悲劇
3年前のあの日、リナとリサの両親が結成した
「都会派」は、「田舎派」から”手打ち”の
打診を受けた
・・・・・・
「田舎派」とは、言うまでもなく
島に元から居た人々と、
漁港町から逃げてきた人々のことだ
そして「都会派」は、東西の大都市圏から
逃げてきた人々で、その主導層は
主に裕福な都会エリートたちから成っていた
「都会派」は、島を自分達で支配して
管理することを目指していた。
どこの馬の骨とも知れない田舎の
漁民や農民よりも、
都会というハイレベルなステージで
戦い続けてきた自分達のほうが、より
管理能力があるのは明白だ
補助金や地方交付金などで、ぬくぬくと
のほほんと暮らしてきた連中に比べ、
自分達は生き馬の目を抜くビジネス界で
身を削り、大組織の中で働き、または
動かしてきたという自負があった
もはや、かつての社会は崩壊してしまったが、
そこで培った「能力」と「実績」の
裏付けがある。
これからは、自分たちこそが
新しい社会を作るための中枢となるのだ!
漁民や農民など、自分達の指示通りに
動いていればいいのだ
「都会派」の主導層は、
そう思い込んでいたのだ
・・・・・・・・
白くボンヤリとしたLED照明に照らされた
低い天井を見上げながら、リナが言った
「そして、私たちの両親は帰ってこなかった
フグ毒....
そう、あの日、田舎派との話し合いの為に
集まった都会派のリーダー達に
料理が振舞われた。
彼等は、ついに田舎派が自分たちの意見を
飲んでくれたのだと思い込み、
すっかりと気を許してしまったのね
でも、料理の中にフグ毒が仕込まれていた
そして始まったのが、都会派狩り」
漁港町出身で、「田舎派」に属していた
ヨッシーとスミレにとって、その時の思い出は
あまりない。
ずっと、家の中に閉じ込められていたからだ
しかし、リナとリサの双子姉妹にとって、
それは、横浜でのゾンビパンデミック発生に
続く悪夢だった
刃物や銃を持った人間同士が殺し合う光景を
目の当たりにした。
「田舎派の中でも、島の診療所の先生は
私たちを匿ってくれて、
両親がフグ毒で死んだことも教えてくれた
そして、ジジイが都会派の生き残りを
何とかして助けようと尽力していることも
知った」
奥から、涙声のリサの声が聞こえた
「ジジイさんは、私たちを助けてくれたんだよ
それは分かってたんだ....
でも、あの人は同時に
田舎派のリーダー格でもあったから、
私たちは、どうしてもあの人を
許すことはできなかった」
スミレは黙っている。
そしてヨッシーが言った
「もちろん気が付いていたさ、リナとリサが
ジジイを憎んでいることくらい
でも、あんな動乱が起きなければ
島にゾンビパンデミックが発生することは
無かったんだ。
島の人たちが団結して、
ちゃんと浜辺の見回りを強化していれば、
漂着した人型なんて
どうってことなかったはずなんだ!」
そう、人型は水に弱い。
「リバーサイド同盟」が引き起こした洪水に
よって、内陸から無数の人型が海に流された。
そして、その一部は島の浜辺に漂着したのだ
長い間海に浸かった人型は、極端に動作が
遅くなり、力も弱まっていた。
ヨッシーの言った通り、きちんと警戒して
対応していれば簡単に駆除はできたはずなのだ
しかし、当時、島はそれどころではなかった
結局、弱体化した人型に噛まれたか
引っ掛かれたかした人間がゾンビ化して、
瞬く間に島にもゾンビパンデミックが
発生してしまったのだ
ヨッシーの声はどんどん大きくなっていった
「あのゾンビパンデミックで、俺は親父を失い、
つまり、ジジイは息子を失ったんだ。
それだけじゃなくて、ジジイは左腕も
失った
一体、何が悪かったんだ?
都会派も、田舎派も、リバーサイド同盟も、
原因の一端を担っている
俺達は、誰かを憎み続けるしかないのかよ」
沈黙....
そして、ヨッシーの腕をギュッと掴む
手があった。
リナは手に力を込めていた
ヨッシーにとって、掴まれた腕の痛みは
リナの心の叫びのように思えた
ついに、ヨッシーはガバッと起き上がり、
隣のリナの身体の上に跨った。
そして、リナの首を両手で絞めたのだ
「ぐ...ぐぐっ...うぐ」
思った以上に細い首を
両手で絞め上げるヨッシー
リナは、ヨッシーの両腕に
自らの両手の爪を食いこませた
天才水泳少女として鍛え上げられていても、
筋力はヨッシーのほうが勝っていた
リナの顔は赤らみ、濡れた前髪が額に
張り付いている。
険しくなった切れ長の目は、
それでもしっかりとヨッシーを見上げ、
睨みつけているようだ
しかし、その形のいい唇は半ば開いて
弱々しい息を吐き始めた
スミレの大声が聞こえる
「ちょっと、にぃ、何やってんの!
リサねぇ、早く2人を止めないと」
リサも慌てていた
「2人とも辞めなさい!!
本当は、皆でリバーサイド同盟のことを
話そうと思ってたのに
なんで、こんなことになってんの?」
しかし、ヨッシーとリナは奇妙な境地に居た
リナの爪が食い込んだヨッシーの腕から
血が滲み出る。
リナは眉間に皺を寄せ、額に脂汗を浮かべ、
そして開いた口から弱々しい息を吐いている。
ヨッシーは、リナの首を絞めながらも
少しづつ前かがみになっていった
2人の顔が近くなっていく
リナの吐いた息と、ヨッシーの吐いた息が
ぶつかり合う...
そして、ヨッシーはリナの口を自らの口で
塞ごうとした
と、二つの手が両側から伸びて、ヨッシーの
両肩を掴み、リナから引き剥したのだった




