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第18話 契約勧誘!? 風が誘う古き思い出

 

 苦しむ学生達が搬送された後、琥珀と警察官達が現場検証を行っていた。ここに駆けつけた警察官達はアトラムやフラグメントの事を知らないが、琥珀が付近に怪しい物が存在していないか調べるために協力して貰っているのだ。

「あの抜き取られ方……恐らくヴィトロガンに似た道具を使った筈。何か、手掛かりになるような物は……」

 先代からヴィトロガンの使い方を聞いた時の事を思い出す。間違った使い方、心の傷が深く根付いた状態で対象者から切り離せば、魂に傷がついてしまう。つまりそれを気にしなければ、無理矢理心の傷を引き剥がし、フラグメントを抜き取る事が出来る。

 ならばヴィトロガンを使える錬生術師の仕業と考えるのが打倒。琥珀の予想では光の錬生術師であるアンフィスの差金だ。

(だが奴の狙いは晶くんだ。ただフラグメントを抜き取る為だけにこれだけの騒ぎを起こす理由が……)


 その時、背後で何かが割れる音が響いた。誰かが何かを落として割ったのか。僅かに振り向いた。


「何だ……? 試験管……?」

「試験管!?」

 警察官の言葉に琥珀は声を上げる。何事かとその場にいた警察官が皆振り向いた瞬間、

「な、何だ何だ!? ば、化け物が!!」

 割れた試験管、そこから溢れ出た液体から大量の怪物達、強化バデックの群体が現れた。

 捜査時に一般人を退避させたが、未だ隣のホームには駅を利用している人々がいる。それに加え、強化バデック達は剣や槍を携えている。ただ組みつくしか能が無かった通常のバデックと脅威度は比べ物にならない。

「まだ隣のホームに市民がいるぞ! 絶対行かせるな!」

 一部の勇敢な警察官達が警棒で応戦しようとする。だがそんなことをさせる訳にはいかない。


「変身!!」


《ゲート カイホウ!!》


《土涛・クラッキング!! テラ・ファントム!!》


《ファントム・ノーム結合!!》


 駆け出そうとした警察官達の前に《ファントム》が立ち塞がり、振り下ろされる剣や槍を身体で受け止めた。

「き、黄山警部!?」

「貴方達は市民の避難誘導をお願いします! こいつらは僕が!」

「お、お願いします!!」

 警察官達がその場から退避した事を確認すると、《ファントム》は体当たりで強化バデックを複数体纏めて吹き飛ばした。剣や槍を叩きつけられた装甲には傷一つ付いていない。

「どうしてバデックが突然、それもアトラムがいない中で……!?」

 掴み掛かる個体を跳ね除け、振り下ろされる剣を拳でへし折り、持ち上げて投げ飛ばす事で一気に蹴散らす。しかし貧弱な通常バデックに比べ、軽く打ちのめされた程度では再び立ち上がって突進してくる。

「これは……面倒かも」

 斬りかかる強化バデックの一撃を腕で受け、弾くと同時に足を掴む。そのまま自身毎回転しながら周りの強化バデックを跳ね飛ばし、自動販売機へと投げ飛ばした。叩きつけられた強化バデックは、衝撃で自動販売機から吐き出された缶コーヒーと入れ替わりで消滅した。


「あれが現代の土の錬生術師か」

 《ファントム》が強化バデックを相手取る様を、アンフィスは駅ビルの屋上から見ていた。

「予想してはいたが、右眼はいないか。誘い出すにはこの程度の騒ぎでは足りない」

 このまま土の錬生術師から紋章を奪い取る事も一瞬考えた。しかし今は一度変身するだけで掛かる身体への負担が大きすぎる。連戦など論外で、一度変身した後は長いインターバルを必要としている。いざという時に変身出来る状態にしておかなければならない。

 右眼がいる時は必ず《リーパー》か《レイス》がいる事を考えれば、まずは右眼を取り戻す事を優先するべき。紋章を奪うのは本来の力を取り戻してからでも遅くはない。

「拾い物とはいえ、不便な身体だな」

 アンフィスは身を翻し、その場を去って行った。



「風の錬生術師の乱入たぁ予想してなかったが……」

 強化バデック達相手に大立ち回りを披露する《スピリット》から視線を逸らし、《モルオン》は《リーパー》へ目を向ける。

「こっちはこっちで始めるとするかぁ!」

 瞬間、一気に跳躍した《モルオン》が2本の尾と共に強襲。身体に鞭打ち、《リーパー》も応戦する。

 ヴィトロサイズを展開、双刃鎌の形態へ変え、まずは尾を迎撃。本体からの攻撃を蹴りで受けつつヴィトロサイズを払うが、《モルオン》も機敏な動きで回避、再び距離を取る。2本の尾と共に攻撃を仕掛け、距離を取る一撃離脱戦法。このままではいずれ押し切られてしまう。

「見りゃ分かると思うけどよぉ、当たったら終いだからなぁったぁ!?」

 蛇の様に這い回る《モルオン》の尾が、突如火花と共に大きく弾かれた。《リーパー》が弾いたのではない。

「当たんなきゃ意味ないけどなぁ!」

 《スピリット》が強化バデックを捌きながら、フラグメントマグナムによる2射で《モルオン》の尾を弾いたのだ。

「片手間でも援護なんて余裕なんだよなぁ!」

「てんめぇ……」

 わざとらしく《モルオン》の口調を誇張気味に真似て挑発する《スピリット》。視線が逸れた刹那を見逃さず、《リーパー》は《モルオン》へヴィトロサイズの刃を掛ける。

「だぁっ!? おいっ!」

「ふっ!」

 刃に炎を灯し、一気に振り抜いた。斜めに走る斬撃の軌跡と同じ焼け跡が《モルオン》の胴体に刻まれる。


《クローラリー・バジリスク!!》


《ローデッド コンプレッション!!》


 と、風向きが不自然に変わった事に《リーパー》が気づく。風が流れる方向を見ると、《スピリット》がフラグメントマグナムへ何かを装填していた。

 フラグメントマグナムの後部に装填されたのは、《リーパー》が盗まれた《クローラリー・バジリスク》のフラグメント・V。そして本体側部へ大気が吸引されていき、スライド部が何度も反復運動を繰り返す。

 両手で構えたフラグメントマグナムの射線上は、強化バデック、《モルオン》、そして《リーパー》が一直線に並んでいる。


「もう終いにしようやぁ、アトラム共ぉ!」

「……」


 未だ《モルオン》の物真似を続ける《スピリット》の指は既に引き金に掛かっている。《リーパー》は《スピリット》の凶行の理由が分からず硬直しかけたが、引き金が引かれた瞬間にある考えへ至る。

(間違っていたら、いよいよ彼女を理解出来ないが)

「発射ぁ!!」


《バジリスク!! コンプレッションブラスト!!》


 フラグメントマグナムから放たれる、暗緑色の毒霧を纏った大蛇の頭部。大きく避けた口が強化バデック達を呑み込みながら《リーパー》へ襲い掛かる。


《クリティカル リアクション!!》


 《リーパー》はフラグメントゲートを開閉。右足へ逆巻く炎を纏う。


《サラマンダー!! アルケミックブレイク!!》


 そのままバック転と同時にオーバーヘッドキック。間一髪《リーパー》には当たらず、大蛇は火炎を纏うと同時に一気に加速。《モルオン》へ衝突した。


「ぐっ、ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 大蛇を受け止めた《モルオン》だったが、大蛇の様子が急変。炎が見る見るうちに膨れ上がっていき、

「オガァァァァァァァァッッッ!!!?」

 大量の毒ガスを撒き散らしながら大爆発。毒ガスは拡散する前に炎で焼き尽くされ、更に2度目の爆発を巻き起こした。


「……ふぅ」

「イェーイ、さすが炎の錬生術師!」

 駆け寄ってきた《スピリット》がハイタッチしようと手を突き出す。それに《リーパー》は軽く手を合わせると、爆発の先を見る。

「……まぁ、ここまでかな」

 そこでは既にモルオンが変身を解いていた。息は多少上がっているものの、あれだけの攻撃を加えた割にまるでダメージがない。

「久々に発散出来て良かったよ。やっぱり錬生術師はいつの時代も厄介な存在だ」

「待て……っ!」

 そのまま去ろうとするモルオンを追おうとしたユナカだったが、全身に走った痛みで歩みが止まる。すると僅かにモルオンは振り返り、

「これからは、僕達やアトラムだけが敵だと思う視野の狭さを捨てた方がいいよ」

 とだけ言い残し、消えて行った。



「……これでよし。根本的な解決じゃないけど」

 静かに目を閉じ、眠りにつく少女。風の錬生術師が使ったフラグメントの効果により、深い眠りへ落とすことで心を安静にしたのだ。溢れ続ける魂の血を止める事は叶わないが、今はこうする事しか出来ないのが現実である。

 風の錬生術師は振り返ると、ユナカへ笑みを浮かべる。

「いやー、この前とさっきはごめんねユナカ先輩! 久しぶりに見たからテンションおかしくなっちゃって!」

「……どうして、俺の名を?」

「えー!? 私の事覚えてないのー!?」

 風の錬生術師が悲鳴に似た声を上げる。しかしユナカの記憶には、過去に風の錬生術師と出会った記憶が無い。

「はぁ、まぁユナカ先輩だしそんな事だろーなーとは思ってましたよー。てなわけで」

 風の錬生術師は懐からロングヘアウィッグを取り出し、頭に被る。そして目を快活な開き方から柔らかな開き方へ変え、ウィッグを結う。

「お久しぶり、です……ユナカ先輩……」

 姿と物静かな声を聞いた瞬間、ユナカはある記憶を掘り当てた。妹のほたるといつも一緒にいた少女の姿。明るいほたるとは対照的に物静かで礼儀正しかった少女の姿。


「君……翡翠ちゃん……?」

「ピンポーン大正解ー!! 草風くさかぜ翡翠ひすいでーす!!」


 ウィッグを投げ捨て、翡翠はユナカの肩を叩く。あまりにも雰囲気が異なっていた為、琥珀の時とは違い気づくのが遅れてしまった。

「い、いや、それよりも……どうして君が錬生術師に……」

「まぁまぁそりゃおいおい話しますって! そんな事よりも先輩、1つ相談がありましてぇ……」

 一歩距離を縮めると、先程の快活な目つきから一転。まるで物をねだるような上目遣いとなる。


「私と専属契約、結びませんか?」

「……?」


 ユナカの頭の中を、疑問符が隙間なく埋め尽くした。



続く

Next Fragment……


《マグネシウム・ケルベロス!!》

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