学校宿泊
フワリとしたセミロングの髪に切れ長の目、
革ジャン&ジーンズのバイカースタイルの
リナが言った
「私、こいつ知ってる...
5,6年前くらいに皆が大騒ぎしてた。
ていうのも、
当時、私たちが練習してたプールの近くでも
事件を起しててさ」
フワリとしたショートボブの髪に
パッチリした目、ロングTシャツにレギンス姿の
リサが言った
「逮捕された後、裁判で懲役20年くらい
食らってたよね
でも、こいつ関東人でしょ?
なんで、よりによってココに居るの?」
ジジイが答えた
「服役囚ってのは基本的に、
そいつの地元から離れた土地の刑務所に
振り分けられるらしい。
この県にも刑務所があったろ?
3年前、東京の拘置所から、ここの刑務所に
移送されている最中にゾンビパンデミックが
起きてな。
この矢之板智は、紆余曲折を経て
リバーサイド同盟の地に流れ着いたのだ」
白髪にセーターにジーンズ姿の小柄な老婆の
ウメさんが、ジジイの言葉を引き継いだ
「私たちは別に、旧政府の後継でも何でも
ないんだけど。
でも、さすがにこれほどの
凶悪な犯罪を犯した矢之板を、
その罪をチャラにして迎え入れるつもりは
全然なくて。
ここで改めて裁判にかけて、
山林での労役刑を課したのよ。
さて、それとは別に、
受刑者には違う方法でも罪を償う機会が
与えられていてね
旧社会と違って、今の私たちは危険な事を
やる機会がとても多い。
だから、受刑者たちに志願という形で
そういった危険な業務に関わらせて、
その見返りとして
受刑期間の軽減を考慮するって制度を
作っているのよ」
そして、白装束のちんかわむけぞうが続いた
「彼は、去年のセル作戦にも志願して
危険な仮設壁建設に従事し、
高い評価を得ている。
今回の作戦にも志願して実績を作れば、
恐らくは後1,2年程で刑期を終えることが
出来るんだ」
ヨッシーが言った
「あくまでも自分が釈放されたいが為に、
作戦への参加を志願しているってわけね。
だからっていいのかよ、
性犯罪者を野放しにして!!」
ウメさんが言った
「ヨッシー君、
刑を全うしたら、罪は消滅するのよ。
少なくとも、
旧社会と、ここリバーサイド同盟では
そういう決まりなの」
///////////////////////////////////////
時刻はすでに午後9時を過ぎている
宴は終わり、参加者たちの帰宅の為に
バスが用意された。
そして、ヨッシー一行は、すぐに宿泊先に
たどり着き、
バスの中でウメさん達とお別れした。
そこは、中高一貫校だったという巨大な学園の
中で、ショッピングモールから
2キロ程度しか離れていなかった
学園の巨大な建物群の隅っこに
小さな平屋があり、そこは用務員室で
宿泊設備もあるということだった
「ふへへ、この学園は規模が大きいから
用務員が数人居てね、用務員室はデカくて
宿泊部屋とユニットバスがあるぜ!
本来は、十文字邸にお招きするところだが
あいにくまだ準備中でよ。
いや、カナエお嬢も大したお方だ、
ご自身の実家を来賓用の宿泊所に
なさるおつもりなのさ
お嬢は、こう言っておられた
”自分だけが、かつての私有財産を
所有するなんて出来るわけがないでしょ”
ってね。
本当に、清廉潔白なお方さあ
やむを負えず、ここでは皆が旧社会での
私有財産を放棄することになっているが、
ご自身もその決まりに従っておられるのだ」
ヨッシー一行を案内しているのは、
カナエの従者のヤキタコだった。
焼け焦げたスキンヘッドと作務衣の後ろ姿が、
ヨッシーの持つLEDランタンによって
ボンヤリと照らされている
周囲は真っ暗で、辛うじて学園の巨大な建物の
シルエットが分かる。
今、歩いているのは学園の広い校庭なのだろう。
目の前に、平屋の小さな建物が見えてきた
ヨッシーの妹のスミレが問うた
「ねえおじさん、なんで焼け焦げてるの?」
ヤキタコはその問いかけを無視して言った
「ほら、用務員室に着いたぜ!
それじゃあ、ご一同、ゆっくり休んでくれ
俺は徒歩でショッピングモールに帰るぜ。
そんで、明日の8時くらいに迎えに来る。
朝食を取った後、10時に射撃訓練を
受けてもらってから再び休息、
そして夕方からついに出陣だぜ!
うまくやりなよ、ご一同よ」
しかし、ヤキタコは去り際に
皆のほうを振り向いた
「....実は俺は、3年前は
ヒャッハー軍団の一員だったんだ。
そんで、建設重機を使って
ショッピングモールを襲撃したんだ
でも、カナエお嬢に返り討ちにされてさ、
焼け焦げたのはそん時さ。
....お嬢は、そんな俺に
更生するチャンスをくれた。
俺が、本当に取返しの付かない罪を犯す前に
だから、奴のこともよろしく頼む。
俺みたいに、一抹の望みを与えてやってくれ」
・・・・・・・・
宿泊部屋は、12畳の畳敷きの広間だった。
ちゃぶ台があって、押し入れの中には布団、
ヤキタコの言った通りバスルームもあった。
嬉しいことに、スマホの充電器も複数台あった。
もちろん電気も使えて、
和室用のクラシカルな吊り下げ照明の白い光が
煌々と室内を照らしている
スミレとリナとリサは、
早速、順番で入浴することに
ジジイとヨッシーは、二人して
部屋の隅の畳に寝そべった
板張りの天井を見上げながらヨッシーが言った
「ジジイ、結局、あの性犯罪者を
仲間に加えることになったが。
ヤキタコは、奴のことを自分と重ね合わせて
気に掛けてやっているみたいだが、
どうだろうな?
ゾンビパンデミックによって
社会が崩壊した後に犯した罪と、
それ以前の旧社会で犯した罪は、
簡単に比べることは出来ないんじゃないか?」
ヨッシーと同じく、天井をぼんやりと
見つめながらジジイが言った
「ああ、ゾンビパンデミック後なら、
島の連中もリバーサイド同盟の連中も、
何らかの罪を犯している
追いつめられていて、
そうならざるを得ない事情が多分にあった」
そして、ジジイはヨッシーのほうを向いた
「でも、人手が欲しいってのは正直な所だ。
うまく、向こうの制度に乗ることで、
それを”気負いすることなく”
借りることが出来るわけだ
ま、奴には刑期の軽減っていう
明確な目標があるわけだから、
ちゃんとやってくれると思うぜ」
リナが先に風呂に入るみたいで、
スミレとリサがおしゃべりをしている
その声を子守唄に、
ヨッシーはウトウトしてしまった
......
アラシヤマ次男の頭部に
リボルバーを突き付ける夢を見た
「俺は悪くないからな!」
引き金に力を込める
こちらを向いた次男は無表情で、
その死んだ目はぼんやりと自分を見返している
......
ヨッシーが目を覚ますと、
リナとリサがおしゃべりをしていた。
二人とも、浴衣姿だった
清潔な布団と浴衣は、自分達の為に急いで
用意してくれたものだろう。
起き上がりながらヨッシーは言った
「スミレ、相変わらず長風呂なのか?」
リナが答えた
「もう、30分は入ってると思うよ」
隣を見ると、ジジイが畳の上でスヤスヤと
寝ている。
ヨッシーは立ち上がるとズカズカと歩き、
リナとリサの横を通り過ぎて、
バスルームの戸を開けた
目の前には、小さな洗面所がある脱衣場
簡易なラック棚の上には、折りたたまれた
浴衣が3着分と新しいタオルがあって、
床に置かれた籠には脱いだ服が入っている
横のガラス戸は曇っているが、
肌色のスミレのシルエットが浴槽に
浸かっているのが分かる
ヨッシーはどんどんと服を脱いだ
ガラス戸越しにスミレの悲鳴が聞こえる
「いっつも、お前は風呂が長えんだよ!
もう、俺も入るからな」
あまりにも理不尽なことを言いながら、
全裸ヨッシーはガラス戸を開けた
バシャバシャとお湯が飛んでくる
ヨッシーはそれを無視して、ガラス戸を閉め、
タイル床に座り込んで洗面器を取った
「ふざけんな、変態、シスコン、
変態、シスコン、ふざけんな!」
すぐ横の浴槽から語彙の乏しい叫びが聞こえる
ヨッシーは、洗面器を浴槽に突っ込んで
お湯をすくうと、それを一気にかぶった
ふと浴槽のほうを向くと、
お湯から顔だけを出したスミレが
こすからい鋭い目でこちらを睨んでいた
結んでいた長髪はほどかれ、髪がまるで
ワカメのように湯に広がっている
スミレのキンキン声が言った
「後10分、後10分、湯舟に
浸かりたいから!
にぃは、10分間、念入りに石鹸で身体を
洗うこと!」
スミレの風呂好き根性に
苦笑いををするヨッシーだった




