現世最後の日
真夏の19時頃、帰宅ラッシュの電車を降りた。
実に5日ぶりの帰宅だ。
某有名T大卒業、そのまま業界最大手の企業に入社したものの、この有り様。
泊まり込みで仕事を続けて、精魂尽き果てたとはこれを言うのだろう。
朦朧とした頭のまま、コンビニでビールとつまみを買って帰る。
もはや懐かしい我が城は、おんぼろアパートの一室だ。
帰って缶を飲み干しながら、やり込んでいるスマホゲームを始める。
「星月夜にキミと出逢う ー貴女だけのオオカミを捕まえてー」
ゴテゴテのタイトルだが、一世を風靡した人気乙女ゲームだ。
俺がホシキミを周回する理由はただ一つ。
悪役令嬢のミラティーナ、この子の笑顔が見たい。
ヒロインは王道の貧乏庶民、デフォルトネームはアリス、彼女は特殊能力が芽生えて王侯貴族と同じ学園に入学する。
そこでイケメン達の好感度を上げて、卒業後のウエディングフィナーレを迎えるのだ。
全ルートを邪魔するのが、悪役令嬢ミラティーナ。
公爵家のお嬢様であり、とにかく悪辣な手段でアリサの邪魔をする。
ある時は帰途を暴徒に襲わせた挙句衆目に晒そうとし、またある時は学園全体を唆して強制退学させ、そしてある時は暗殺者によりヒロイン一家皆殺しを企む…
そんなミラティーナだが、俺は一目惚れしてしまったのだ。
初登場の美麗イラストが元凶だ。
貴族らしいプラチナブランドの縦ロール、目尻は涼やかなのに零れ落ちそうに潤んだルビーアイ、皮肉そうに片方だけ上がった唇、財力のままに豪奢なドレス、全てが俺の目を奪った。
ミラティーナの笑顔が見たい。
満開の笑顔も、微笑んだ顔も、彼女の嬉しそうな顔や、楽しい顔が見たい。
だが12周目にして、死刑、流刑からの死、溺死、圧死、全ルート死。
見られる笑顔は、あの皮肉さがキュートな笑みだけ。
今回も、ヒロインは幸せに、ミラティーナは死なせてしまった。
いざ、13周目。
姿勢を直して、景気付けにもう一缶開けて一気、よしやってやる!
今度こそ、俺のお姫様ミラティーナを救うんだ。
視界が、暗転した。
指が、動かない。
スマホを、触れない。
ミラティーナを救わなきゃ