決意
ヨッシーは、2階の窓から身を乗り出して
1階の外の人型に発砲した。
彼の背後では、
ジジイが懐中電灯で人型を照らしている。
心配されていた弾も不発ではなかった。
しかし、暗闇での激しいマズルフラッシュと
反動で、命中したかどうかは確認できない
そして、人型は急にこちらに向かってきたのだ
至近距離から撃ったにも関わらず
こちらに向かってくる人型を見て、
ヨッシーは驚愕した
「嘘だろ?もしかして外したのか」
ふいに、人型は勢いよく前のめりに倒れ、
2階の窓の真下で地面に突っ伏した
ヨッシーの背後で、ジジイが言った
「やったな、どうやら発砲と同時に
動いたようだが、
ちゃんと弾は命中したぜ、額のど真ん中にな」
懐中電灯に照らされた人型は、
倒れてうつ伏せになっていて、頭部から液体が
流れ出ているように見える
ヨッシーは生まれて初めて銃を撃ったのだが、
その威力に驚いていた。
両手で拳銃を持ったままの姿勢で固まりながら
言った
「やっぱすげえな銃は...
軽く引き金を引くだけで
人型を倒してしまうんだもんな」
ジジイが答えた
「ああ、手に持った刃物で切り付けたり、
鈍器で殴ったりってのは簡単には
いかねえもんだ。
取水場で使ったバネ筒や、改造ボウガン
なんかも、銃に比べれば威力は劣るし
連射もできねえ」
ヨッシーが言った
「人の形をしたものを撃って、
こうやって倒れてるのを見ると、
何とも言えない気持ちだ。
でも、ジジイ、
俺はもうこれからは躊躇なくやれるぜ」
ジジイは、懐中電灯を動かしながら言った
「ああ、これからは....」
!!!!
ジジイは息を飲んだ
窓から右の方向に懐中電灯を動かした瞬間、
こちらに向けて伸ばされた”手”が
照らし出されたのだ
「うわあああ」
ヨッシーは悲鳴を上げてのけぞった
ヨッシーの身体がぶつかりながら、
ジジイが言った
「くそ、もう一体居るぞヨッシー」
ヨッシーは即座に気を取り直して
親指で拳銃のハンマーを起こした。
同時にシリンダーが回って次弾が準備される
(落ち着け....ここは2階だから、
その手がこちらに届くことはない!!!)
懐中電灯に照らされたのは、
髪の長い細身の人型。
...恐らく女性だ
倒れている男性の人型を踏みつけて
2階の窓の真下に来た
ジジイが懐中電灯で真下を照らす
ヨッシーは拳銃を構えた
こちらに向かって両手を広げながら大きく口を
開ける女性の人型
まるで、救いを求めているかのようだ
しかし、乾いてひび割れた眼球の中の瞳は
下を向いている。
ヨッシーは、再び片目を閉じて
拳銃のサイトに視点を合わせた。
その先には、ボヤけた大きく丸い標的
(外すことはない...)
そして、トリガーを引いたのだった
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食堂の中に2発の銃声が響き、
8人の子供たちは恐れおののいていた
強烈な腐敗臭が食堂内に充満している
彼等の視線の先には、
窓に重なるようになっている
ジジイとヨッシーの姿
やがて、ジジイが
懐中電灯をせわしなく動かして外を確認した後、
ようやく2人は窓を閉めて
こちらのほうを向いたのだった
魚油の灯りでボンヤリと照らされた食堂内で
向かい合う、2人と8人....
ヨッシーの手には、小型で短銃身の警察用の
リボルバーが握られている。
子供たちは、その姿を見て、背筋がシャンッと
なってしまった
こすからい鋭い目の”我らがヨッシー”は、
何かを言おうと口をパクパクさせていたが、
ようやく出た言葉は意味不明なものだった
「本場ロサンゼルスでも滅多に見れない
グッドショットだったぜ....」
子供たちは何と答えていいかわからずに
沈黙していたが、
ようやくプリンスが言った
「ええっと、その手に持っているのは拳銃か?
んで、2発撃ったんだな....」
ジジイが答えた
「ああ、2体の人型を一発づつで仕留めた。
大した腕だぜ」
プリンスが興奮したかのようにまくしたてる
「だから俺は落ち着けって皆に
言いたかったんだ!
拳銃があれば、例えヨッシーでなく俺でも
外の人型を倒せたぜ!
いいか、皆、俺達には武器もあるし
この建物に人型が侵入してくることもない、
きっと海賊にも対抗できるはずだ。
だから、希望を捨てるな!」
ウェーブしたロン毛を片手で掻き上げて
熱弁するプリンス、
冷めた視線を彼に向ける子供たち
しかし、長身に禿頭に白い髭のジジイが
子供たちを見渡して言った
「いや、拳銃は強力だが、ヨッシーの覚悟が
決まっていたからこそ命中したんだ。
これからは、拳銃はヨッシーに持たせて
管理してもらう
こいつは、我が身よりもお前たちを守ると
心に決めているからだ」
ヨッシーは、隣のジジイを見上げた
ジジイは、右手に懐中電灯を持っていたが、
左手の3本指の義手をヨッシーの肩に置いた
ヨッシーはジジイに向かって頷いた
そして、4人の少女がヨッシーの元に
集まってきたのだった




