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第0話 運命邂逅!! 失ったあの日から

 

 今、1人の青年が大切なものを失った。



 降りしきる雨の中で、たった1人だけの大切な家族が目の前から消えた。自分の命に変えても守り抜く。死に別れた両親の墓前で立てた誓いは、呆気なく破られる事となってしまった。

 何故消えてしまったのか。何故家族が消えなくてはならなかったのか。いくら考えようとしても、雨の音が全てを洗い流す。

 人間、全てを失うと涙すら出なくなるらしい。濡れたアスファルトを、爪が割れるのも構わず握りしめる。

 ふと、流れ出た自分の血の行き先を目で追う。何故か雨に溶ける事なく、一筋の川のように何処かへ流れていく。

 行き着く先に目を向けたとき、青年は異様な光景を目の当たりにする。


 炎が見えた。こんな大雨の中、煌々と燃える炎が青年を照らしていた。

 更に炎は流れ込んだ血を糧に勢いを増していく。やがて青年の周りを取り囲んだ。


 普通の精神状態だったなら、慌てふためき、その場から逃げ出しただろう。だが今は焼かれて消える事すら救いに感じる。

「……ぁぁ、そうだな。約束したもんな。絶対、1人にしないって」

 消えてしまったのなら、自分も消えればいい。そうすれば約束は破られない。歩く事すら出来ない中、青年は静かに炎を迎え入れようとした。


「その手に、取り戻したいものはあるかい?」


「……ぇ」

 幻聴かと思った。炎が自分に語りかけるなんて事象に遭遇すれば流石に我に帰る。だがすぐに、炎が喋り出したわけでも、幻聴が聞こえたわけでもないと気づく。

 視線の先に少女が立っていた。その髪は赤と黄金が入り混じった、まさしく炎の様な長い髪。自身を見つめる純銀の瞳が雨の中でも分かるほどに輝いている。

「ここで全てを諦める事も選択肢としてはある。でも、君は本当にそれを望んでいるのかい?」

 少女の言葉に青年は答えを返せない。言葉による問答が彼女に対して意味をなさない事を、心で理解していたからだ。


「君は今、扉の前に立っていると思いたまえ。開けたが最後、君は後悔する程の長い時間をかけて、見つかるかも分からない大切なものを探す道を歩む事になる。ここで引き返せば、一生消えない心の傷を抱えたまま人間としての一生を自由に生きられる。どちらが幸せかで選ぶんじゃない。君が望む形を選ぶんだ」


 訳が分からない。しかし何故か青年は立ち上がっていた。指から滴り落ちる血が、道標の様に少女の元へ流れていく。

「そしてもう一つ、扉を開く為には君のフラグメントを抜き取らせてもらう。失敗すれば君の心は死ぬ事になるが、なに、心配はいらない。君が負った傷は大きすぎてミスするほうが難しいからね。それに」

 何やら訳の分からない事を捲し立てるが、それを訪ねる余裕は青年にはない。黙って少女の言うことに耳を傾ける。

「このままだと君、失ったものを追って消えることしか頭に無くなるだろうし」

 この場で出会ったばかりの彼女に何故そんなことが言えようか。だがしかし、図星だった。つい先ほどまで炎に飲まれて消えることを望んでいたのだから。


「さぁ、どちらに進もうが君の自由。でも私が君に手を差し伸べた意味と、君の行く末。少し考えれば実質一択だろうがね」


 不遜かつ横柄な物言い。差し出された条件に一切の信憑性と現実味が無く、見返りも不明な取引内容。どんなに世間知らずな人間であろうとこんな誘いに乗る筈がない。そんなことは青年にも分かっていた。

 しかし、

「…………」

 青年から差し出された手を見ると、少女の口元が小さく笑った。

「契約成立。あぁ、自己紹介はいらないよ。私も、君も、この契約を結んだ瞬間に運命共同体になる。その時に大体の素性は共有されるからね」


 少女は腰に巻いたベルトの側部から何かを取り出す。真っ先に思い浮かんだのはSFアニメでよく見る近未来の銃。本体から銃口にかけて紅いラインが伸び、撃鉄の代わりにガラス管のようなものが付いている。ガラス管の中は透明な液体で満たされており、周りの炎を映し出す。

 ゆっくり近づき、首元に銃口が突きつけられる。熱さと冷たさ。共存する事は有り得ない2つの感覚が伝わる。

「じゃあ改めて……ようこそ」

 差し出された手が握られ、少女とまた目が合った。先程まではなかった、銀の瞳に刻まれた陣を見た瞬間、



「錬生術師の運命へ」



 炸裂音と共に、青年の意識は赤に包まれた。




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