泣くなよな 2
ジジイは、「つぎはぎ丸」のエンジンを止めた
そして、右舷で一休みしている孫のスミレに
声を掛けた
「よし、ここら辺だな...
おーい、スミレ、あいつらの
様子を見に行ってくれよ!
ヨッシーの奴、リナとリサを起こすのに
手間取ってやがるみてえだ、
俺はアンカーを落としてくっからよ」
スミレは、鋭い眼差しをジジイに投げると
無言でブリッジの後ろに回り、
エンジンルームの上に登って左舷に行った
ブリッジの前は、帆が折りたたまれた帆桁が
そのままブリッジの屋根に置かれていたり、
シートのロープ類やら、
出っ張った仮眠室やらで
ゴチャゴチャしているからだ
操舵室内の左舷側にあるハッチを空けて
四つん這いの恰好で、仮眠室の中に入るスミレ
.......
彼女が見たのは、低い天井の仮眠室で
膝を折り曲げて上半身を屈めながら、
リナのマッサージをしている兄の姿だった
”天才水泳双子姉妹”の姉であるリナは
うつ伏せの状態で気持ちよさそうに寝そべり、
そのTシャツは背中までまくり上げられている
兄の、”アサシン教団”のような鋭い目は
真剣さに輝いており、
かつ、やけに真面目ぶった口調で何やら
ボソボソと呟いていた
「うん、大腿部の辺りが
非常に凝っている感じがする。
こうして、手のひら全体で強く押したほうが
いいのかもしれない」
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ヨッシーの目の前には、
「人間」という名の美の塊の、
その凝縮された造形美の素晴らしさがあった。
さらに、それを一層際立たせる
薄く強靭な生地で出来た工業製品の、
艶のある黒色
リナとリサの双子姉妹は、
それぞれが別の種目でジュニア記録を
保持している天才スイマーだった
鍛え上げられた非の打ちどころのない筋肉と
15歳の張りのある肌との組み合わせが、
それらを押し付ける工業製品を押し返し、
その”押し押され”のバランスの均衡は
感動的とも言えた
心に突き刺さるようなハイカットの
切れ込みぶりは、
それが背後ではこうも優雅な曲線を
描いているのか!
という驚きを毎回のように与えてくれる
ヨッシーは折り曲げていた膝を少し浮かして、
リナの太ももに当てた手のひらに
力を入れようとした
ふと、双子の妹のほうのリサの声が聞こえた
「ねえ、もしかしてヨッシーさ、
股間が異様に膨らんでない?」
そして、なぜか自分の妹のスミレの声も
聞こえる
「ほんとだ、にぃが勃〇してる!
今、にぃの膝が浮き上がってるから
良くわかるよ!」
ふいに、目の前の尻がクルリと翻り、
ヨッシーの手から逃げた
直後、リナのキンキン声が響いた
「うわ、キモッ、マジでキモイんだけど!
わ、本当だ、角が生えてる、角が生えてる!
マジ、ありえないんですけど」
ヨッシーは、急いで膝を落として上半身を
屈めると、いわれのない不当な非難を
受けているかのような理不尽な表情で
3人を見渡した
乙女座りになって、床に着いた両手で
Tシャツの裾を抑えてこちらを睨んでいるのは、
フワリとしたミディアムロングの髪に
切れ長の目のリナ、
その隣で、正座の姿勢でニヤニヤとこちらを
見ている、フワリとしたボブショートの髪に
卵型のパッチリした目のリサ
さらに、出入り口付近で四つん這いの
恰好のまま
こちらの股間を注視しているのは、
ストレートの髪を後ろで無造作に結んだ
こすからい残念な目のスミレ
ヨッシーはキョドっていた
「え?えっ?何言ってんの?
俺、ぜってえ勃〇してねえし、
まったくキモくないんですけど....」
3人の少女の手が、ヨッシーの股間に向けて
伸ばされる
「おい、やめろって、スミレまで
何やってんだ!」
「絶対に膨らんでたって、ほら、
何隠そうとしてんの?」
「にぃは思春期だからね!
仕方ないと思うし、
別に恥ずかしがることはないよー」
「お状際が悪いんだよ、バレバレなんだから
白状しなっての!」
こうして、しばらく3対1の攻防が
繰り広げられていた矢先
ついにヨッシーが腕を振り回して大声を出した
「めろっしゃ、おわああいぃ!!」
3人の少女は、わずかに後ろにのけぞった
ヨッシーの目元は赤くなっており、
その、こすっからい目は潤んでいた
そして、一瞬、情けない泣き顔を見せた後、
体育座りの状態で小さく身を丸め、
前に組んだ両腕の中に
その顔を沈めてしまったのだった
リナがおずおずと言った
「ちょ、泣くなよな....」
リサが言った
「え?何か私たちが悪いみたくなってない?」
スミレが言った
「あーあ、にぃを泣かしちゃった」
こうして、
『とりあえず泣いたら許される年代』
の恩恵に救いを求めたヨッシーであった....