驚愕
俺は眼前の状況を理解するのに数秒かかり、我に返って菜央に駆け寄った。
「おい!大丈夫か?どうしたんだ? 」
大声で叫ぶが、返事はない。急いで脈拍と呼吸を確認する。
「よかった。意識はある。とりあえず救急車だ」
急いで携帯を取り出し、119番にコールする。冷静に状況を説明するが、手は震え鼓動も速くなっていく。目の前で人が倒れるなんて初めての経験だった。最悪の状況を想像し、気が気でない。
10分くらい経っただろうか。ようやく救急車が到着した。救急隊員に色々聞かれ、同行を求められたので承諾した。10分程で病院についたが、もっと長い間救急車の中にいた気がする。それ程までに事態は深刻で、場の空気は緊迫していた。
「お連れの方は待合室でお待ちください」
救急隊員にそう言われ、俺は待合室に向かった。
30分くらい経っただろうか、まだ俺の頭は混乱していた。あんなに元気そうだったのに、どうして突然。元々病気だったのか?もしかして、俺を追ってきたせいで悪化したのか?色々な考えが頭を巡っている。思考の迷路から抜け出せない。
ブーッブーッ
携帯がなった。携帯を見ると美依と薫から大量の着信とメッセージの履歴が入っていた。美依からすぐ連絡するようにとメッセージが来ていた。
「今それどころじゃないんだよ」
そう呟きつつ、美依に折り返しの電話を入れる。
「もしもし」
「あんた何してるの?勝手に出てって、菜央も追いかけて行ったけど会った?それに今どこにいるの? 」
「会ったよ。今病院にいる」
「病院?どういうこと?もしかして……菜央になにかあったの? 」
美依がひどく狼狽している。
「ああ、俺の目の前で倒れたよ」
「病院、どこ? 」
俺が病院の場所を伝えると美依はすぐに行くと言って電話を切った。
20分程して、美依が病院に到着した。美依は俺の横に座り、暫く沈黙を保った。俺は色々と気になっていることを美依に聞いた。
「なあ、あいつ元々病気だったのか?お前知ってたの? 」
暫く下を向いたままだった美依が重い口を開いた。
「うん。癌なんだって。気づいた時にはもう遅かったらしい。余命一年って宣告されたそうだよ」
「癌……?余命一年?なんだよそれ。訳わかんねえ」
その後ずっと会話はなく、ただ時間がすぎるのを待っていた。俺はあの時菜央が言った言葉をハッキリと思い出し、菜央の表情の意味を理解した。
「私はもう生きられないのに」
確かにあの時、菜央はそう言ったんだ。