コルト・パイソン
改めてヨッシーが居る病室は、
えらく豪華な”完全個室”だった
ノートパソコンが置いてあるデスク、
小さなテーブルに椅子、冷蔵庫、流し台、
トイレとシャワールームすらあった。
やはり彼は、リバーサイド同盟内でも
”英雄”として扱われているのだ。
理由として、リバーサイド同盟側に
人的被害をもたらすことなく海賊共を撃退し、
島との関係を築くことが出来た.....
そして、何よりも単純に、
人々の心を沸かす要素がヨッシーにはあった
『木造船と昔の大砲』で、
近代兵器を持つ海賊共を打ち倒したのだ。
決して圧倒的な力で立ち向かったわけではなく、
犠牲を払いながらも素晴らしい勝利を収めた。
それは、普遍的に人々の心を打つものだった
「ハア、ハア....ヨッシー君、目覚めたのか?」
ナツミとスミレの次に病室に入ってきたのは、
白装束姿のちんかわむけぞうだった。
看護師のアカリが言った
「やっほ、ムケちゃん!すぐに来たわね」
むけぞうは妻に返した
「やっほ、アカリン!
病院から連絡が来て、もう居ても立っても
いられなくなってさ」
ナツミが言った
「あら、むけぞうさん。
来てくださったのね」
どうやら、
ヨッシーが治療を受けていたこの一週間ほどで、
ナツミとむけぞうは
知り合いになっていたらしい。
さらに、スミレも言った
「やっほ、ムケちゃん。
何やら、にぃに対するお見舞い品を
沢山持っているみたいだけど....」
むけぞうは、物が沢山詰まった”手提げ袋”を
掲げて見せた。
しかし同時に、皆に向かって目配せをする
「????」
そして、むけぞうの次に病室に入ってきたのは
....なんと!!
ビシッとしたスーツ姿に、先端が内側に反った
ブラウンの長髪に、類まれなる美貌。
背が高く、
威風堂々としたいで立ちの女性だった
そう、リバーサイド同盟の最高指導者、
”十文字叶”だった
彼女の3歩後ろには、
焼け焦げたスキンヘッドの大男、
つまり従者のヤキタコが控えている。
ナツミは、畏まって深々と頭を下げた
「十文字さん、来てくださって
ありがとうございます。
本当に....改めて、うちの息子と我々の為に
色々と手を尽くして下さって、
心より感謝いたしますわ」
ナツミとスミレは、
ヨッシーが治療を受けている間、
市の中心部にあるホテルに
泊めてもらっていたのだ。
それも、最上階のスウィートルーム!!
カナエは、結んだ口の両端をあげるスマイルを
返した。
そして言った
「お母様、何かご不自由がありましたら、
すぐにおっしゃってくださいね。
我々としても、この地に
英雄たちをお迎えすることが出来て
光栄に思っておりますから」
今まで沈黙していたヨッシーが
ようやく口を開いた
「あ、あの、十文字さん.....
なんか、本当にありがとうございます。
母と妹から聞いたのですが、
僕達を学園に通わせてくださるとか....」
カナエは、にっこりと微笑んだ。
そして、マジマジとヨッシーの顔を見て言った
「ふふふ、ヨッシー君、前よりも更に
男ぶりが増したわね!
君が学園に通うことになったら、
女子たちが君を放っておかないでしょうね
ほんと、なんだか前よりも強く、
君のお祖父さまの面影が感じられるわ....」
彼女の背後では、ヤキタコが目頭を熱くして
ウンウンと頷いていた。
すると、むけぞうが言った
「ああ、ヨッシー君や島の子供たちには、
思う存分、
学園生活をエンジョイしてもらいたい!
なんてったって、
君たちが住まうであろう学生寮には....」
スミレが慌てて言った
「ちょっとムケちゃん、シャラップ!!
今の所、にぃには、学生寮の事は
退院してからのお楽しみってことに
してるから!!」
「おおっ、そうだったのか!
いけねえ、いけねえ」
こうして、しばらく和やかな雰囲気で
談話が続いた。
やがて、カナエが背後のヤキタコに合図をした
ヤキタコが取り出したのは、
奇妙な形をしたハードケースだった
カナエはそれを受け取ると、
ベッドのヨッシーの前に持って行った
「????」
カナエは、改まって言った
「あなたは、危機的な状況においても
冷静で的確な判断を下し、
適切な行動でそれを乗り切ることが出来る。
結果として、
大勢の命を救ってくれるでしょう
.....忘れてはならないのは、我々は
今現在においても、常に悪意のある存在に
取り囲まれているのです」
そして、ハードケースを開いた
中に入っていたのは、一丁のリボルバーだった
『コルト・パイソン 6インチ銃身』
まさに
絵に描いたようなカッコいいリボルバーで、
シルバーステンレス仕上げのフレームに
木製グリップ
リボルバー界のロールス・ロイスと呼ばれる、
美しい仕上げの最上級ロット品だった
海賊の頭が、愛銃として大切にしていたものだ
むけぞうが、カナエの言葉を引き継いで言った
「ええっと、ヨッシー君は知らないと思うが、
こいつは、島を占領していた海賊の頭が
持っていたものだ。
いわゆる、戦利品ってやつだね!
いやあ、見た目通り、
うちのガンスミスが唸るほどの最高級品でね。
38スペシャル弾と、357マグナム弾の
両方が撃てる。
是非とも、君にはこいつを
常に身に付けていて欲しいんだ」
ヨッシーは狼狽した
「ええっと、俺って学生になるんですよね?
実銃を持ったまま登校とかしていいんすか?」
それには、カナエが答えた
「ええ、リバーサイド同盟の大勢の人々が
忘れているけれど、
私達は常に危険に晒されているのよ。
この銃は、私が島の人々から預かったの
そして、先程も言った通り、ヨッシー君は、
この銃を扱うに足る能力を持っているわ。
だから君は、リバーサイド同盟内でも
武装が許可されているの」
(つまりは、
カナエさんやリバーサイド同盟の人たちは、
俺を信頼してくれているわけか)
ヨッシーにも分かっていた
実際に、
外壁に群がる人型の大群を目にしている....
そして、人型だけでなく敵意を持つ人間たち。
壁の内側にすら、
アラシヤマのような連中が居たのだ
ヨッシーの中に、ウメさんの言葉が蘇った
『私達の暮らしている社会が、どれだけ
脆弱なことか』
ヨッシーは言った
「分かりました十文字さん、
俺はこの銃を受け取ることにします」
カナエの持つハードケースから、
シルバーの長銃身リボルバーを取り出す
ベッドに入って上半身だけを起しながら、
ヨッシーはリボルバーを手に取った
すぐさま、ラッチを引いてシリンダーを
スイングアウトさせる。
さすがに、6つの弾倉の中は空っぽだった
弾が入っていないことを確認した後、
ヨッシーはリボルバーを構えて見せた
「ふむ、流石に警察用のチーフリボルバーに
比べると、
重くてサイズも二回りほどもデカいっすね」
カナエが言った
「うん、ハードケースは、
君の左の義足にスッポリと入るように
造ってあるから。
357マグナム弾だっけ?
弾薬が入った箱も同封しているからね
まあ、むけぞうや白装束たちが、
この銃を君が使う機会がないように
頑張ってくれるとは思うけど」
そして、カナエとヤキタコは退出していった
残ったむけぞうは、ヨッシーに向けて
見舞い品が入った手提げ袋を掲げた
「君が退屈しないように、
色々なものを持ってきたさ」
むけぞうは、
ヨッシーに向けて素早くウインクをした
見舞い品の中にはなんと、
ヨッシーの下半身のエネルギーを
発散させるグッズが忍び込ませてあったのだ!




