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取水場

伊勢海老汁......味噌汁の中に、

縦半分に切った伊勢海老の頭と

新鮮な刻みネギが入っている。

そして、尾の部分のプリプリの身は

もちろん刺身で。

一応、双子姉妹のリクエストに応えて

身の一部は素焼きにもしまっせ!

更に、イカの塩辛と白菜のお漬物....


「つぎはぎ丸」の船尾で、囲炉裏を囲む5人


ヨッシーが言った



「ああ、白飯さえあれば、白飯が欲しい」



水筒に入った麦茶を飲みながら

スミレが言った



「いつもながら塩分の採り過ぎが気になる」



リナとリサの双子姉妹は黙々と食べている


ジジイが悔しそうに言った



「ああ、俺も白飯が欲しいわ....

 でもよ、今やそれは

 ”チョコボーラー”からしか手に入らねえし

 アホみたいに高いと来やがる!

 島では水が足りねえから水田は作れねえ上に

 チョコボーラーも漁業が出来るから

 足元見られてんのよ、俺達はよ」



ヨッシーが言った



「このまま、足元見られながら

 独立独歩でやっていくか

 もしくは、あいつらの傘下に入って

 臨海工業地帯でチョコボールを作るかの

 2択しかねえのか!

 俺達の前に広がるのは薔薇色の未来だな、

 ちくしょう」



.....そう、ヨッシーの言う通り、

チョコボーラーの傘下に入るという選択肢も

あるにはあった。

しかし、そのための条件として

彼等から提示されたのは


『島の人口の半分を、労働者として

 臨海工業地帯の工場で就役させる』


という、とうてい受け入れがたいものだった


ふいに、ジジイがヨッシーの頭を

拳でポンッと叩いて言った



「バカヤロウ、今や世界人口はとっくに

 1割を切ってしまっているんだ...

 俺達は生きているだけ幸せなんだよ、

 生意気言うんじゃねえよ!」



とは言ったものの、ジジイの中には子供たちに

不自由させているという負い目があった。

白米はともかく

漁船の燃料となる石油を手に入れるためには、

チョコボーラーとの交易を辞めるわけには

いかないのだ


例え、足元を見られながらの

不利な取引であってもだ



(チョコボーラーの持っている石油にしても、

 アメリカ第七艦隊から足元を見られながら

 手に入れているものだろうし....

 結局は、力のあるもんが幅を利かせるってのは

 いつの時代も変わりねえってことよ)

 


昼飯の後、刺し網が設置してある場所に行き

5人総出で網を回収する。

早朝に別の船が仕掛けたその網には、

数十匹ものアジが突き刺さっていた


採れたアジは、イセエビとは別の魚庫に

投げ入れる。そこには、島の製氷機で作った

氷が敷き詰められていた


こうして、昼下がりの頃には「つぎはぎ丸」

は、漁を終えたのだった


ジジイが言った



「よっしゃ、ついでに

 ここの近くにある取水場に寄っていくか。 

 お前たちは初めて行くことになるよな、

 おいヨッシー、船の操縦はお前がやれ」



「任せろ、ジジイ」



ヨッシーは、ジジイに代わって操舵室の舵輪を

握ることになった。

左手で舵輪を握り、右手はアクセルレバーに

添える。

目の前の窓から見える風景は、

中心に一本のマストが突き立っていて、

さらにそれを支えるシュラウドや、

帆を操作するシートなどのロープ類が

視界の邪魔をする


しかし、目の前には2台のタブレットPCが

並べて置いてあり

それぞれにビーグル社の船舶用GPSシステムが

作動していた


小さいほうには詳細図が表示されており、

危険な浅瀬の位置などが分かるように

なっていた。

大きいほうには広域図が表示され、

さらに他船舶の情報も表示されていた


ギアを前進に入れて

アクセルを微速の位置で合わせて

ヨッシーが言った



「あれは、ジジイが前に

 船長をしていた大型漁船だな。

 沖合で順調にイワシ漁をやってるな....

 

 ん、アレは自衛隊とアメリカ第七の船舶か!

 奴ら、堂々と位置情報を公開してやがる、

 自信満々だなクソが」



ダダダダダ...というエンジン音と共に

隣に立つジジイの声が聞こえる



「ああ、連中は海賊とかに襲われる心配は

 してないだろうからな」



ちなみに島の漁船たちは、グループ内だけの

位置公開設定にしてある。

ビーグル社は、”ビーグルマップ”という

サービスをやっていて、

2時間おきに衛星から撮影された地上の

リアルタイム画像を更新している。

しかし、沿岸以外の海では

それはやっていない.....


外洋には何が潜んでいるのか分からないのだ


そう、「島」は常に海賊という脅威も

抱えているのだ


ジジイが言った



「あそこに見える灯台を目指して突っ走れ」



海に突き出た黒い岩山の天辺に

白い灯台が立っている


そして、その灯台はヨッシーもよく知っていた


かつて、彼が住んでいた漁港町の

外れの灯台だからだ。

ヨッシーはアクセルレバーを操作して

船の速度を上げた


やがて、「つぎはぎ丸」は、

灯台の半島の裏側にたどり着いた。

切り立った崖の麓は、海に向かって凹状に

へこんだ低い岩場になっており、

へこみの中に船着き場があった。


船着き場と言っても、

チェーンで吊り下げられた古タイヤが直接

岩に張り付いているだけのものだ



ジジイが言った



「いいか、船を後進させて速度を落とすのだが

 切のいいところで惰性を利用しろよ」



ヨッシーは、無言で船のギアを後進に入れて

アクセルを吹かして速度を落とした


船の速度が微速になる。

そして、ギアをニュートラルに入れた。

そのまま、惰性と舵操作だけで

船着き場に斜めから侵入する


船首が岩に衝突する前に、ギアを後進に入れて

アクセルを吹かし、舵輪を大きく左に切った


船尾がゆっくりと岩のほうに振れる


そして、「つぎはぎ丸」は、

岩に左舷を向けた平行な状態になったまま、

吊り下げられたタイヤにゆっくりとぶつかって

静止したのだった


 

ジジイが言った



「よっしゃ、上手いぞヨッシー!

 よくやったな」



ヨッシーは思った



(俺だって、これからの世界が

 生易しいものじゃないってことくらい

 分かってるよ。

 だから、身に付けられるものは早く

 モノにしなきゃなんねえんだ!

 勝手ながら、俺はあいつらを守ってやるって

 心に決めてるんだからよ)



こすからい目をした悪党面の少年であっても

その心はヒーローチックなのだ!

 

 


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