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第12話 幽霊恐慌!? 幻惑のゴーストハウス

 

「ァ、ァ」

 自らの首を掴もうと迫る腕を、ユナカは逆に掴み返す。ゆっくり振り向き、視界に入った姿は、

「ァ、ァ、ァ」

 歪んだ輪郭の顔で叫びを上げる純白の顔面。そこから直接2本の腕が飛び出し、下は生気のない枯れ枝の様な四肢がぶら下がっている。

「アトラム……宿主は」

 変わらず狂った様に笑う一狼の両親には首輪がない。つまりそれは一狼が宿主である事を表していた。

「だが一体、何が原因で……?」

「ァ、ァ」

「くっ!」

 アトラムがユナカの腕を掴もうとした事を察し、咄嗟に蹴りを入れた。吹き飛ばす事には成功したが、アトラムは壁の中に吸い込まれる様にして消える。

「特性が読めない以上、名前が分からないな」

 あの作り物じみた質感は人形の様にも見えるが、一狼が人形に対し何のトラウマがあるのかユナカは知らない。トラウマの原因が分からないのであれば、本当の意味でアトラムを倒すことは出来ないだろう。

「それよりも先に灰簾さんが何処に行ったのか探さないと……っ!」

 と、外に先程のアトラムの気配を感じ取ったユナカはリビングを飛び出そうとする。が、今度は一瞬の内に2階の廊下へ転移してしまう。

「またあのアトラムの力か! こう好き勝手にされたらいつまで経っても……」

『んんんんんんんんんぅぅぅぅぅぅむぅぉぉぉ』

 奇妙な唸り声が響く方向へ目をやる。すると、トイレの扉にあのアトラムが張り付き、何度も叩いてはドアノブを回している。

「見つけた!」

「んんんんんんんん」

「ぬぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 直後、ドアを蹴り開けた灰簾が飛び出してきた。ヴィトロスタッフを右手に、ヴィトロガンを左手に持ち、それらを振り回しながら。

「か、灰簾さ ──」

「なぁにが幽霊だぁぁぁ!! 悪霊退散んんん!!」

「んんんんぅぅぅ!?」

 あまりの気迫に、ユナカとアトラムは揃って気圧される。そして偶然にも同じ方向へ逃げ出した。

「待てぇぇぇ!! 2人まとめて成仏させてやるぅぅぅ!!」

 どうやらパニックになっているのか、灰簾はユナカの事も幽霊と誤認しているらしい。ユナカは無言ではあったが、持てる力全てを振り絞って彼女から逃げる。出なければアトラム諸共葬られてしまう。


 とうとうアトラムが観念したのか、闇の迷路を解いて玄関へ転移。外へ転がり出る様に3人が飛び出した。


「おりゃあああまずは1人目!!」

「灰簾さん俺です、ユナカです」

「あ、ぇ……あ、ユ、ユナカくん!?」

 今にも振り下ろされそうになっていたヴィトロスタッフが、ユナカの制止により頭の真上で止まった。数秒の沈黙の後、我に帰った灰簾は照れ臭そうにヴィトロスタッフを背に隠す。

「あっ、と……こ、これは、ね……」

「はい、訳は後で聞きます。なので今は」

 ユナカが指差した先、そこには命からがら逃げ果せたアトラムがゆっくりと起き上がっていた。そして、

「ァ、ァ」

「んんんんん〜」

 もう1体、恐らくユナカが取り逃したであろうアトラムが合流。最初から2体が寄生していたのだ。

「1人の人間に2体のアトラムが付くなんて事、あり得るんですか?」

「いや、基本的には無いと思う。でも現に目の前に2体いるから、説得力はないけど……」

 だがその答えはすぐに分かる事となる。


 2体のアトラムが背中合わせの様にくっつくと、枯れ枝の様な四肢が絡み合い、芯を形成。そこへ薄汚れた白い布が巻き付き、結び合って新たな手足となる。くっつき合った2つの顔面の中心が割れ、隙間から恐ろしい新たな顔が現れた。

 剥き出しの歯茎と赤い白眼を剥く、長髪の女。ユナカと灰簾は知る由もないが、晶の右眼の力で消し去られたあの幽霊と瓜二つだった。


「んァ、んァァァ」

「何なんだ……一体このアトラムは、一狼くんの何を元に生まれたんだ……?」

「それを考えるのは、炎の錬生術師に任せましょう。……この場にいないけど、彼女だって錬生術師なんだから」

「分かりました」

 唸り声をあげながらゆっくりと迫るアトラムを前に、2人はフラグメントゲートを出現させる。


《リーパー・フラグメント!!》

《レイス・フラグメント》


《イグニスサラマンダー・フラグメント!!》

《アクアウンディーネ・フラグメント》



《《リアクション!!》》


 並び立つ、燃え盛る石門と荒れ狂う激流の石門。

「変身!」

「変身」

 ユナカはそれを蹴り開け、灰簾はそれを押し開ける。


《《ゲート カイホウ!!》》


《炎舞・バースト!! イグニス・リーパー!!》

《水渦・カタラクト!! アクアレイス!!》



《リーパー・サラマンダーの法則!!》

《レイス・ウンディーネの方程式》


 《リーパー》と《レイス》が並び立つ。

 まずは《リーパー》が先制で飛び出し、アトラムへ踵落としを見舞う。が、

「んふぅ」

 脳天を砕く寸前、アトラムは2つに分離。女の顔の半分を背負った仮面のアトラムとなり、一方は《リーパー》へ、一方は《レイス》へ襲い掛かる。

「んふんふんふ」

 陶器の様な腕を振り回してくるが、《リーパー》はその全てを足技で叩き落とし、仮面目掛けて回し蹴りを放つ。

 しかし仮面の首が突如、生々しい鈍音を立てながら首を直角に真横へ曲がったのだ。回し蹴りを避け、反撃に振るわれる腕の一撃が《リーパー》を打ちのめす。

「こいつ、動きが……!」

 前蹴りや延髄斬りを放つも、身体の関節を無視した動きによって全て回避されてしまう。


《錬成大鎌 ヴィトロサイズ!!》

《ラージサイズ!》


 《リーパー》は一度跳び退いて距離を取り、ヴィトロサイズを双刃鎌の形態へ変えて再び突進。刃の斬り下ろしに足技を加えた変則的な連撃を繰り出す。

「んふ、んふ……んふぅ!?」

 最初こそ躱していたアトラムだったが、遂にヴィトロサイズの刃先が肩を捕らえた。すかさず引き寄せると、《リーパー》は顔面へ跳び蹴りを叩き込む。

 マグカップが割れる様な高い破砕音、アトラムの仮面が崩れ、中から腐った死霊の様な顔が現れる。

「んふ、んふ!」

「怒ってる……のか?」

 今まで相対したアトラムはほとんど饒舌だった為、《リーパー》も戸惑いを隠せないでいた。


 そして、

「んふんふ」

「この……!」

 もう一方と戦う《レイス》は苦戦していた。水弾を生成するにはアトラムとの距離が近すぎる所為で時間がなく、ヴィトロスタッフでの近接戦を強いられる為だ。

 《レイス》の能力も、灰簾の戦法も、近接格闘を用いた戦い方には向いていない。その上、

「んふぅ」

「っ、ぅ、背中の顔ばかり見せつけて、ぁっ!?」

 事あるごとに背中の顔を見せつけ、《レイス》を怯ませる。明らかにアトラムは《レイス》のもう一つの弱点を理解している。その隙をついて一撃を喰らわせるのだ。

「でも、ユナカくんからフラグメントを借りるにしても……」

 カーボンゴーレムは今の状況では意味が無い。かと言って、フェルムアルミラージの特性は《レイス》とは噛み合わないだろう。


 と、その時だった。


 突然2階の窓から、何かが放り出された。それを反射的に《レイス》は掴み取る。

「ぁ、ぇ? これは……」

 見覚えがある。これは以前、琥珀がザクロへ預けたフラグメント・Vの内の1本。銀色のスライムを象ったものだ。

 十中八九これを投げ渡したのはザクロだろうが、何故彼女はこれをユナカではなく、自身へ渡したのか。

「っ、考えてる場合じゃ、ない!」

 振り回されるアトラムの腕を回避。転がりながらフラグメントゲートの側部へ、フラグメント・Vを装填した。


《ヒュドラギュルム・スライム!!》


 そのまま回転させた。


《ナイスリアクション!!》


 飛び出したのは、銀色の液体。沸き立つ金属、それはやがて半球状に盛り上がる。液体状の金属、水銀の特性を持つ不定形生物、スライムだ。


《ヒュドラギュルム・スライム!! リスクリターンが時を経て増殖する!!》


 スライムは形を流動させ、《レイス》の左肩、左足へ纏わりつく。その姿を、左肩を包む銀のマント、腰から左足を守るローブへと変えた。

「ただこれ、どうやって使えば……」

「んふー!」

「ちょっ!?」

 背中を向けたままこちらへ迫り来るアトラムへ、思わず《レイス》は左手を払った。

 刹那、マントは鋭くしなる鞭へ変化。アトラムを打ちのめした。

「んふぉ!?」

「え……な、なるほど」



「ふふ、間抜けな面はあるが流石水の錬生術師。すぐに使い方を理解するとは」

 2階から戦いの様子を見守っていたザクロは小さく笑った。



続く

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