性犯罪者の物語10
結局、13人もの大所帯となったサトシ一行。
老紳士と父親とアベックの男は、
それぞれ食料をパンパンに詰めたバッグを
2つづつ背負っている。
そして、
老婦人と母親とアベックの女と子供3人
この新しく合流した9人を、
サトシとルミと先生とゴンさんの4人が
護衛している形だ
そう、
なんとルミは”剣スコップ”で武装していた
「よし、このセダンのボンネットを乗り越えて
向こうへ渡ろう。
俺が最初に行くから、課長は殿を頼む、
チーフ(先生)とルミちゃんは
避難者たちを守ってくれ」
サトシはそう言って、玉突き車列の中の、
トラックに追突しているセダンのほうへ向かい、
そのボンネットを乗り越えた
目の前は、静まり返っていた
ここはまだ日本で有数の大都市圏なのだが、
いかにもな郊外と言った感じだ。
広い駐車場を持つ店舗、低層アパート、
生垣を持つ民家などが、
程良い郊外感を醸し出している
サトシに続いてルミがやってきた。
片手に剣スコップを持ち、
もう片手でスマホを確認しながらルミが言った
「ラインの連絡が来ました!
トラックは、もうすぐ着くみたいですよ」
片手に拳銃を持ったサトシが答える
「それまでの間、ゾンビどもが
来なければいいが.....」
しかし、背後から
炭酸ガス銃の発射音が聞こえた
サトシが振り向くと、セダンを乗り越えて
こちらにやってくる避難者たちが見える。
その向こうに、殿のゴンさんが居て
ガス銃を発砲しているのだろう
すると、先生の姿が見えた
「係長、ルミさん、目の前!
2体やってきたぞ!!」
先生はセダンのボンネットの上に乗って
前方を指さしている
サトシは再び前を向いた。
風に乗って流れて来る、かすかな腐敗臭....
そして、無言でこちらにやってくる2体の
ゾンビが見える
9人の避難者たちは、
悲鳴を上げてパニックになった
「クソっ、だから武器くらいは持ってろって!
腰抜けどもが」
サトシは毒づきながら、
リボルバーのハンマーを親指で起して
ズンズンと前に進んでいった。
バールのようなものを持った先生と、
剣スコップを持ったルミが、サトシに続く
ルミの声が聞こえる
「今更ですが、この拳銃って本物ですか?」
サトシはリボルバーを両手で構え、
向かってくる1体に狙いを付けて言った
「オモチャに見えるかね?
よしんばオモチャだとして、
それを今ここで使うと思う?
しからずんばそうであろう」
「す...すみません」
9人の避難者たちは、
サトシとルミと先生の後ろで団子のように
固まり、なすすべもなく震えている
「言っておくけど、俺だって怖いんだからな!
いくらニーチェ的超人モードでも、
俺はお前らと同じ単なる人間だ」
迫ってくる2体のゾンビは
人間の形はしているものの、
もはや人間には見えない
2体とも同じ職場の同僚だったのか?
灰色のジャケットに濃紺のズボンという、
お揃いの恰好をした中年男だ
顔面は血まみれで、見開いたままの両目は渇き、
瞳は濁っていた
....そして、無言のまま
ひたすらこちらに向かってくる
サトシは、焦って発砲してしまった
ズダンッ!
「ひゃっ!」
避難者たちの中から、小さな悲鳴が上がる。
しかし、弾は先頭の中年ゾンビの頭を掠り、
2体はどんどん距離を詰めてくる
「俺は銃を撃ち慣れてるわけじゃない!
もっと引き寄せないと当たらねえだろバカ」
自分に言い聞かせながら再びハンマーを起こす
ズダンッ!
距離が5メートルを切ったところで頭部に命中、
先頭のゾンビが前のめりに倒れる。
しかし、後続のもう一体が、すぐそこに
迫ってくる
”あと一発しかない”
そして、再びリボルバーのハンマーを
起した時には、
すでにゾンビは目と鼻の先だった
「えええええええいっ!!!」
唐突に、甲高い叫び声が聞こえた。
そして、サトシの横を通り過ぎる剣スコップ
ズザッ!
それは、ゾンビの胸に突き刺さった。
即座に、バールのようなものが追従する
サトシはハッとした
ルミが放った剣スコップの突きと、
先生の放ったバールのようなものの突きが、
ゾンビの前進を止めている
サトシは、引き金を引いた
ズダンッ!
ニューナンブM60の最後の一発が、
至近距離からゾンビの頭部に撃ち込まれた
心臓がクソバクバク言っている....
「ルミちゃん、それとチーフ(先生)、
助かった.....ありがとう」
倒れて動かない2体のゾンビから目を離し、
横を向くサトシ。
先端が赤くなった剣スコップを突き出したまま
ルミは固まっていた
「おっかねえぜ、つい数時間前まで
雑魚チンピラに襲われそうだったのにな!
ルミちゃん、今の君は、
とんでもなく強そうに見えるよ」
ピンク色のコートを着たポニーテールの娘は、
剣スコップを突き出したまま
サトシのほうを向いた
そして言った
「い、いえ....その、
絶対に、仲間を死なせたく無いって思いが、
自分でも驚くほど強く感じて
いや、当たり前のことをしたまでですから」
サトシは、ルミと、続いて先生のほうを見て
微笑んで言った
「死か....ああ、もしもゾンビに取り付かれて
噛まれたり引っ掻かれたりしたら、
俺も連中の仲間入りだったろう。
アレは確実に死人だ。
何かが、死体を乗っ取って
変貌させているように感じる
俺も、絶対に仲間を死なせたくない!」
そして、サトシは後ろを振り向くと、
”おしくらまんじゅう”のようになっている
避難者たちを鋭く一瞥した
さらにその背後、
追突車両のセダンのボンネットを乗り越えて、
ゴンさんが姿を現した
背中に炭酸ガスのボンベを背負い、手には
ガス銃を持っているが、
ゴンさんはジェスチャーで”弾切れ”を伝えた
そして、ガスボンベとガス銃を地面に置くと、
ポケットからサトシと同じ拳銃を取り出す
サトシが言った
「ガス銃も弾切れで、俺達の有効な武器は
課長の拳銃だけか...
残弾は、確か3発だったか」
ルミが、避難者たちの中のアベック男に
何やら言った。
アベック男は、アベック女に食料のバッグを
渡して背負わせた。
そして、ゴンさんの元にそそくさと走り、
ガスボンベとガス銃を拾った
「あっ、トラックが来たぞ!!」
先生の声に振り向くと、
4トンほどのトラックがこちらに向かってくる。
辺りには、倒した2体のゾンビのものだと
思われる腐敗臭が漂っている
トラックのエンジン音と、腐敗臭のせいで、
誰も気が付かなかった
追突車の下を這って進む、一体のゾンビの存在に




