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人型

それは、子供たちにとっては

3年ぶりの本土上陸になるだろう


「つぎはぎ丸」が着いた場所は、

綺麗な清流が海に流れ込む”取水場”だった。


即席の船着き場が、

切り立った崖下の低い岩場に造られていた。

そこは、防舷材として古タイヤが

吊り下げられ、

さらにアンカーで岩に打ち込んだ

ピットすらあった


スミレが、アイスプライス加工により

輪っかになったロープの先端を

ピットに引っ掛けて、船の係留作業を行った。

船首と船尾からの2本のロープをハの字型に

なるようにして

陸と船の双方のピットに固定すると

船が前後から引っ張られ、安定する


スミレはもとより、子供たちは無言だった


低い岩場のゴツゴツとした細い通路を

通っていく。

今は丁度、干潮時だ。

一行の目の前には、潮が引いた広い浜と

奥にある取水場が見えた


ジジイが言った



「この取水場は、2年前くらいに

 俺と他の連中が作ったんだ。

 心配しなくても、当時でも人型には

 出くわさなかった」



浜は、沢山の細かい石で出来た「砂利浜」で、

取水場は、浜の奥にある

フェンスで囲まれた小屋だった


ジジイが言った



「人型は、基本的に人間がいる場所に集まる。

 この取水場にはめったに人が来ないから

 大丈夫だよ」



しかし、ヨッシーが言った



「でもよ、最近は、人型も変化してて

 放浪するタイプってのが出てきてるんだろ?

 もしも、そいつが来たらどうすんだよ...」



ジジイが言った



「人型に出くわした場合はな、

 俺達が処理するんだよ!

 次にここを使う連中の為に、

 やらなけりゃならない決まりだ」



そう、ジジイは子供たちに

この世界で生きる術を

教えなければならないのだ


万が一、島に水が足りなくなった時には

この取水場を使用しなければならないし、

人型に出くわしたときの対処も

学ぶ必要がある....


そして、ジジイは無言の娘たちを見て言った



「スミレ、リナ、リサ、ここの水は綺麗だから

 水浴びでもしたらいい。

 ヨッシーは、船の水タンクに清水を詰めろ、

 俺は人型が来ないか見張っててやるからよ」



ヨッシー以外の子供たちの顔が輝いた



////////////////////////////////////////////



これで何往復目だろうか?ヨッシーは清水が

入ったポリタンクを船に運んでいた


フェンスで囲まれた小屋の近くには、

小さな沢が海に流れ込んでいる。

ジジイたちは、塩ビパイプを伸ばして

数十メートル先の沢の上流から小屋まで

清水を引いていた。

そして、小屋の外には

加圧ポンプ式のシャワーがあった


最後の水運びを終え、

船から出たヨッシーの目に映るのは、

小屋の屋根の上の見張り台に上がって

油断なく周囲を警戒しているジジイの姿


船着き場の岩場を通って、浜に出て

砂利を歩いてフェンスのほうに向かう


そして、

フェンスの入り口をくぐったヨッシーが

見たのは、水着姿になって水浴びをする

3人娘だった



(おお、清水が光を纏う流れとなって

 滴り落ちておるわ。

 奇跡の工業製品と若い肌は水を弾き

 同時に、俺の心も弾む)



水を運び終えて手持無沙汰のヨッシーは、

小屋を点検している風な感じを醸し出しつつ

横目でチラチラと少女3人を盗み見していた。



ミディアムロングの髪を丹念に洗っているのは

双子姉妹の姉のリナ、

そして、気持ちよさそうに背伸びして

シャワーに当たるショートボブの髪の妹のリサ。

2人は、黒地にスタイリッシュな

水色のラインが入った競泳水着だ


そして、ヨッシーの妹のスミレも、

双子姉妹を真似て服の下に水着を着ていたが、

もちろん、今は服を脱いで

濃紺の競泳水着姿だった


無造作に結んでいた長いストレートの髪を

ほどき、こすからい残念な目を閉じた姿は

どこぞの美少女にすら見える



と、ヨッシーを見つけたリナが言った



「あ、ヨッシー、私たちを盗み見してないで、

 シャワーのポンプをシャカシャカしてよ」



ヨッシーが答えた



「おいおい、濡れちまうだろ?」



リサも言った



「いいじゃんヨッシー、

 シャカシャカついでに

 君も身体を洗いたまえよ。

 服のままでも大丈夫っしょ、すぐに乾くし」



スミレも、こすからい目を半分開けて

相槌を打つ



「にぃも本来は高校生なんだからさ、

 身だしなみにも気を遣ったほうがいいよ。

 身体を清潔に保つのは基本中の基本!」



ヨッシーが答えた



「高校生か、確かに今月から

 そのはずなんだけどよ....

 でも、もはや学校なんて

 昔のドラマやアニメにしかない世界だ。

 どう、高校生らしく振舞えと」



結局、ヨッシーは半分濡れながらも

水タンクのポンプをシャカシャカした


リナがわざと、屈みこんでいる

ヨッシーのほうにシャワーを向けた。


ずぶ濡れになるヨッシー


他の2人の少女は大笑いしたのだった



「リナ、リサ、スミレ、すぐに船に戻れ!

 ヨッシーはこっちに来い!」



ふいに頭上から鋭い声がして、

4人はハッとなった。


少女3人は、それぞれのTシャツを取ると

即座にジジイの言葉に従った。

ヨッシーは頭上を見上げて叫んだ



「どうしたんだジジイ、人型かよ!」



言いながらも、ジジイの言う通りに

小屋の中に入り、梯子を登る


屋根の上にたどり着くと、背後から

フェンスが閉まる音が聞こえた


ジジイが大声で言った



「リナ、2人を連れて船に戻って

 すぐに出られるように準備しろ!

 エンジンを掛けておいてくれ」



背後からリナの返事が聞こえた



「はい!」



ヨッシーが振り向くと、砂利浜を3人が

走り去っていく姿が見えた。

そして隣を向くと、真剣なジジイの横顔



「前を見ろ、国道が海に面している場所だ。

 丁度、下り坂になっているから

 よくわかるだろ?」



ヨッシーは目を凝らした



ジジイの言う通り、前方は

こちらに向かって下り坂になっている

国道だった。

そして、2人の横は高い岸壁がそそり立ち、

そのまま背後の灯台の半島に繋がっている...


つまり、こちらに向かっている国道は

2人の前方で、隆起した岩群を避けるために

内陸へと曲がっているのだ


もしも、人型が来るとしたら2人の前方から

だろう...

人型に視覚があるのかは不明だが、

彼等にも高低差という概念があるようで、

高い崖から飛び降りるようなことはしない


そして、まさにその通りになるだろうと

思われた



ヨッシーが言った



「ああ、ユラユラと歩いている姿が見えるな。

 でも、ここに来るにも、5メートルくらいの

 崖を降りなければならねえが...

そのくらいの高さなら来るかもしれねえな」



ヨッシーはさらに目を凝らして

下り坂をこちらに向かってくる姿を見つめた





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