夜
ふくよかな体型のユッキーは、
ヨッシーよりも一個年上の16歳だ。
いかにも面倒見が良さそうな風貌で、
その外見に違わず料理が得意だ
彼女はヨッシーをマジマジと見つめて言った
「なんだかいつの間にか
男の顔になったね、アンタも。
元から目つきが悪かったけど、それも今や
精悍だと思えてくるよ」
そして、天才スイマー双子姉妹だ。
ヨッシーと同い年の15歳
姉のリナは、Tシャツにジャージのボトム姿、
フワリとしたセミロングの髪に
切れ長の目をしている
「今朝、チ〇コを触られそうになって
泣きべそを掻いてた男と同一人物とは
思えないね!
頼りにしてるよヨッシー」
妹のリサは、姉と同じ格好で、フワリとした
ショートボブの髪にパッチリした目だ
「うん、いくら武器があったとしても
実際に人型に立ち向かう勇気は
凄いと思うよ。
ありがとうね、ヨッシー」
そして、ヨッシーの妹のスミレ。
子供たちの中で、最年少の13歳
Tシャツにショートパンツ姿、
ストレートの長髪を後ろで無造作に束ね、
小島家特有のこすからい鋭い目だ
「良かったね~、にぃが
女子たちから褒められる姿が見れるなんて、
妹冥利に尽きるよ」
ヨッシーも、女子4人から褒められて悪い気は
しなかった。
リボルバーを片手に持ちながら言った
「まあ、ジジイが言っとおり、
俺は全力で君らを守るつもりだ。
決して真っ先に逃げたり、自分のことだけを
考えたりなんてしないから。
それに、まだまだ諦めるのは早いと思うぜ」
しかし、ウェーブのかかったロン毛の
プリンスが言った
「おいおい、なんでヨッシーだけが拳銃なんて
チートな武器を持たされるんだよ、
なんだか不公平だ!
小島さんの孫だから優遇されてるのか?」
ヨッシーは答えた
「そもそも、この拳銃は、
俺が取水小屋で倒した警官の人型から
手に入れたものだ。
一度、ジジイに渡したけど、
それを返してもらっただけだ」
プリンスは口をつぐむしかなかった
結局、今夜は早く寝ることにした
なんだかんだといろいろあったし、
朝も早く行動しないといけない
ジジイは、「わくわくポート」の2階の
スタッフルームの畳部屋で寝るそうだ
「夜のうちに、また、人型が来るかも
しれねえのに怖くないのか?」
ヨッシーが問うと、ジジイは
あっけらかんと答えた
「船乗りにとって”板後一枚下は地獄”だぜ
まあ、つまり、沖合とか遠海で
漁業をやっていると、
船の外壁を一枚隔てた場所は外洋だ。
投げ出されたら助かりようがない、
要は慣れてんだよ
それは、この外界で生き残っている連中、
「チョコボーラー」や「リバーサイド同盟」
だって同じはずだ」
ヨッシーは納得した。
そして、ジジイの口から「リバーサイド同盟」
という言葉が出たのが少し気になった
ジジイと共に畳部屋で寝るのは、
3馬鹿少年たちと、プリンスだ。
3馬鹿少年たちは、乗っていた機帆船が
今は見張りに使われているので仕方ない。
しかし、プリンスは、ユッキーから
同室をNGされたらしい
(....まあ確かに、女子と一緒に
船の中で寝るとか普通はダメだよな)
ヨッシーは心の中で苦笑いしながら
畳部屋を出ようとした
即座にプリンスが言った
「おい、どこに行くんだヨッシー!
まさか女子しかいない船に、夜這いでも
するつもりか?」
ヨッシーは言った
「いや、あいつらから一緒に寝ようって
言われててさ...
つーのも、拳銃を持っている俺が
一緒に居たほうが安心できるらしくって」
・・・・・・・
一瞬の沈黙の後、プリンスの怒声
「このチート野郎め!!!」
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ヨッシーは階段を降りて1階に来た
手には、魚油を灯したランプ。
コップの中に少量の魚油と芯を入れて
火を灯したものだ。
拳銃は、ズボンの後ろポケットに
押し込むように入れている
階段を降りてすぐに、目の前には
施錠された大きなガラス製のドアがある。
そのドアは、建物の半分くらいを
ぐるりと囲んでいて、
そのさらに外には、鉄格子のシャッターが
下ろされていた。
そして、そこから先は人型がうろつく外界
ランプの光は自分の手元しか照らさず、
真っ暗な外の様子はうかがえない
しかし、2体の人型の残骸が倒れているはずだ
ヨッシーは早足で、建物から直接海に突き出す
渡り廊下へと向かった。
外は、かすかに海風が吹き付け、
人型の腐敗臭はここまで漂ってはいない
「くっそ、やっぱりまだ寒いな」
身を縮こませながら浮桟橋のほうへ
たどり着いた
振り返ると、「わくわくポート」の2階の
片隅の窓から、ボンヤリと光が漏れている
「すまんな、プリンス。
これは俺の意思ではないんだ!
俺は頼まれて来ているのだ、
分かってくれ」
浮桟橋の上に居ると、かすかに揺れを感じる。
この慣れた感触は、すぐに
なんでもなくなるだろう
暗闇で、辛うじて船のシルエットが見える
(確か、右にあるのが「まんぷく丸」で、
左が「つぎはぎ丸」だったはず....
間違えてしまうと、ユッキーと鉢合わせだ
事情を知らないユッキーからしたら、
唐突に俺が出現したら、マジで夜這いだと
思うだろう)
2隻の機帆船は、船殻は同じ型から
造っているので、
一見、全く同じ外見に見える
しかし、ブリッジとエンジンルームの形状が
微妙に違う。
それらは、3年前の動乱で壊れた船から
取り出して、再利用しているからだ。
まさに”つぎはぎ”なのだ
(拳銃を持った自分が、暗闇の中、女子たちの
寝床へと向かう...)
本当に夜這いしている気分になって、
ヨッシーは一人、苦笑いをしたのだった




