ババアの尻
舞台が「異世界」や「学園」、もしくは
「戦場」や「終末世界」であったとしても、
主人公は常に複数のヒロインに
囲まれているものだ
そう、”ハーレム要素”はヒット作には
絶対に欠かせない条件なのである
ヨッシーは、ネットで見ていたアニメのことを
思い出していた。
(現実は、ハーレム主人公に必須なのは、
女たちのトークに食いついていけるという
特殊能力なのだということが良くわかる)
彼は、本来なら今月から高校1年生の15歳
そして、妹のスミレは13歳で、
キララは14歳
二人の女子中学生の”箸が転んでもおかしい”
テンションはかなりキツいものがあった
まあ、ヨッシーと同い年のリナとリサも大して
変わらないみたいだ。
特にリナは、同じことを言い方を変えて
エンドレスにループさせるという悪癖を
露出していた
17歳だとかいうミカは、
さすがに落ち着いているか?
元々、おとなしい性格なのかもしれない
しかし、繰り広げられるガールズトークの波に
早速、ヨッシーは振り落とされていたのだった
そして、何気に周囲を見渡したヨッシーの目に
飛び込んできたのは、
”ウメさん”だったというわけだ
「ごめん、ちょっと俺は席を外すわ。
何か用があったらマイ・スマホに
連絡を入れてくれ
あ、もう、ちんかわ氏の通貨入りスマホは
スミレに渡しておくから。
キララちゃんも、買いたいものがあったら
遠慮なく使ってくれていいよ」
通貨入りスマホをスミレの前に置き、
グレイテスト.カフェラッテを飲み干し、
フライドポテトの入った箱を
ちゃっかりと掴み取り席を立つヨッシー
そして、スマホで通話をしながら足早に歩く
”白髪の老婆”を追っかけた
こうして、ヨッシーは、
うら若き5人の娘の元を去り
『ババアの尻』を追いかけることになったのだ
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・・・それより少し前・・・
遅い昼の休憩を取った十文字叶は、
会議室を出て小さな給湯室に居た
ビシッとしたシミ一つないスーツに身を包み、
小さな台の上に両手をついて
目の前の壁掛け鏡を睨みつけている
カナエはつぶやいた
「小島さん....私たちに武器の貸与と
船の燃料だけを要求して、戦いは
島の人たちだけでやるつもりでしょうけど
あの人、自分の命を投げ出す気でいるわ」
鏡に映った顔が睨み返してくる
カナエの後ろには、従者ヤキタコが居た。
少し焼け焦げたスキンヘッドの大男で、
作務衣姿に日本刀を背負い、
タブレット端末を持っている
そして、ヤキタコの目は少し潤んでいた
「本当に大した御仁ですな....
でも、同じ男として
その気持ちは痛い程分かります。
自分の命よりも大切な物を守るために、
やらなきゃならない時は、
ヤルのが男という生き物なのです」
カナエは振り向いた
先端が内側に反ったブラウンの長髪、
そして、その顔は優しかった
「そういえば、ヤキタコ...
あなた、昔、このショッピングモールを
守るために、自分の身を挺して
バックホーで突撃したことがあったわね」
カナエはスッと手を伸ばし、
従者の焼け焦げたスキンヘッド頭を
なでなでしながら続けた
「でも、まだ別の手段が無いと
決まったわけじゃないわ!
爆薬を積んだ数隻の船で
例のボフォース艦に特攻するよりも、
もっと良くて確実な方法があるはず
............
とりあえず、私は表のマーケットに行って
珈琲でも飲んで気分を落ち着かせてくる」
そう、なんとここは、ショッピングモールの
従業員エリアだった場所だ。
カナエは、リバーサイド同盟内に何か所も
執務エリアを設けていた。
ビーグル社のCEOであるラッキー氏が保証する
セキュリティー万全の会議ソフトがあるので、
執務は市役所の建物内だけでやる必要はない
それに、このショッピングモールはいわば
”リバーサイド同盟の生誕の地”
であると言える。
表のアミューズメントパークにはカナエの心を
落ち着かせるモノがあるし、
壁の外側の”マンション”からも近い...
カナエは、古巣であるショッピングモールの
執務エリアを好んで使用していたのだった
カナエは、ヤキタコに指示した
「小島さんは、応接室で少し休ませてあげて。
それじゃあヤキタコ、私は表に出るから
”変装セット”を取ってきて。
そして、とっとと部屋から出てって!」
しかし、ヤキタコは言った
「そのことですが、お嬢、実は今日、
表のマーケットで警察が秘密捜査をするとか
大きな動きはしないとのことですが、
とりあえず護衛の者を付けるか、せめて
私が一緒に同行を...」
カナエは、両手で耳を塞いで
頭をブンブンと振って言った
「ああ、もう、うるさい、うるさい!
お願いだから、1人にして頂戴!!」
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ウメさんは白髪の小柄な老婆で、
セーターにジーンズのラフな格好だ。
片手に買い物用の布袋を下げ、
もう片手にスマホを持って耳に当てている
スマホで通話をしている相手は、家族か何かで
買い物忘れでもあるのだろうか?
しかし、それにしても歩く速度が速い....
人込みの間をススッとすり抜けるその動作は、
引退した中学校教師とは思えないほどだ
「ていうか、なんで俺はウメさんを
追っかけているのだろうか?
同年代の疲れるヤングトークよりも、
隔年代の癒しのオールドトークを
求めているとでもいうのか?
もしくは彼女こそ、その二つを備えた
ダブルトークを持っているとでも?
でも、なんだかあの人、何かありそうな
気配がプンプンとする」
ヨッシーの釣り人ジャケットの
ポケットの中には、先ほど買ったばかりの
サバイバルナイフが入っている。
そして、カーゴパンツの膝ポケットの中には、
取水場で警官の人型を倒して手に入れた
M360リボルバーと弾薬入りプラケース
ふと、自分の武器のことが気になりながらも
ヨッシーは、
人込みの中に消えそうになるウメさんを
必死に追いかけた




