいい話を切り出そうとした時、琥珀が口を開いた。

「ユナカさん達がいない今、聞きたい事があるんだ」

「えー? 女の子に何聞く気ー?」

「翡翠ちゃんは僕の事、知ってた?」

 その質問に翡翠は目を丸くする。

「え? いや知ってるに決まってるじゃないすかー。ほたるちゃんの彼氏だよー? あったりまえ ──」


「僕は翡翠ちゃんの顔、分からなかった」


「……そりゃそうでしょ、イメチェンしたんだし。ユナカ先輩だって気づかなかったんだからさ」

「そういう意味じゃないんだ。言葉じゃ、伝えづらいけど……昔見た翡翠ちゃんとは何かが違う。だから分からなかったんだ」

 琥珀は足を止め、ガラスに薄く映る自らの姿、翡翠の顔を見つめた。


「いや、今も分からない。君が誰なのか」


 沈黙。


 周りに少ないながら人の気配があるというのに、不気味なほどに深い、沈黙が訪れる。

 背後に映る顔は笑っていない。

「……カッコいい詩みたい」

 沈黙を破ったのは、息を吐くように小さな声だった。

「でも残念、本当にイメチェンしただけなんだなーこれが。それに、違和感があるならユナカ先輩が気づく筈でしょー?」

「あ、うん。それもそう、か」

「はーい真面目に黒幕探しましょー! ま、刑事さんが女の子として一生生きていたいならいいけどー? 私はこのまま天才刑事として生きていくのも悪くないかなと思い始めてたりする」

「待って! ちょ、それは後々まずい気がするから急ごう!」

 ニヤける翡翠の表情に危機感を覚えた琥珀が辺りを見回した時だった。


「う、うぅぅぅ……」

 突如病室の戸が開いたかと思うと、中から若い男性が倒れながら出て来た。そして同時に、


「コワクナイヨー。ニガクナイヨー」


 中から怪物が姿を現す。破けた白衣から大量の針が突き出たブヨブヨの身体。白い帽子のような顔にはヘッドライトのように光る単眼、そして至るところから聴診器のような触手が伸びている。


「アトラム!?」

「おじゃま要員ってわけ! 刑事さん、変身しよ!」

「あぁ!」

 2人はフラグメント・Vを装填する。しかし、


《《ノー リアクション》》


「……あれ?」

「変身、出来ない……?」

 何度も試すが、一切変身出来ない。そんな2人を嘲笑う様に、《ドクターアトラム》は迫る。

「オクスリノモーネー、ニガクバッ!?」

 琥珀と翡翠は同時にヴィトロガンを取り出し銃撃。《ドクターアトラム》を仰け反らせ、転倒させる。

「これ、ユナカ先輩達と合流した方がいいかな?」

「その方が良いかも」

「コワクナイヨババババ!?」

 立ち上がろうとする《ドクターアトラム》へ銃撃を浴びせながら、2人は駆け出した。



「ほうほう、いつもとは違う属性か。データを取りたいから真面目に戦いたまえよ」

「真面目にやるのはお前の方だ、晶くんを頼む!」

 《リーパー》は床を蹴り、《ナースアトラム》目掛けて飛び蹴りを放つ。だが、

「っ!?」

 不意にバランスを崩したかと思うと、《リーパー》は《ナースアトラム》の目の前で転倒。

「オチュウシャ〜」

「くっ、うぉ!?」

 振り下ろされた注射器を咄嗟に躱すが、背や腰に鈍い痛みが走る。だが構っている場合ではない。

 跳ね起きた《リーパー》はハイキックを、

「うぅ!?」

 叩き込めなかった。足が上がらない。無理に上げようとすれば鋭い痛みが走る。

「ユナカくん、大丈夫!?」

「おいおいおい、水の錬生術師、君の所為だぞこれは」

「え、いや、何で私の所為?」

「今のユナカの身体は君の身体なんだぞ? 思う様に動かせないのは、君の運動能力が足りていない。つまり運動不足、ってやつだ」

「……はぁぁぁ!?」

 《レイス》は悲鳴に似た叫びを上げる。

「ゆ、ユナカくん? そ、そんなことない、ないよね? ねぇ!?」

「結構……きてます……色んな場所に」

「ふぁぁぁぁぁ!?」

 そんな中、ザクロはある事を提案する。

「ユナカ、属性のコントロールは?」

「それが……」


 《リーパー》の足元では、水が逆巻いては解け、逆巻いては解けと繰り返している。攻撃に用いようとしているのだろうが、制御出来ていないのだろう。

「水の制御が……難しい」

「ふむ。水の錬生術師は?」

「……今やってるから」


 見れば《レイス》のヴィトロスタッフに炎が集結しつつある。そして《リーパー》を狙う《ナースアトラム》へ火球を放った。

「オヂュッ!?」

 火球は直撃、しかし同時に周囲へ飛散。《リーパー》にも飛び散った炎が降り掛かる。

「ご、ごめんユナカくん!」

「い、いえ、大丈夫です」

「……でも、掴んだ」

 今度は火球を複数作り出し、続け様に《ナースアトラム》へ発射。その全てが一直線上にいる《リーパー》を避け、《ナースアトラム》へぶつかる。

「オヂュッ、ジャッ、ア、アヅ、アヅイ!?」

 先程とは異なり、飛び散ることもなかった。更に畳み掛けるように炎を螺旋状に束ね、火炎放射の様に浴びせる。

「ユナカくん、今のうちに感覚を掴んで!」

「はい!」

 《リーパー》が体勢を立て直している間、ザクロは興味深そうに《レイス》を見つめていた。

(ユナカが特段不器用な訳ではないんだが……水の錬生術師、中々やるじゃないか)

 異なる属性を扱う。そんな事は歴代の錬生術師でも成し得ない技である事をザクロは知っていた。故に《レイス》のアドバイスがまるで役に立たない事も理解していた。

(私が考察するに、これは君にしか出来ない芸当なんだからねぇ)


 《リーパー》は再び水を纏おうとするが、どうしても崩れてしまう。そこで戦術を切り替える事にする。

 ヴィトロサイズを出現させると、

「灰簾さん、刃に炎をお願いします!」

「分かった!」

 振りかぶったヴィトロサイズへ、《レイス》は正確に炎を巻き付かせる。擬似的にいつもの状態にすると、大振りで《ナースアトラム》を斬りつけた。

「ヂュウゥゥゥ!?」

 焼けた裂傷を刻まれ、発狂したように注射器から薬液をばら撒く。

「次は足に!」

「よい、しょっ!」

 中段に振り上げた《リーパー》の足へ炎が絡みつき、獄炎の蹴りが《ナースアトラム》の腹を穿つ。

「ジャアッ!!」

 足で揺らめく炎を水で消火。後ろへ跳ぶと、ヴィトロサイズを折り畳む。そして、

「今度はこれに!」

「ユナカくん結構人使い荒いね!?」

 《リーパー》が投げた瞬間、炎はヴィトロサイズを包む。高速回転しながら悶える《ナースアトラム》へ、ヴィトロサイズは股下から脳天まで一直線に飛翔。

「オチュウシャァァァァァァ!!!」

 断面に焼け跡を刻みながら、《ナースアトラム》は爆散。脅威を退けたのだった。


「いやー実に見事な戦いだった。特に水の錬生術師、正直ほんの少しだけ見直したよ」

「言ってる場合じゃないでしょ。早く黒幕を……」

 そこまで言いかけたところで《レイス》は重要な事に気づく。先程までザクロの側にいた筈の晶の姿がない事に。

「ちょっと!! 貴女ちゃんと晶くんの事見てたの!?」

「騒ぐな騒ぐな。その点も問題ないさ」

 するとザクロの後ろから走ってくる足音が響く。何かを手に持った晶だった。

「ザクロさん、ありました!」

「流石だ晶くん。今回良いところがないのはユナカだけだな」

「勝手に言ってろ。……晶くんも、危ないから今度からは気をつけて」

「は、はい、ごめんなさい……」

「だが晶くんは私の推測通りのものを見つけてくれた様だ」

 俯く晶の手から、ザクロは何かを受け取った。それは小さな水晶の破片、そして黒いキャップ。

「これは、フラグメント……」

「やはりあれはバデックがベースになっている。……つまりだ、それは」


「オチュウシャ〜」

「オチュウシャ〜」

「オチュウシャ〜」


 曲がり角からいくつもの声が聞こえると共に、通路を埋め尽くす程の《ナースアトラム》達が姿を現した。あまりの数に、全員の身体が硬直する。

「数の暴力も出来る、という訳だねぇ」



 同様に、琥珀と翡翠の元にも、


「コワクナイヨー」

「ニガクナイヨー」

「イタクナイヨー」


「うわっ……!?」

「ちょちょちょっ、多い多い多いぃぃぃ!?」


 《ドクターアトラム》の大群が、2人を挟み撃ちにする様に現れていた。



続く

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