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闘志

「諦め」と「恐怖」は、

容易に周囲に伝染してしまう。

そして、それらに支配されてしまった集団は

もはや”烏合の衆”と化してしまう


だからこそ、それらに毅然と立ち向かう者が

必要なのだ。

例えその者が身の程知らずの

大バカ野郎であっても、

それが「必要となる時」というものがあるのだ


今がまさしく”その時”だった



「俺がぶち殺しちゃるわ!!」



スタッフルームのドアを勢いよく開け、片手に

警察のリボルバーを持ったヨッシーが叫んだ


8人の子供たちが一斉にこちらを向く


ヨッシーは、ズンズンと食堂の窓へと

進んでいった。

その途中、側にあった椅子を片手で掴むと、

無意味に押し倒した


ガシャンと派手な音を立てて倒れる椅子、

そして、ビクッとなる子供たち


彼のこすからい鋭い目は

爛々たる闘志に燃えて、

歯をきつく食いしばっていた


「目玉が爛々、サクソン人♪」


という替え歌の通りの面構えと言えよう


恐れをなしたかのように、

ヨッシーに道を空ける8人の子供たち


ヨッシーの目の前には、開いた窓があって

その先は漆黒の闇だ。

そして、取水場の時と同じ腐敗臭に

ガタガタという音



(いいか、シングルアクションで

 よく狙いを付けて撃つんだ)



その手に持つのは、スミス&ウェッソンの

M360J 『SAKURA』 という

小型で短銃身のリボルバー


日本の警察官の標準装備品であり、

38スペシャル弾という約9ミリの

口径の弾を発射する。

近距離においては、必要十分な威力なはずだ


そして、拳銃には落下防止のランヤードが

付いていて、それは、ヨッシーの

ズボンのベルトに繋がっている。

ジジイは、取水場で、ランヤードも

ちゃっかりと入手してくれていたのだった


さらに、ヨッシーは怒りを露わにしながらも

トリガーを引く人差し指を

トリガーガードの外に出して、

暴発しないように注意を払っていた


ヨッシーの背後でジジイが言った



「それじゃあ、両手でしっかりと

 銃のグリップを握って窓から身を乗り出せ。

 その後で、指をトリガーに掛けるんだぞ」



開いた窓から漂う濃厚な腐敗臭からして、

人型は相当近くに居るはずだ。

ガタガタという音は、おそらくは鉄格子状の

シャッターにぶつかっている音だろう


ヨッシーは意を決して、窓から身を乗り出した


本当に何も見えない...

鼻にツンとくる匂いにむせそうになる


しかし、長身のジジイが

ヨッシーの背後から長い腕を伸ばし、

手に持った懐中電灯を下に向けた



すぐそこに、人型が居た



集光型のライトに照らされた頭頂は、

ヨッシーの少し左。

2階の窓の下枠から直下の地面までは

約5メートルなので、

恐らく距離は3~4メートル程度だろう


1階の入り口の格子状のシャッターを

掴んでいるように見える


ヨッシーは両手でしっかりと

リボルバーを握って、

人差し指をトリガーに掛けた。

そして、人型の頭頂へと銃口を向けた


背後から、ジジイの声が聞こえる



「分解してゴミを取ったら

 銃は動くようになったが、弾はどうかな?」

 


そう、ジジイとヨッシーは、スタッフルームの

奥の部屋で銃を分解清掃していたのだ


リボルバーというのは、バネと爪だけで

弾倉のシリンダーを回して、ハンマーを

弾薬のケツの雷管に叩きつけて発射する。

非常にシンプルなシステムなので、

とても頑丈で信頼性が高い。


そして弾薬だが、プラケースに入っていたのは

全部で25発だった

 

保存状態が良かったので、

きちんと発射されると思われるが、

もしも弾がダメになっていて

不発だったら本当にカッコ悪い....


とりあえず、ランダムに5発選んで

装填してある。

今回の人型処理では、

この5発の1ラウンドを試してみるつもりだ


ちなみに、このM360J 『SAKURA』は、

シングルアクションとダブルアクションの

両方で発射できる


「シングルアクション」とは、

あらかじめ、親指でハンマーを起こしておく

発射方法だ。

ハンマーをめいいっぱい起こすと、

内部の爪によってその状態でロックされる。

トリガーもギリギリまで引かれた状態になり、

発射時に、少ない力でトリガーを

引くことができる。


「ダブルアクション」とは、

トリガーを引く動作だけで発射する方法だ。

その場合、トリガーを引くとその動作に

連動してハンマーが起きる。

そのままトリガーを引き切ると

ハンマーが雷管を叩く。

トリガーでハンマーを起こすときに

大きな力を要するために、

どうしても力むことになってしまい、

正確に狙いを付けながら銃を保持するのが

難しくなってしまう


つまり、ヨッシーはシングルアクションで

落ち着いて狙いを定めるつもりなのだ



「ロスでは日常茶飯事だぜ、

 ロスでは日常茶飯事なんだ」



ブツブツと独り言を呟きながら

親指でSAKURAのハンマーを起こすヨッシー。

小型で短銃身のリボルバーは、

重量が約400グラム。

やはり鉄の塊なので、ずっしりと重く感じる


ジジイの懐中電灯に照らされた人型は

ふいに、こちらのほうを見上げた


顔に直接貼り付けてあるかのような眼球の残骸、

鼻の盛り上がりの跡。

頭髪も残っていて、ボロボロの服の切れ端が

表皮と一体化しているように見える。

そして、酷い腐敗臭....


恐らくは男性だろう。

もしも、漁港町の人間だったなら

ヨッシーも知っていた人物だろうか?

....でも、わからない


そして、人型は口を大きく開けた



「来るな!!」



ジジイの懐中電灯から漏れた光で、

辛うじて両手に持ったリボルバーの

シルエットが見える


窓から身を乗り出して左を向いてるので、

構えているリボルバーは傾いている


ヨッシーは狙いを定めるために片目を閉じた



(頭部だ、それ以外は意味がない...

 でも、距離はたったの3メートルちょっと


 至近距離もいいとこだろう、

 外すわけないじゃないか!)



漏れた僅かな光を頼りに、

フロントサイトの出っ張りが

リアサイトの切り欠きに収まるように調整する。

光に照らされ、こちらのほうを見上げた人型の

顔の中心から少し上に狙いを定めて...


ヨッシーは、トリガーを引いた



バァンッ!!!



暗闇の中で、マズルフラッシュが派手に光る


リボルバーは、銃口だけでなく

シリンダーと銃身の隙間からも炎が吹き出る。

つまり、暗闇では

銃全体が火を吹いているように見える


そして、銃が小型であるがゆえの結構な反動


しかし、人型はこちらに

向かってきていたのだった




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