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アポイントメント

ヨッシーは、ドア枠にもたれかかった姿勢で

腕を組んで、あきれ顔でジジイのほうを見た



「ま、日課とは言え、

 こんな状況でも余裕だなジジイ」



操舵室のフロントの窓の下にある2台の

タブレットPCのうち、大きなほうには

船舶用GPSのプログラムを走らせているが、

小さなほうでリバーサイドラジオを

聴いているのだ。


ちなみに、

こうして船のエンジンを掛けている時間は、

タブレットPCやスマホなどの充電可能時間だ。

仮眠室内の100Vコンセントには、

リナとリサとヨッシーとスミレの4台の

スマホが充電器に繋がっている


充電率100パーセントとなった余裕の

タブレットでラジオを聞きながら

ジジイが言った



「ヨッシー、何を言いに来たか分かるぜ。

 そろそろ、あの例の橋に近いし、

 リバーサイド同盟にも

 アポを取る頃合いだな」



タブレットPCのスタンドと充電器を兼ねる

スピーカーから聞こえてくるのは、

若い女性パーソナリティの

キンキンとした甲高い声だ。


美味しい干し大根についての話題を話している


ジジイは、ラジオアプリを走らせたまま

ビーグルクロームを開いて、

リバーサイド同盟のトップページに飛んだ


そして、そのページにある


”お問い合わせ窓口”


のアイコンに、ポインタを置いた



「ヨッシー、俺は

 操船に集中しないといけねえからお前が話せ。

 別に構えることはねえ、とりあえず

 ありのままに話して構わねえよ


 これから、俺達はリバーサイド同盟の連中に

 自らの運命を委ねるんだ、

 覚悟を決めようぜ」



スピーカーから流れてくるラジオを

聞いていると、警戒心も無くなってしまう....

しかし、これからの自分たちの行動が

吉と出るか凶と出るかは”神のみぞ知る”だ


ヨッシーはジジイの隣に来て、そして頷いた


目の前のフロントガラス越しに、

船縁に座ったリナとリサとスミレの

3人の少女が雑談している姿が見える



(こいつらだけじゃねえ、俺はこれから、

 島の連中の運命も背負うことになるんだ)



ヨッシーの頭の中に、クレーンに吊るされた

村長と山崎氏の姿がよぎった


そして、ついにジジイは、ラジオを切って

お問合せ窓口のアイコンをクリックした


リバーサイドラジオの会話が途切れ、かわりに

オリビア・ニュートン・ジョンの

『そよ風の誘惑』のメロディーが流れる


しばらく後、ふいに、女性の声が応答した


まるで空気を切り裂くような良く通る声が

スピーカーから響いてくる



「はい、お待たせして申し訳ありません!

 こちらは、リバーサイド同盟です」



ヨッシーはあたふたとした



「あ、いつもお世話になっております....

 私は、かつて御社の下流にある漁港町に

 住んでいた者です。

 現在は、沖にある島に避難しておりまして、

 大変混みあった事情になっており、

 是非とも御社のお力添えをお願いしたく

 存じており、他、数名のメンバーと共に

 船で川を遡っている最中にてございます...

 とりあえず、詳細は無事に御社へと

 到着してからお話する所存にて候...」



意味不明な対応をしてしまったが、

通話相手の女性には通じたみたいだ



「〇〇町と、〇〇島の方々ですね、

 ご連絡、誠にありがとうございます。


 実を申しますと、私どもは、

 貴方方とお目にかかれる日を

 心よりお待ち申しあげておりました!


 現在、ご事情により、川を遡って

 当方に向かっておられるということですが、

 我らリバーサイド同盟一同、貴方方を

 大歓迎いたします。

 

 差支えなければ、

 お分かりになる範囲で構いませんので、

 貴方方のおおよその現在位置を

 お教えいただけないでしょうか?

 

 お迎えに伺うことが出来るかもしれません」



ジジイは、大きいほうのタブレットに

表示されているGPS地図を拡大した。

現在地周辺の地名を確認したヨッシーは

それを通話相手に告げた



///////////////////////////////////////////



とりあえず、一方的に要件を告げて、一方的に

通話を切ってしまった。

ヨッシーとジジイはしばらく無言だった。


リバーサイドラジオの

キンキン声のパーソナリティーの

一人会話だけが操舵室に響いている


ようやくジジイが言った



「うん、とりあえず用件は伝わったし

 よくやったと思うぞ、ヨッシー」



ヨッシーは返した



「いや、こうも丁寧に応対してくれるとは

 思わなんだ...

 尋問みたいなことをされると思ってた」



もしかしたら、リバーサイド同盟は

想像していた通りの、まともな場所なのかも

しれない。

豊かで、秩序も保たれている...


ヨッシーが言った



「でも例え、リバーサイド同盟が

 まともだったとしても

 彼等にとって、苦境の最中に居る俺達と

 関わり合いになる意味なんてねえのかもな。

 今現在、自分達が豊かに

 暮らしていけるのなら、

 外の世界なんてどうでもいいだろうし。

 むしろ、余計に首を突っ込んでゴタゴタに

 巻き込まれるリスクだけがあるのかも」



しかし、ジジイがこう返した



「いや、リバーサイド同盟が俺達と

 関わることで、手に入れられるものがある


 それは、交易だ


 連中には今のところ、海産物を手に入れる

 手段はないだろうし、

 俺達の島は、農作物の生産力は低い


 だから、交易によって

 お互いに足りないものを補うことが

 できるんだ!


 まあ、食料としての魚介類も重要だが、

 俺達の一番の目玉商品は、おそらくは

 イワシから作られる魚油と肥料だろう」



ヨッシーはふと笑った



「結局は、いつかリバーサイド同盟と接触する

 機会を伺っていたんじゃねえかジジイ!」



ジジイはニヤリと笑い返したのだった。

そして言った



「さて、そろそろ例の怪し気な中路アーチ橋に

 着く頃だな...


 さっきのアポと同じように、

 つつがなくいけばいいのだがな」




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