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第17話 風迅剛嵐!! 風の精霊が笑う

 

 変身とほぼ同時に駆け出した《リーパー》が上段蹴りを放つ。炎が揺らめく鋭い一撃を、《モルオン》は顔を逸らして回避。そのまま足を掴むが、これを《リーパー》はもう片方の足で《モルオン》の手を蹴り弾き、その勢いを利用して側転、横へ回り込む。

 続いて《モルオン》の腹を狙った中段蹴りを連打。対する《モルオン》は腕で防ぎ、爪での一撃で《リーパー》の胸部を捉え、大きく突き飛ばした。

「防御が雑だなぁ。それともそういうファイトスタイルなのか? セレスタとガーデルから聞いた話とは違うが」

「……」

 《リーパー》は答えず、代わりにヴィトロサイズを手元に出現させる。刃を折り畳んだ状態のまま、再び《モルオン》へ接近。

 《モルオン》の爪をヴィトロサイズで受けつつ、着実に身体へ蹴りを入れていく《リーパー》。

「やるなぁ、その調子でないと困るぜ」

 しかし《モルオン》は更なる手を繰り出す。腰に巻いていた蠍の尾が突如伸長、針が肥大化し、《リーパー》へ襲い掛かる。払われた針を間一髪躱すと、《リーパー》の背後にある木に傷を付ける。切り裂かれた幹は蒸気を上げて朽ちていく。

 猛毒が塗られた短剣の様な針が2つ、《リーパー》を執拗に追い回す。

「尻尾ばかりに気ぃ取られんなよ!」

「ッ!」

 それだけではない。《モルオン》自身の攻撃をくぐり抜けながら凶刃を避けねばならない。

 毒針をヴィトロサイズで弾いた瞬間、《モルオン》のドロップキックが直撃。

「隙だらけぇ!!」

「うぁっ!」

 木に叩きつけられるが、休む間もなく毒針が襲来。《リーパー》が転がる様に逃れると、《モルオン》が大きく振り上げた拳を振り下ろした。

「コイツで終わぁっ!?」

 だが同時に、《リーパー》はヴィトロサイズを折り畳んだ状態で高速回転させ、《モルオン》の胸部へ押し当てた。

 《モルオン》から火花が散ると同時に、頭へ拳を叩きつけられる《リーパー》。両者は大きく仰け反り、同じタイミングで膝をついた。


「第一ラウンド終了って所か……休憩には丁度いい」

「……人間の魂が傷ついたら、アトラムはもう寄生出来ない。お前達にとってもメリットなんか無い筈。一体何が目的なんだ」

「休憩中の雑談ってか。だが悪いなぁ、今のオレじゃそういう細かい話は頭が回らなくて出来やしねぇ。だからよぉ」

 《モルオン》は懐から何かを取り出した。それは4本のフラグメント・V。しかし《リーパー》が見慣れないものだった。

 無装飾の黒いキャップに、中で揺らめく白色の液体。言い知れぬ不吉な予感を醸し出している。

「実践するしかないなぁ!」

 《モルオン》は2本を駅の方角へ、残りの2本を目の前へ投げ捨てた。途端にフラグメント・Vは砕け散る。


 すると、フラグメント・Vが落ちた場所から大量のバデック達が湧き出てきたのだ。それも《リーパー》が知るバデックとは姿が少し異なっている。

 白面にはヒビのような模様が浮かび、素手ではなく剣や槍などの武器を持った個体まで散見する。


「コイツらは……!?」

「アトラム無しでも出せる様になったバデック、強化バデックとでも呼ぶか? あくまでオマケ程度の存在だが」

 《リーパー》が感じた違和感は強化バデックの姿形だけではない。本来アトラムが暴れる事により生じた心の傷から生まれるのがバデック。つまり今の様に突然現れる事自体がイレギュラーなのだ。

「不思議だろ? オレも今はよく分からんが、態々説明する為に変身を解くのも馬鹿らしい。って訳で、だ」

 《モルオン》は立ち上がると、首を鳴らしながら強化バデック達と共に《リーパー》へと迫る。

「第二ラウンドはコイツらも一緒に相手してもらうぜぇ。ここでお前を倒せば説明しなくて済むしなぁ?」

「っ、これは……」

 《リーパー》も立ち上がろうとするが、足元がふらつく。先程のダメージだけではない。《アンフィス》との戦闘で負った治りかけの傷の一部が開いたのだ。

(まだ、完治していない……!?)


── 無駄に動き回っている君の方が回復が遅れているまである ──


(適当な事言っていた訳じゃ、なかったか……)

 相棒が言っていた事を思い出しつつ、ヴィトロサイズを構えた時だった。


 空から突然降り注ぐ弾丸の嵐。それらは一瞬の内に強化バデック達を貫き、半分を爆散させたのだ。

「今のは!?」

「おいおいおいおい! たかがバデックとはいえ一瞬で爆散だぁ!?」

 《リーパー》と《モルオン》、両者が驚く中、割って入る1つの影。


「ピンチに颯爽と現れる!」


 風に靡く空色のマフラー。フライトジャケットの隙間から覗くTシャツに刻まれた《Flight》の文字。


「街を駆ける仕事人!」

「……何だ、お前」

 《モルオン》が冷めた声で問うが、少女はまるで相手にしない。

「数多の継承を経て、我が代にて……あ〜っと、あれ、何代目だっけ? まぁいいや、うん代目!」


 若草色のショートヘアと、それを止める空色のヘアピンが輝く。それに呼応する様に、翠色の瞳に紋章が鮮明に浮かび上がる。


「炎の錬生術師に加勢するは、風の錬生術師!」


《スピリット・フラグメント》


《ヴェントスシルフィーネ・フラグメント》


 少女は懐から取り出した2本のフラグメント・Vを天高く放り投げると、右手に出現させたフラグメントゲートで受け止める様に同時装填。悪戯に笑う精霊のフラグメントと、風を纏う妖精のフラグメントが共鳴する。


《リアクション!!》


 精霊と妖精が巨大な石門へ身を投じると、吹き荒ぶ翠色の風を纏う。《リーパー》の炎が激しく揺らめき、《モルオン》の鬣が激しく棚引く。

 自身のスカートが煽られ、中のショートパンツが露わになるのも気にせず、少女は八重歯を見せて笑って見せた。


「変身!」

 装置を展開し、そのまま身体を後方へ一回転。美しい軌跡を描く左サマーソルトキックで門を開いた。


《ゲート カイホウ!!》


《風迅・ストーム!! ヴェントス・スピリット!!》


《スピリット・シルフィーネ理論!!》


 稲妻を纏う竜巻の中から現れたのは、《リーパー》と一線交えた風の錬生術師。あの時とは違う、少女の溌剌で鮮明な声が響き渡った。


「炎の錬生術師、お小遣いくれた分の仕事はこれでチャラね!」


《錬生剛銃 フラグメント・マグナム!!》


 ヴィトロガンと同時に出現させた大型銃を回転させながら、《スピリット》は一礼。

 それを見た《モルオン》は、指先を彼女へ向ける。

「行け」

 号令と同時に《スピリット》へ殺到する強化バデック。《スピリット》は殺到する彼等へ、まるで浮き上がる様に跳躍。

 強化バデック達を足場の様に跳び移りながら中心へと移動。そして一際高く跳び上がり、天地逆転の姿勢で2丁の銃を連射した。

 無色と翠色のエネルギー弾は強化バデックの身体の中心へ着弾。数体が炸裂したが、未だ多数残る強化バデック達が着地した《スピリット》へ襲い掛かる。

「あっははは! モテる人間は辛いや!」

 《スピリット》は笑いながらヴィトロガンとフラグメントマグナムを嵐の如く乱射し、近づく事を許さない。

「フラグメント1本分の働きは、しっかりやらないと!」


 嵐の如く唐突に現れて暴れ回る《スピリット》に対し、《リーパー》は小さく溜息を吐いた。


「あのフラグメントは前金……だったのか」



続く

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