性犯罪者の物語4
病院内はザワついていた
テレビ画面と、スマホで見ているネットで
警告が表示されたのだ。
しかし、それらは
イマイチ要領を得ない内容だった
「騒乱において、外傷を受けた場合の対処
1,傷口をよく消毒して、
適切な応急処置を行う
2,周囲の人が、よく監視すること
3,発作が起きた場合は、
拘束するか別室に隔離する処置も必要」
情報の正確性を吟味して、不要な混乱を避ける
公共の放送である以上は重要なことだが、
今は違った。
スピードが命だった
そして、病院内に悲鳴が響き渡る頃には、
サトシとゴンさんと先生は、厨房出口から
脱出を果たしていたのだ
裏路地を走りながら先生が言った
「ハア、ハア、空気感染だったら本当に
ヤバかった。
まだ、救いがあるほうだと思うけど
でも、襲撃者が不死身だとしたら...
ハア、ハア、人類は滅亡してしまう」
サトシが走りながら相槌を打つ
「そうだな、少なくとも俺達が護送バス内で
やらかしたことなんて、もはや
ちっぽけすぎて問題にもならないだろうな!
まあ、人類の何割が生き残るかは
知らねえけど、俺達もその中に入りたいな
ようこそ、”ニューワールド”へ!!」
3人の背後を、襲撃者たちが追いかけて来る。
しかし、彼らは走ることが出来ないみたいだ
グングンと襲撃者たちが引き離されていくが
(でも、俺達は常に走ることは出来ない...
結局、安全な所に籠城して、
救助を待つしかないのか)
かすかに、不快な腐敗臭らしきものが
漂ってくる。
そして、突如、前方に出現する数体の襲撃者!
サトシは、クルリと半回転すると、
今、通り過ぎた横道に入った
周囲は、店舗や会社が入った古いビル群
シャッターが降りていたり
入り口が閉められているのは、
生存者たちが立て籠もっているのだろうか?
先生が言った
「ハア、ハア、
ドアをドンドンと叩いて助けを求めれば
開けてくれるかな?」
「俺だったら、知らない奴は助けないな」
ちゃんと、先生とゴンさんはついてきている。
しかし、再び前方に数体の襲撃者が現れた
後ろを振り返ると、
やはり追いかけて来る襲撃者たち
「くそ、このままでは挟み撃ちか!!」
サトシは、パッと周囲を確認した....
とたんに神経が研ぎ澄まされ、
目に入る多くの情報を冷静に処理する
・・・・・・・・・
すぐ横は『洋食屋』、看板にそう書いてある
見上げると3階建ての鉄筋造り、
1階はシャッターで閉められているが
2階にベランダがある
そして建物のすぐ側に一本の”電柱”
....電柱だ、よし!
・・・・・・・・・
サトシは叫んだ
「先生、俺の背中に乗って電柱を登って!
その次はゴンさんだ、早く!!」
そして、抱え込むように電柱に抱き着くと、
頭を下げて横向きに身を屈めて中腰になった
「了解、サトシさん、ごめん!!」
先生は、即座にサトシの背中を踏みつけて
電柱に登った
人の身長より高い場所に、15センチほどの
”足場ボルト”が突き出ている。
その最初のボルトからは、等間隔の高さに
足場ボルトが続いていて、
電柱を登ることが出来るのだ
先生の次は、ずっしりとした重さが
サトシの背中にのしかかる
熊のような体格のゴンさんだ
すぐそこに、襲撃者が迫っていた。
不快な匂いを発し、血まみれで無言で、
生きた人間とは思えない
頭上、毛むくじゃらの太い腕が
こちらに伸ばされている。
サトシは、ゴンさんの手を取った
とたんに、
ヒョイっと地面を離れるサトシの身体
まるで、コアラの親子のように
ゴンさんの広い背中にしがみつくサトシ
先生は、結構な高さまで登っていて、
心配そうにこちらを見下ろしている
ゴンさんは、サトシを引っ付けたまま
順調に電柱を登っていった。
背負っていたバッグを脇に移動し、
さらに剣スコップもうまくバッグの取っ手に
引っ掛けている
ちなみに、サトシと先生も、
ちゃんとバッグを背負い
バールのようなものも片手に保持したままだ
「おお、すごい腕力だねゴンさん。
それにしても今の俺達、
コアラみたいになってるぜ!
こんな情けない姿、
誰も見ていないといいけどな
よしっ、2階のベランダから中に入ろう」
ベランダには、テーブルや椅子は無かったが
沢山の観葉植物でガーデニングされている。
3人は、まさしく犯罪者らしく静かに侵入した。
電柱から、ベランダの手すりにゆっくり移る
室内へは、豪華な掃き出し窓から入るようだ
外から見える店内は、とてもいい感じだ。
並んだテーブルに、椅子、
そして誰も居ないように見える
3人は、観葉植物の中に溶け込むように
身を隠して中を伺っていた
サトシは苦笑いして小声で言った
「まあ、中に誰か立て籠もっていたとして。
俺達みたいなガチの犯罪者たちに
侵入されるとか、悪夢だよな本当...」
すると、先生が答えた
「ねえ、サトシさん、ゴンさん....
あなたたち二人は拳銃を持っているし、
それに力もある
もしも、誰かが居たとして、その人から
何かを奪ったりとか危害を加えたりとか
するつもりなのかい?
いや、その、助けられているだけの僕が
あなたたちに意見するのも筋違いだけど。
でも、これからの指針というか、
方向性を知っておきたいんだ...
僕も、覚悟を決めるつもりでいるから」
サトシは、先生を見つめた
こけた頬に坊主頭の、元凄腕ハッカー
犯罪者とはいえ、自分やゴンさんとは
別ベクトルの存在だ。
誰かを傷つけたり奪ったりすることに
抵抗があるのは、人間として当たり前だ
そして次に、ゴンさんを見つめる
熊のような体格の、元強盗殺人者
やはり坊主頭で、落ち窪んだ据えた目に、
顔の下半分を覆う無精髭
サトシは言った
「いや、心配はしないでいい、先生
俺達はそんなことはしないつもりだ。
懲役を食らった時点で、
俺達は罪を償う立場なんだ
少なくとも俺は、かつての自分は死んで、
新しく生まれ変わったつもりでいる。
まあ、刑務所に入るつもりは今や
サラサラ無いけどさ、
でも、俺は同じ過ちを繰り返したくない
だから、ここで3人で約束し合おう
欲望のままに行動することなく、
他人と助け合って生き延びることを」
先生は、パッと笑みを浮かべた。
そして、ゴンさんはサトシに頷いた
先生が嬉しそうに言う
「僕らは最高のチームになれるよ!
いや、きっと」




