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警官

フェンスに囲まれた小屋の屋根の上に

ヨッシーとジジイが並んで座り、

じっと前方を見つめている。


彼等の前方には砂利浜と

海に向かって注ぐ小さな沢、

そして高さ5メートル程の低い崖があった。

崖の上にはガードレールがあって、

こちらに向かって緩い下り坂になっている

国道があった。


その国道をユラユラと歩いている姿が見える


2人の背後から船のエンジン音が聞こえてきた。

少女たちが「つぎはぎ丸」にたどり着いて、

出発準備はオッケーみたいだ


しかし、ジジイが言った



「ヨッシー、小屋の中に道具があるから

 準備をしよう。

 多分、奴はここまで来ると思う」



ヨッシーが言った



「もしも、奴がここまで来なかったら

 どうすんだ?

 次にここに来る連中の為に、

 こちらから出撃して国道まで追いかけて

 ”ヤる”のか?」



ジジイが答えた



「いや、そこまではやる必要はねえ!

 銃でも持っていれば話は別だがよ....」



2人は、梯子を下りて小屋の中に入った。


小屋の中は本当に質素だ、床板は無くて

外の浜と同じ砂利だ。

上流から引いた塩ビパイプが

高さ60センチ程の位置で固定され、

そのまま砂利の床に向けて清水を

垂れ流しにしている。

その少し手前で塩ビパイプが分岐され、

外のシャワーの水タンクへと繋がっている


しかし、粗末なボロ板で出来た壁には

棚のようなものがしつらえてあって、

そこに”道具”があった


それらを取りながらジジイが言った



「いいか、人型に対しては


 ”いかなる感情も持つな...”


 憎しみも、哀れみも、持つだけ無駄だからだ」



ジジイの左腕の義手が震えているように見える


ヨッシーの心臓はバクバクと高鳴っていた



(小屋の外に出たら、

 奴が居なくなっていればいいのに....)



しかし、それはありえないだろう。

人型は諦めることはない、

何日も何月も何年だって

生きている人間を追い続けるのだ


ジジイは、ロボット義手の左手に、

幾本かの長い棒状の道具を持っていた。

そして右手に持っていた合羽のジャケットの

袋を、ヨッシーに向けて投げた



「こいつを着ろ!人型の体液を防ぐためだ。

 対人型武器の扱い方は前に教えたな?」



///////////////////////////////////////////



小屋から外に出てみると、人型はかなり近くに

来ていた


フェンスの金網ごしにじっとその姿を見つめる

ジジイとヨッシー。

背後からかすかに、ダダダダダッと

船のエンジン音が聞こえる


人型は、国道の下り坂をこちらに向かっていて、

もう、ガードレールのすぐそこだった


ようやくその全貌が目視できるくらいの距離だ


ヨッシーは濡れた服の上に合羽のジャケットを

羽織り、頭にフードを被せた。

ジジイは、対人型武器の準備をしている


それは、中に強力なバネが仕込まれた

鉄製の筒だった


筒を地面に立てて、横から突き出たレバーを

思いっきり下に引く。

筒の根本にはトリガーが付いている。

そして、セットするのは、

モリを数本重ねたような重たい矢だった


矢をセットして発射準備を終えた筒が2本


....とりあえず、それが対人型武器だった



その筒をゆっくりとヨッシーの隣の地面に

置いてから、ジジイが言った



「ヨッシー、お前が矢を撃つんだ。

 俺は、槍で奴の動きを封じるからよ」



ジジイは、槍のような長い銛を持っていた


ヨッシーは黙ってひたすら前を見ている。

そして、ボソっとつぶやいた



「まるで、人間みたいに動くな....」



人型は、まさに人間のような動作で

ガードレールを乗り越えたのだった


その先は、高さ5メートルほどの崖


ふいに、人型はバランスを崩したかのように

前のめりに倒れて崖から滑り落ちた。

そして、小さな岩の破片と共に、勢いよく

地面に叩きつけられた



バンッ!



船のエンジン音に混じって、

嫌な音がかすかに聞こえてくる。

かなりの高さから滑り落ちた人型は、

潰れたかのように砂利の上に突っ伏していた


しかし、何事も無かったかのように

スクッと立ち上がった



....まるで”ギャグ”のような風景だ



しかし、ジジイとヨッシーの表情は

強張ったまま動かない。

当然だろう、笑いごとではないし笑えない


ジジイが押し殺したような声で言った



「これで、奴がここまで来るってのが確定だ」



唐突に、潮風の中に耐えきれないほどの

腐敗臭が混じる


『島』では常にイワシを天日干しして

肥料を作っているので、

2人とも悪臭には慣れているつもりだった。

しかし、人型の発する匂いはどこか異次元な

感じがする



「うぐっ」



恐怖と不快に、ヨッシーは嗚咽した


心臓がまるで、太鼓を叩いているかのように

高鳴っている。

まさに口から飛び出さんばかりだ。

そして、その鼓動に合わせて、

胃の中から酸っぱいものが上がってきた


さらに、目頭が熱くなって

涙がにじみ出てきた



(なんで、こんな世界になっちまってるんだ!

 一体、俺達が何をしたってんだよ)



ふと、横目で隣に立つジジイを見る


長身で、禿頭に白い髭のジジイ、

その表情はまるで、氷のようだった。

鋭い目は、静かな光を湛えてじっと前方を

注視している


そんなジジイを見てヨッシーも立ち直った


目をゴシゴシと擦りながら

絞り出すように言った



「な、なあ、あれって

 警官だったんじゃねえのか?

 ベストを着ているし、

 服の残骸も、あ...青っぽい」



ジジイが答えた。

まるで、感情を失くしたように淡々とした

声に変化している



「ああ、そう見える。

 それに多分、古参だろう。

 つまり、3年前のパンデミック時に人型に

 なっているんだ。

 あのボロボロのなりと

 顔を見りゃあなんとなく分かる....


 例え警官だったとして、最期まで

 誰かを守ろうとしていたんだとしても

 関係ねえ

 

 人型に対しては、

 いかなる感情も持ってはいけない」



と、人型の移動速度が増した


走っているわけではないのだが、どんどんと

こちらへの距離を詰めていく


ヨッシーは無意識のうちに後ずさった


視界に入る、フェンスのひし形の金網の数が

多くなっていく

 

しかし、こちらに向かってくる人型の姿は

どんどん大きくなっていくように思われた



「ヨッシー、足元の武器を拾うんだ!

 やらなけりゃなんねえんだよ!!」



ジジイの大声を受け、

ヨッシーは足元の筒を拾ったのだった




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