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性犯罪者の物語6

バックヤードから出てきたルミは、ガタガタと

震えていた



「何でも、何でもしますから、命だけは...」



サトシは、ナイフの柄から手を離した。

現れた女店員のほうへと顔を向ける


まだそばかすの跡が残る若い女だ。

綺麗に切り揃えた前髪、

首の後ろに少し広がる髪から察するに

ポニーテールなのだろう


服装は、白いシャツに黒い蝶ネクタイ、

腰エプロンを付けて黒のスラックスだ


背後から、先生の声が聞こえる



「こんな危険な刃物で襲ってきたんだ!

 冷静に対処できるわけがない。

 揉み合いになっている内に

 刺してしまったんだ!」



横を向くと、

ゴンさんが旧眼鏡とデブの二人の首根っこを

押さえつけている


サトシは、息絶えた金髪の身体に馬乗りに

なっていたが立ち上がった


そして、小さくため息をついてから言った



「まあ君、落ち着いてくれ....

 ああ、無理だろうね。

 うん、俺達は勝手に侵入したあげくに

 こんなことになって。


 でも信じて欲しい、

 俺達は君に危害を加えるつもりは無いよ。

 外の襲撃者から必死に逃げていて、

 電柱を登って2階のベランダから侵入した」



女店員は、ドア枠に掴まるような恰好で

少し怯えていたが頷いた。

サトシは微笑むと、続けて言った



「ええっと、俺達はつい先日、東京から来た。

 会社の同僚同士でね、ここへは出張で来た


 3人とも坊主頭なのは

 ちょっとした理由があって。

 それは、おいおい話すとして....


 この男が刃物を持って向かってきたから

 仕方なくこうなってしまったんだ、

 分かってくれ」



女店員は、少し落ち着きを取り戻したみたいだ。

ウンウンと小刻みに頷きながら言った



「あ、ああ、いえ、

 この男に刃物を向けられて

 乱暴されそうになって、本当に怖かった。

 助けて頂いて、ありがとうございます」

 


サトシは、自分の外見は

非常にノーマルだという自信があった。

先生も、危険な人間には見えないし、

ゴンさんも、熊のような体格ながら

物静かな雰囲気だ


外見では、

床に倒れている3人のチンピラよりは

はるかにマシだと思われる


....坊主頭だけど


女店員は言った



「あの、私、間宮留美まみやるみと申します。

 それで、この男のポケットに私のスマホが

 入っていて。

 取り戻してもよろしいでしょうか?」



サトシは屈みこむと、

息絶えた金髪のポケットから

スマホを取り出してあげた。

ルミのほうに、そのスマホを差し出しながら

言った



「もちろんだ、

 もしも連絡を取りたい相手が居るなら、

 するといい。

 今の状態をありのままに伝えて構わないよ


 あ、申し遅れたが、俺の名は...」



サトシは、当然、偽名を名乗った。

先生とゴンさんも同じく偽名で自己紹介する


スマホを返してもらってルミは安心したようだ



「ありがとうございます。

 実は、兄夫婦が大勢の人と、 

 とある場所に立て籠もっていて


 そこに行こうと思うんですけど」



サトシが言った



「そうか、うん、君がそのつもりなら

 俺達も手助けしたい。

 勝手に押し入っておいてなんだけど、

 命を助けられた恩を返したいのと、

 自分達も生き残りたいからね


 君のお兄さん達が居る場所がここよりも

 安全なら、

 皆でそこに避難することを考えよう。

 いずれは、この事態に対して

 国が何らかの行動を起こすだろうから、

 それまで生き延びるんだ」



ルミの表情が変わった。

どこか、驚いたような感じだ



「あの....何というか、皆さん冷静なんですね

 

 私、ちょっと心強いです。

 是非、今後ともよろしくお願いします」



サトシはニヤリと笑みを作って言った



「ロスでは日常茶飯事だぜ!って言葉、

 知っているかい?」



//////////////////////////////////////



サトシとゴンさんは、2階のベランダに居た


割れた眼鏡を掛けたチンピラと

下腹から出血しているデブが、死んだ金髪を

運んでいる


サトシが、バールのようなもので思いっきり

殴った眼鏡は、フラフラしている


サトシが言った



「よし、死体を投げ捨てろ」



デブは涙ぐんでいた



「ああ、レオト....なんでこんな事に」



眼下では、襲撃者たちがこちらを見上げている。

どうやら、サトシたちのように器用にここまで

登って来ることは出来ないみたいだ


サトシは、ゴンさんに言った



「さっき、先生が英語のサイトを見たところ、

 襲撃者は頭部を破壊したら倒せるらしい


 あちらでは、早くも

 この騒動を”ゾンビパンデミック”と

 呼称しているらしいが....」



信じがたいことだが、確かに、眼下の襲撃者は

改めて見ると”ゾンビ”に見えるのだ


サトシは、涙ぐんでいるデブを

ケイバーナイフで小突いた



「ほら、さっさと粗大ゴミを捨てろよデブ」



眼鏡は、「あー、うー」とうめき声を

上げていて、半ば意識朦朧だ。

デブは、なんとか一人で金髪を投げ捨てた


ベランダから投げた死体は頭から着地して、

地面におぞましい血だまりを作った。

しかし、ゾンビたちは無関心だ


サトシは、フラフラの眼鏡のほうを見て言った



「やっぱり、バールのようなもので

 思いっきり頭を殴ったのが効いてるなー


 多分、こいつはもう長くはないだろう。

 よしデブ、こいつも廃棄しろ

 

 せめてもの有効活用として、

 ゾンビたちの反応が見たい」



デブは唖然としていた



「あっ、あっ、あんたちは悪魔か?

 ナオヒサはまだ生きてる!」



サトシはあきれていた



「おいおい、お前達は自分が何をしたのか

 自覚しているのか?

 

 命を助けてくれた人に対して

 恩を仇で返したんだぞ。

 普通、そんなことをしたら、

 ここから叩き出されるのは当然だろ?

 その覚悟も無しに、あんな狼藉を働いたのか」



「い、いや...さっきのは本当に

 冗談のつもりでした....」



「だったら、これは俺も冗談でやっている事だ。

 冗談なんだから、笑ってやれるだろ?

 ほら、さっさとやれよ」

 


「あ....あ....もう、二度としません」



サトシはイライラしていた



「それは大いに結構な事だが。

 今、俺は、これからではなく、

 ”もうやってしまった事”に対する

 報いの話をしている


 いいから早く、

 このアーウー眼鏡を投げ捨てろデブ!

 いい加減に、往生際が悪すぎて

 イライラしてきたぞ」



唐突に、サトシの隣のゴンさんが舌打ちした


そして、眼鏡をむんずと両手で掴むと

頭上に軽々と持ち上げる



「ああー、うーうーー」



もはや眼鏡は、自分が何をされているのか

自覚していないらしい


サトシは、

ゴンさんに持ち上げられている眼鏡に

たむけの言葉をかけた



「頑張って生き延びろよー

 どの道、脳出血とかで死ぬだろうが

 頑張り次第では、

 短い余生を送れる可能性はまだあるぜ」



ゴンさんは、眼鏡をボーンと放り投げた


2階から投げ捨てられた眼鏡は、

ドサリと前の道路に着地した


とたんに、眼鏡に群がるゾンビたち



「ふむ、すでに死んでいる者には無関心なのに、

 生きている者には即座に反応するのか」



デブのほうを見ると、ヘナヘナと座り込んで

失禁していた


....改めて見ると、年齢はルミと同じくらい、

19とか20とかだろう


冷静に行動していれば、

もっと長生きできただろうに.....


嗚呼、もったいない



 




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