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新世組

『漁港町』の真東には『自然公園』がある


”国破れて山河在り 城春にして草木深し”


かつて、中国の

偉大な詩人である杜甫が詠んだ詩のように、

そこには植物たちの見事な息吹があった。


ちんかわむけぞうとウメさんと

マッシュルーム眼鏡の背後には、

ジャングルのようになった木々.....


しかし、3人の目は、

正面に広がる海を凝視していた。

南東10キロほど先に、『島』が見える


ちんかわむけぞうが言った



「海賊共の船は、3隻全てが破壊されたね。

島に残った海賊共も、全て駆逐されたらしい


 ムケチン作戦は見事に成功したわけだが....


 まあ、ヨッシー君は救出されたという話だが、

 小島さんは未だに行方不明だ」



むけぞうの手には、

通信スマホと双眼鏡があった。


先程まで、双眼鏡で海戦を見守り、

通信スマホで

リバーサイド同盟と通信をしていたのだ


じっと海を見ながらウメさんが呟いた



「総一郎さん....」



ポケット双眼鏡を持ったマッシュルーム眼鏡が

言った



「それにしても、見事な砲塔吹っ飛びだった。

 流石はヨッシー君だ!


 そして、小島さんは、ずっと

 ヨッシー君の為に盾になってくれていた。


 ....ヨッシー君の命が助かって、小島さんも

 本望だと思うよ。

 

 ....えっと、うーん、まだ、小島さんが

 無事である可能性は無くも.....

ごめん、うまく言葉が見つからないよ」



むけぞうとマッシュルーム眼鏡は、ウメさんを

気遣っていた。

しかし、ウメさんは気丈にも微笑んで言った



「ええ、総一郎さんは、

 すでに覚悟をお決めになっていたわ。


 ヨッシー君が無事でいてくれて、

 あの人も心残りは無いでしょう。


 さあ、ムケチン作戦は大成功ね!!

 おめでとう、諸君」



3人が居るのは、

海に突き出した小さな岬だった


下は崖になっていて、海まで降りる階段があり、

岸からは海に突き出した細い堤防が伸びている。


堤防は船着き場にもなっており、

3人が乗ってきたモーターボートが

係留されていた


すると、マッシュルーム眼鏡が言った



「ごめん、ずっと集中して

 海戦を見守っていたから....


今になって催してきた....


ちょっと、森の中に入って用を足して来る」



むけぞうとウメさんは肩をすくめた


ここは人型のうろつく”外界”だ


しかし、漂ってくるのは清涼な木々の香り。

人型がいる世界であることを

忘れてしまいそうだ。


マッシュルーム眼鏡は、肩に22LRの

小ぶりなライフルを背負っている


むけぞうは、ベルトをゴソゴソとして

9ミリ拳銃の入ったホルスターを外した



「人型の気配は微塵も感じないけど。

 やはり、いずれはここに集結してくるだろう


 マッシュさん、念の為に一応、

 こいつを握り締めながらうんこをするんだ」



そして、ホルスターごと拳銃を渡した



「センキュ、出来るだけすぐ戻る」



そう言うと、マッシュルーム眼鏡は

背後の森の中に消えていった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



むけぞうとウメさんは、黙ったまま

岬で佇んでいた。


こちらから見て左、つまり東には

深く切れ込んだ”入り江”があって、対岸には

灯台が建っている。


実は、この入り江の奥には、ヨッシーたちが

人型に出くわした『取水場』があるのだ。


まあ、2人には知る由もない事だ


......と、むけぞうが異変に気が付いた



「ウメさん、左手の灯台のほうを見て下さい!


 ”船”らしきものがこちらにやってきますよ」



むけぞうは、手に持った双眼鏡を目に当てた


灯台の向こう、白いプレジャーボートっぽい船が

まっすぐこちらにやってくる


ウメさんも気が付いた



「海賊共では無いと思うけど....

 一体、こちらに何の用かしら?」



双眼鏡を覗きながらむけぞうが言った



「やってくるのは、何というのか....


流線型のスタイリッシュなタイプで、

 いわゆるパリピご用達っぽい感じの

 レジャー用ボートですね。


 フロント窓が光で反射して、

 中に何人居るのかは分かりませんが。

 多分、船のサイズ的に

 10人は乗れると思います」



やがて、白いプレジャーボートは近くまで

やってきた。


流線型の船体で波を掻き分け、

高速で向かってくる


むけぞうが言った



「まあ、今の世界では、生き残った人間たちが、

 持ち主のいない遺物を

 手に入れるのは容易ですからね。

 

 アレに乗っているのが、

 陽気なパリピだとは限らないですね」



プレジャーボートは、堤防にたどり着いた。


『つぎはぎ丸』よりも小型だが、

広々とした快適なキャビンを持つ、

いかにもな金持ち用のボートだ。


船尾のオープンデッキにも数人が詰めていて、

むけぞうは彼らの恰好に目を見張った


そして、プレジャーボートは、

自分たちのモーターボートの隣に着けた


むけぞうは、抜け目なく観察していた



「船の操縦手を1人残して

 全部で8人か....」



彼らは、続々と船から降りて、

階段を登ってくる


むけぞうは、双眼鏡を地面に下ろし、

通信スマホをポケットに入れた。


やがて、岬に着いた8人は2人と対峙した



「やっぱり、パリピじゃなくて

 陰キャ連中だったな.....」



むけぞうが小さく呟く


彼らは驚くべき”恰好”だった


全員が男で、青と白の”だんだら模様”の

ハッピらしきものを羽織っている。

その下は、まあ、普通の上着にズボンとブーツ


さらに、8人の内、6人が腰に『日本刀』を

差しているのだ


全体的にメガネ率が高めなのだが、

その中の一人のメガネが言った。



「なんじゃあワレー、なんつう恰好しとんじゃ!

 交通誘導員かよワレ、フハハハハ!!」



すると、メガネ仲間の一人が呼応した



「コイツの恰好って、

 夜間巡回のジジイ連中にも見えへん?

 にしてもショボい奴らやの、楽勝ちゃう?」

 

 

むけぞうは、自分自身を指さして答えた



「俺の恰好かね?

 まあ、確かに原色のラインが入った白装束に

 ブラックホールのエンブレム。

 そして、プラスチックのヘルメットだ。

 

 自分でも変わった恰好だとは思うが、

 お前等に言われたかーねぇな」



すると、8人は色めき立った



「お前等って....ワレ、コラ、

 舐めた口の利き方やのう!

 オウ、いてこましたるぞガキが!」


「ショボい若造にババアの分際で。

 なあ、状況分かってんのか?

 こちらは8人、そちらは2人だぜ?


 てか、お前等程度なら、

 俺一人でも余裕で勝てるぜ」



むけぞうは、肩をすくめて言った



「最初に舐めた口を利いたのは

 そっちのほうだろ?


 大体、あんたらは何者で、一体、何の用だ?」



8人の男たちは、むけぞうの態度に

不満のようだ。

多分、思っていた反応と違うのだろう...


そして、むけぞうは、横目でちらりと

ウメさんのほうを見て噴き出しそうになった


警察の出動服に腰に拳銃と軍刀を差しているが、

彼女は、両手を後ろに回してそれらを隠し、

腰を屈めて呆けたような表情になっている。


....一見、無害なお年寄りそのものだった



男たちは、ジリジリと広がって、

むけぞうとウメさんを囲んだ。



(でもまあ、外見で判断するような連中らしい。

 注意も俺にばかり向いているし)



むけぞうは、肩にステンもどきの

サブマシンガンを背負っており、

腰には

柄の長いハンティングナイフを差している


ステンもどきは、

鉄パイプを組み合わせたような形状で

マガジンは真横に突き出している。

連中が、これを銃だと把握しているのかは

不明だ。


だとしても、8人の表情からして、

こちらを舐め切っているのは明白だった


さて、包囲が終わると、

男たちから少し離れた、神経質そうなメガネが

告げた



「いいか、俺達は『新世組』だ!!

 この名を、冥途の土産に持って行くがいい」



むけぞうは、我慢が出来ずに噴き出した



「ちょっ、それはあんまりだろ!!!

 しんせん...しんせいって言ったっけ?

 あまりにもダサすぎだって!!!」



やっぱり彼らは、

幕末に活躍した有名な集団を意識していた


神経質メガネの額に、青筋が浮き出る



「さっきからお前、舐め切った態度だなコラ


 そちらのババアは

 委縮しまくっているようだが、

 お前だけは許さん!


 どの道、

 ”リバーサイド同盟”から来たクズどもは

 根絶やしにしてやる」



ふいに、神経質メガネの口から

『リバーサイド同盟』という単語が飛び出し、

むけぞうは身構えたのだった




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