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チート少年

アカリが言った



「私の話を聞きながらでいいから、

 左手を動かしてみて」



ヨッシーの左手は、

ビーグル社のマシン義手になっていた。


今まで全く気が付かなかったのは、

その義手は、神経系に接続されているからだ。


左腕の切断部に手術によって土台が

埋め込まれており、その土台からは

義手本体を取り外すことができる。



「ヨッシー君、キミはもう気が付いていると

 思うけど、この義手は、あなたの

 お祖父さんから頂いたものなのよ。


 神経に繋がっているから、

 自分の思った通りに

 動かせるのはもちろんのこと、

 驚くべきことに触覚もあるはずよ」



アカリの言った通りだった。


義手でシーツを触ってみると、

厚い手袋をしている感じだが、ちゃんと

感触が伝わってくる


ヨッシーは言った



「アカリさん....ジジイの義手が

 俺に伝わった経緯について

 .....お話願えませんか?


 俺が最後にジジイを見たのは

 .......

 火を吹く船で、

 海賊船に突撃しようとしていた光景です」



そして、ヨッシーは少し笑みを浮かべて続けた



「....俺は.....俺は、

 生きた人間の首にナイフを突き刺して

 そのまま切断したり、

 両手を上げて降伏した奴を構わず撃ったり、

 火で焼き殺して、車で撥ね飛ばし

 .....そんな人間なんで。


 だから、要はバリバリの当事者なんで。

 例え凄惨な描写があったとしても、忖度なく

 ありのままをお話頂いて構いませんよ。

どうか.....お願いします」



アカリは頷いた



「そうね、キミは若干15歳って話だけど、

 すでに凄まじい地獄を体験してきたのよね。


 ええ、あなたのお祖父さんはね....

 戦いの翌日に、

 島の浜辺に打ち上げられていたのを

 発見されたの」


 

ヨッシーは、黙ってアカリのほうを見た。

アカリも、ヨッシーの顔をじっと見つめながら

続ける



「お祖父さんの御遺体には、

 胸部に2か所、腹部に1か所の銃創、

 右肩に刃物による切創が確認されたわ。


 他に、海賊達の遺体も数体、

 同じ浜に打ち上げられていたのだけれど。 

 それらは、ほぼ原形を留めていなかったり、

 水ぶくれで酷い状態だったらしいけど。


 でも、ヨッシー君


 お祖父さんの御遺体は、

 とても綺麗な状態だったらしいわ


 ええ、発見した島の人たちの話では、

 本当に生きているかのように見えたらしいの


 その表情もとても穏やかだったって」



ヨッシーは微笑んだ



「ふふっ、流石ジジイだ!」



そう、発見されたジジイの死体は、まるで

先程まで生きていたと思われるほど綺麗だった。

あれほどの大爆発に巻き込まれたというのに、

一体どんな不思議な力が働いたのか?


とにかく、島の人々はすぐにジジイの死体を

お寺さんに運んだ。


『ジジイ』『サブジジイ』『村長』『山崎氏』


この戦いで島のために命を捧げた4人の英雄達


彼らは、島のお寺さんで葬儀が挙げられ、

島民たちに見送られたのであった。

そして、ジジイの着けていた義手は、

ヨッシーに受け継がれることになった


しばらく、

自分の義手を見つめていたヨッシーは

ハッとして言った



「あ!そういえばここってどこなんです?

 まあ、間違いなく

 リバーサイド同盟の市なんでしょうけど」



アカリは笑みを浮かべて言った



「ええ、その通りよ。

 キミは救出された後、島の診療所で適切な

 応急処置を受けた後、

 この病院に運ばれたのよ。


 ここは、マーケットに隣接している病院よ。

 凄く腕のいい外科の先生がいらっしゃってね、

 うちのむけぞうや、宝堂慎太郎も、

 その先生のお世話になったのよ」



ヨッシーが言った



「ああ、あのショッピングモールの!!

 ....うげほっ、げほっ」



アカリは、咳き込んだヨッシーの背中を優しく

さすった。


そして、しばらくしてから言った



「実はその...キミの左手だけじゃなくて、

 左足のほうも見て欲しいんだけど」



「???」



あの時、ボフォース船が撃ってきた砲弾は、

無数のタングステンボールをまき散らした。

それらがヨッシーの”左半分”を貫いたのだ



「も、もしかして!!」



ヨッシーは、下半身に掛かっていたシーツを

剥した。

水色のパジャマっぽい病衣を着せられており、

パジャマのズボンの先、

左足が”マシン義足”だった


それは、左手のマシン義手と同じく3本指で、

やはり神経系と繋がっており、

自分の思い通りに動かすことができる。


左足の金属製の3本指を動かしながら、

ヨッシーは呟いた



「すげえな俺....若干15歳にして、

 本物の海賊っぽくなっちまった」



アカリは、そんなヨッシーの呟きを聞いて

悲壮な表情になった



「ヨッシー君....気を落としちゃあダメよ!


 私たち病院のスタッフが、全力でキミの

 リハビリをサポートするから。


 ビーグル社の義手と義足をもってすれば、

 何の支障もなく日常を送ることが出来るわ」



しかし、ヨッシーは、キョトンとした顔で

アカリを見て言った



「え?全然、気落ちなんかしてないっすよ。


 むしろ、今の俺ってチートじゃないっすか?


 この義手をジジイが着けていたとき、

 すげー便利だなーって思ってたし。


 ....ちょっと、歩いてみていいですかね」



「え、ええ、少しだけね」



アカリは、片手でキャスター付きの点滴台を

持ち、もう片手をヨッシーの肩にかけた。



アカリに支えられてベッドから立つヨッシー



(ちょっと!奥さん....あなたの胸が、

 少し俺の右腕に当たっていますがな!)



1週間ほど昏睡していたヨッシーは、

下半身にエネルギーが満ちていくのを感じた



(いやいやいや、アカリさんは俺の大恩人の

 奥様なのだ!

 邪な考えを持つのは不義に過ぎるぞ!)



頭の中に、東ドイツのホーネッカーと

ソ連のブレジネフのキス画像を思い浮かべる



「うおっと!!!」



ヨッシーは、ヨロヨロとしてしまった


マシン義手とマシン義足の性能は

申し分なくとも、やはり、生死の境を彷徨い

幾多もの手術を受けたその身体は弱っていた。


アカリは、あわててヨッシーを立たせながら

言った



「ちょっとずつ、ちょっとずつでいいのよ。


 慌てることはない、ゆっくりとリハビリを

 こなして体力を回復させないと。

 

 先生もおっしゃっていたわ、

 キミは15歳にしてはとてつもなく強靭な

 肉体を持っているって。


 ちなみに、この義手と義足は、キミの成長に

 合わせてサイズを調整することが可能だから、

 一生の付き合いになるからね」



アカリの言葉に、ヨッシーは思った



(ああ、この頼もしい相棒たちのおかげで、

 俺は、世界中を航海する夢を叶えることが

 出来そうだ!!


 まあ、会う人間には、

 初見で怖がられそうだけどさ


 .....まるで、本物の海賊だぜ)






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