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青春ドラマのワンシーン

不安と恐怖で押しつぶされそう....てなことは

全然、本当にこれっぽちも無かった


ヨッシーは、まるで心の底から湧き出るような

”高揚感”に浸っていた。

ジジイもそうなのだろう、見ていて分かる


二人とも、これから我が身に降りかかる

危険への恐怖よりも、ようやく海賊どもに

一矢報いることができる喜びのほうが

大きいのだ


ソファーに深々と身を沈め、

長い脚と腕を組んでじっとしているジジイ


並んだソファーに横たわり、ぼんやりと天井を

見つめているヨッシー


それでもなお、二人から湧き上がる闘志が

オーラのように可視化できそうだった。


ヨッシーが言った



「やっぱり俺って、

 どこか頭のネジが飛んでるんだろうな。

 恐怖は理解できるんだが、

 なぜか、身体が喜んでいるかのように

 ワクワクゾクゾクしてきやがる」



目を閉じて、じっとしたままの姿勢で

ジジイが返す


 

「船乗りの血だ、恐怖は感じているのに、 

 それを高揚感だと勘違いしやがる。

 だからこそ、見知らぬ土地を求めて

 海を突き進む。

 途中で海の藻屑となろうが構わねえと

 思っている...


 ただ、俺のように

 長生きはしてみるもんだぜ、ヨッシー」



さらにヨッシーは言った



「そういえば、ムケチン作戦実行班の

 3チームの内訳は....


 ちんかわ氏とマッシュルーム眼鏡の二人が

 『チームアルファ』


 俺とウメさんの二人が『チームブラボー』 


 ジジイとスミレとリナとリサ、そして

 あの性犯罪者の矢之板の5人が

 『チームチャーリー』.....だったよな。


 うん、性犯罪者と一緒なんで、

 明らかにうちの女たちが嫌がりそうだけど

 大丈夫なのかね?」



ジジイは片目だけを開けて言った



「俺は今日、サトシと一緒に作業をしたんだが

 

 まあ、なかなかに素直で一所懸命で

 俺には、”いい奴”に思えたぞ。

 いろいろと気が利くしな

 

 間違いなくあの娘たちは嫌がるだろうが、

 チームチャーリーの有難い労働力なのは

 確かだし、何よりも

 あいつの罪を裁くのは俺達の仕事じゃない。


 それを担当する連中が、犯した罪を償ったと

 判断するなら、それはそれでいいじゃねえか

 

 カールおじさんとヤキタコが言ったように、

 いつの日か

 まっさらになって生まれ変わったあいつを

 暖かく迎え入れてやろう」



「まあ、ジジイがそう言うなら」



どうやら、矢之板智は、

ジジイに気に入られたみたいだ。

ヨッシーの中にも一抹の不安があったが

まあ、ジジイが居るなら大丈夫だろう。


結局、船乗りの性として

二人はすぐにウトウトしはじめ、

短い睡眠に入ったのだった



/////////////////////////////////////////



そして、ついに午後4時を迎えた


この時間に、この日で最後のビーグルマップの

更新がある。

それは、ビーグル社の無数の人工衛星から

撮られた、リアル画像の地図だ。


ビーグルマップの更新の直後、飛行場から、

むけぞうと技術者を乗せた飛行船ドローンが

飛び立った。


『チームアルファ』、出発!


川沿いにあるJAの建物の側の船着き場には、

二隻の船が用意されていた。


一隻はもちろん「つぎはぎ丸」で、

操船するのはジジイだ。

積荷を満載し、バイオエタノールが主成分の

ディーゼル代替燃料で、

燃料タンクを満タンにしている


『チームチャーリー』、出発!


そして、二隻目はモーターボートだ。

「つぎはぎ丸」の半分くらいのサイズで、

なんとか10人は乗れるキャパだ。

操船するのはヨッシーで、

彼の隣にはウメさんが居た


『チームブラボー』、出発!


こうして、3つのチームが同時に

出陣したのだった



グウウウウンッ、グウウウウンッ!!



ヨッシーが操るモーターボートは、

再生プラスチックを成型して造った船体だった。

屋根は無く、

フロントガラスだけが付いたタイプだ。

船外機のエンジンは、ヨッシーの見立てでは

おそらくはバイク用を魔改造したのだろう



「この高回転の吹け上がりの良さは、

 おそらくはそうだろう...

 よくもまあ、こんなものを造れるもんだ」



船体も船外機も、粗削りな仕上がりながら、

川を巡行する用途には十分な性能に思える。


しばらくエンジンを吹かした後、ヨッシーは

クラッチを入れた。

前方の「つぎはぎ丸」に合わせ、

アクセルレバーを少しだけ前に押して

微速前進でゆっくりと離岸する


.....すると、ふいに1人の男が出現した


JAの建物からこちらに向けて走ってくる


”ヤキタコ”だった!!


そう、焼け焦げたスキンヘッドに作務衣の大男



「おーーい、待ってくれーー!!

 君らのために、俺が夜食を作って

 持ってきたぞーー!!」



大声で叫びながら、手には風呂敷に包んだ

夜食を持っている


ヨッシーが前を見ると、

ジジイがエンジンを緩めることなく

高速で川岸から離れようとしててワロタ


結局、ヨッシーも前方の「つぎはぎ丸」に

合わせてアクセルレバーを前に押し出した



「おーーーい、ちょっと待ってくれよー」



川岸から離れ、下流に向けて滑り出す2隻


それを追うように、土手を斜めに降りながら

全力疾走するヤキタコ


かつてユアチューブ動画で見た、

”昔の青春ドラマ”のような光景だ。


最も、それが電車を追うヒロインではなく、

焼け焦げた大男なのが問題なのだが


ヨッシーはつぶやいた



「なんとなく、関わってはいけないような

 気がする....

 いや、むしろ関わったら負けみたいな。


 ジジイのように、気が付いてないフリをして

 全力でこの場を離れるのが正解なのか?」

 


無常の手が、アクセルレバーをさらに

押し出そうとする



!!!



と、その時、ヤキタコに遅れて、JAの建物から

二人の女子と一人の子供が出現したのだった



「団長!そしてキララにトシ坊も...」



とっさにアクセルレバーを戻すヨッシー、

前方のジジイも同じくアクセルを戻した


まるで、昔の青春ドラマのような光景だ


長い黒髪に眼鏡を掛け、学園の制服姿のミカ。

明るいワンレン髪に、ジャージの上下のキララ。

キララに手を引かれながらも全力疾走する

小さなトシ坊。


ヨッシーの大切な、とても大切な3人が

こちらに向かって走ってくる



「おーーーい、来てくれたのかーーー

 ありがとうーーー

 団長ーーー、キララちゃんーーー 

 トシ坊ーーー」



ありったけの大声で叫ぶヨッシー


前方の「つぎはぎ丸」からも、少女たちの

大声が聞こえてくる。

3人の少女は、船縁から身を乗り出していた


土手を降りた川岸は、しばらく

コンクリート製の狭い道状になっているのだが、

ミカとキララとトシ坊はそこを走っていた。


先頭のキララが走りながら叫んだ



「ジィ様ーー、皆をよろしく頼みまっせーー

 ヨッシーにぃやんもーー

 ウメさんもーー

 スミレちゃんとリナねぇとリサねぇを

 しっかり守ってくれなはれーー


 ほんま、皆には感謝してますーー

 ほんま、おおきにーー


 絶対に、ウチらと、また会いましょなーー」



キララに手を引かれていたトシ坊の姿勢が

崩れた。

ハッとして川岸に向けて片手を伸ばすヨッシー


しかし、一番後ろを走っていたミカが、

トシ坊の身体を受け止める。


3人は走るのを諦め、去っていく2隻を

見送った


SS団団長のミカが、透き通るような声を

目一杯張り上げて言った



「みんなーー、絶対に任務を成功させてねーー

 また、ここに帰ってくるんだよーー

 SS団の団員席はまだ空いてるからーー

 忘れないでねーー」



大きく手を振る3人の姿が小さくなっていく


ボートを操船しないといけないので、

ヨッシーは後ろ髪を引かれる思いで

前に向き直った


前方の「つぎはぎ丸」の船尾には

スミレとリサとリナが集まって、川岸に向けて

手を振り続けている。

そして、船の片舷に縮こまっている

性犯罪者サトシの姿が見える


「つぎはぎ丸」のさらに前方には、

リバーサイド同盟の外壁と橋が見えた


橋の下の鉄柵はすでに引き上げられていて、

橋の上では、数人の白装束たちが

手を振っていた



「再び地獄の外界か....」



誰か一人を忘れているような気がしたが、

とりあえずヨッシーは気を引き締めたのだった





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